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WEBインタビュー一覧
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柏木佑介・早乙女じょうじ
誰もが楽しめるエンターティメントを追求している劇団「ナイスコンプレックス」が、東日本大震災による原発被害で人々が強制退去を余儀なくされた福島県浪江町を、再び「いきものが集まる場所」にする。「浪江でお祭りをしよう!」を目標に2018年から上演している『YAhHoo!!!!』の三度目の上演が決定した。
フリーカル『YAhHoo!!!!』は、東日本大震災に見舞われた福島県浪江町で、ご主人様を待ち続ける、今は妖怪となっている犬の「ヤンスケ」と、福島から遠く離れて暮らさざるを得なくなったヤンスケの飼い主・浜花優治を中心に、様々な境遇に置かれた妖怪と人が「みんな浪江に戻ってこい!」と歌い踊るクライマックスを迎える物語だ。2018年の初演以来、作・演出のキムラ真をはじめとしたスタッフ、キャスト関係者が作品を育て、いつか浪江で上演しよう!という目標のもと、上演を重ねている。
今回の2021年版はコロナ禍の制約を逆手に取り、新たに作品を拡散していく試みを加え、新宿シアターサンモールと、福島県いわき市のいわきpitでの上演が予定されていて、更にバージョンアップした舞台が展開されていく。
そんな作品で初演からヤンスケを演じている柏木佑介と、自身も福島県出身でヤンスケの飼い主/優治の先輩・風露草太を演じる早乙女じょうじが、作品の魅力や演じる役柄への想いなどを語り合ってくれた。
● 柏木佑介(かしわぎ・ゆうすけ)
神奈川県出身。学生時代から舞台を中心に俳優として活動を開始。現在は映像にも活躍の場を広げている。近年の主な舞台作品に『WORLD 〜Change The Sky〜』、銀岩塩 vol.5 FUSIONICAL STAGE『ABSO-METAL2〜群盲の逆襲〜』、舞台版『誰ガ為のアルケミスト』シリーズ等がある。
● 早乙女じょうじ(さおとめ・じょうじ)
福島県出身。ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで注目を集め、高いダンス力を武器に舞台を中心に活躍している。近年の主な舞台作品に『イケメン戦国 THE STAGE』シリーズ、舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜、『ホテル モントブランク』、舞台『DARKNESS HEELS 〜THE LIVE〜』シリーズ、舞台『憂国のモリアーティ』マイクロフト・ホームズ役、等がある。
「浪江でお祭りをしよう!」をより遠くに届けたい
――― キャストとして作品の魅力をどう感じているかから教えて下さい。
柏木「とても愛があって、ご覧になって下さったお客様に温かい気持ちになって帰って頂けるのが一番の魅力の作品です。僕が演じる今は妖怪になってしまった犬のヤンスケと、そのご主人様・優治くんの成長物語としても観て頂けますし、最後のお祭りのシーンで”浪江町はこんなに良い場所なんだよ!”と知ってもらえるのも素晴らしいですね」
早乙女「僕は福島出身ですが、福島とひと言で言っても広いので、浪江町に対する考え方は様々です。もちろん福島出身でない方のそれは更に違うはずなので、この作品をどう捉えてもらえるのか?というのは、はじめは不安もありました。でも作・演出のキムラ真さんの愛が詰まっている作品なので、最終目標の浪江町で上演することに向かって、一歩ずつ近づいていけてると感じています」
――― 2020年の上演予定が残念ながらコロナ禍で中止になり、今の2021年バージョンには「命がイチバン」を最優先に、今だからこその創意工夫が込められているそうですね。
柏木「これまではお祭りのシーンで僕たちも客席に行くし、お客様にも舞台に上がってもらっていたんです。初演の初日には誰も上がって下さらなかったところから、徐々に増えて百人越えの人が舞台に上がってくれるようになって。でも今その演出はできないので、代わりに例えば皆さんに写真を撮って頂いて、それを拡散してもらうことで『浪江でお祭りをしよう!』をより遠くに届けられたらと企画中です」
早乙女「僕は前回、福島公演のみの参加だったので、今回は東京で観てもらう公演に参加できることが嬉しいですし、いまできないことがあるからこそ、新しい試みで作品が劇場から飛び出して、全国に広がっていってくれることに期待しています。妖怪の登場シーンも今回フリーカルになるんだよね?」
柏木「人間は言葉、妖怪は歌にすることで、作品の世界観が更に壮大になるとキムラさんがおっしゃっていて、楽曲も増えるんです。初演から再演の時にも結構曲が変わって既に相当壮大になっていたと思うんですけど、そこが更に深まるということなので、僕らもパワーアップしていかないといけないなと。でも『フリーカル=復音劇』というジャンルも、そもそもキムラさんが創られたもので、“歌は上手い人だけが歌うものじゃなくて、楽しいから歌うもの”という信念があるので、楽しくやりたいです」
早乙女「ミュージカルでなくフリーカルとして、“何よりも気持ちを大切に歌う、楽しいから歌う!”ことを大切に、愛を持ってやりたいね。それが浪江町での上演につながっていくと思うから」
柏木「僕自身もミュージカルって言われると緊張しちゃうので、音程を気にせずその時の気持ちで思いっきり歌い踊りたいです! ミュージカルの仕事が来なくなるんじゃないか?っていうのが心配なんだけど(爆笑)」
「役者としてはキムラさんが泣いたら勝ちなんです」
――― 演じる役柄についてはいかがですか?
柏木「ヤンスケは僕とキムラさんで創り上げてきた、一心同体も同然の役柄で、キムラさんも僕にあてがきをしてくださったと言ってくれているだけに、ヤンスケを語るのってすごく恥ずかしいんですよ(笑)。でもやっぱり何よりも大切にしているのは、ご主人様への愛です。残されてしまった動物たちの家族への愛もそうですし、愛を一番心がけてはいますが……うーん、なんか恥ずかしい!(笑)」
早乙女「僕はそのご主人様の先輩にあたる役を演じますが、震災後の浪江町、故郷に対する熱い思いをしっかりと届けないといけないなという、福島出身者として責任も感じます。特に脚本に浪江町の人たちの気持ちを代弁してくださっているなぁという台詞がたくさん書かれているので、その一つひとつの台詞を大事にして『福島は元気だよ!』というメッセージを届ける、大切な役をいただいたと思っています」
――― 演出のキムラさんとはどんなやり取りをされているのでしょうか?
柏木「キムラさんってあまり“こうやって”とわかりやすく指示して下さる演出家ではなくて、役者に気づいて欲しいという演出をなさる方なので、僕ら役者としてはキムラさんが泣いたら勝ちなんです!」
早乙女「そうそう、泣いたり笑ったりね」
柏木「キムラさんが感情を出してくださったら僕らが勝ちなので、ここはこうしなさいと押さえつけられない代わりに、僕らが捜していく作業が大切で、楽しい稽古場でもあります。どこまでも上を目指せるひとつのモチベーションにもつながっていますね。ある意味キムラさんが一番最初のお客さんになってくれるので、キムラさんの感情が動いてくれることを目指しています」
早乙女「役者ができることを信じてくれていて、答えをちゃんと出すと思ったからこそ、この役を与えたんだよという信頼感を感じる、だからこそこの作品に呼んでもらえたんだから、それに応えたいという気持ちになりますね。ひとり一人がそう感じて役に挑んでいるから、稽古場もすごく楽しいよね」
柏木「楽しいですね!」
『YAhHoo!!!!』に込められた意味につながるラストシーン
――― その中で、お二人から作品の「ここが見どころです」とか「このポイントは見逃さないで!」といったオススメはありますか?
柏木「いっぱいあるんだけど、僕はこの作品をやっている最中はずっとご主人様のことを考えているので、やっぱりラストシーンは自分としてもすごく大切にしています。お祭りのシーンや、楽しいシーンでもおススメはたくさんあるんですけど、ひとつ挙げるとしたらそこですね」
早乙女「僕はタイトルが素晴らしいと思っているんです。この『YAhHoo!!!!』が今言っていたラストシーンに見事につながります。これは観ていただかないとわからないので、絶対に皆さん観に来て下さいね!『YAhHoo!!!!』に込められた意味にも注目して観て欲しいです」
――― それを感じ取っていただいて、更に作品が広がって続いていくことに期待していますが、では楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。
柏木「続投のキャストに新キャストも加わって、曲もリニューアルされますし、2021年だからこその形もありますので、また新しい今年だけの『YAhHoo!!!!』をご覧いただけると思います。この物語をたくさんの方々に届けてこの先につながるように僕たちは頑張るだけなので、是非楽しみに待っていて欲しいです」
早乙女「この作品のひとつの見どころでもあるお祭りのシーンで、祭って毎年あって、好きな人は毎年行って楽しむし、初めて行く人は初めてでも楽しいですよね。ですから初演や再演を観た方にはまたパワーアップしたお祭りを観に来て欲しいですし、初めての方には“こんなに楽しいお祭りがあるんだよ”と知っていただけたら嬉しいです。
僕らはその為に頑張りますし、いま、こんな情勢でどうしても世の中が暗いですよね。そんな中で、この作品を通して色々な感情を持って帰っていただいて、浄化されてハッピーな気持ちになっていただけたらと思っています!今年はお客様と一緒に歌うのは難しいですが、心では皆で歌って2021年版『YAhHoo!!!!』を楽しんで頂きたいです!」
(取材・文:橘 涼香 撮影:間野真由美)