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柳家喬太郎・田中真弓・本田誠人

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結成20年を迎えたペテカンならではの、笑いと深みのある作品を目指して

披露宴の最中に大波乱! 家族をテーマに描く上質なコメディー

“映画のような演劇を”というキーワードを掲げて活動するペテカンの結成20周年記念公演『この素晴らしき世界』は、家族をテーマにした軽妙かつ上質なコメディー。物語の中心となる三兄妹の叔父&叔母役を、落語家の柳家喬太郎と、近年のペテカン作品ではお馴染みの田中真弓が演じるのも話題の1つだ。家族や親戚同士ならではの“あるある”を散りばめながら普遍的なテーマを描く今作について、脚本・演出を手がける本田誠人を加えた3人に話を聞いた。

PROFILE

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)のプロフィール画像

● 柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
1963年生まれ、東京都出身。89年に柳家さん喬に入門、00年に12人抜きで真打昇進を果たす。新作落語を中心に古典も数多く手がける。主な受賞歴に、NHK新人演芸大賞落語部門大賞(98年)、国立演芸場花形演芸会大賞(05年、06年、07年)、芸術選奨文部科学大臣新人賞・大衆芸能部門(06年)などがある。

田中真弓(たなか・まゆみ)のプロフィール画像

● 田中真弓(たなか・まゆみ)
1955年生まれ、東京都出身。青山学院女子短期大学卒業後、テアトル・エコーに所属。舞台での経験を積みながら、78年に声優デビュー。80年代から現在まで、数多くのアニメ作品でメインキャラクターの声を務め、ナレーションや洋画の吹き替えでも活躍。88年に永井寛孝、竹田えりと結成した“おっ、ぺれった”もマイペースに活動を続けている。

本田誠人(ほんだ・まこと)のプロフィール画像

● 本田誠人(ほんだ・まこと)
1974年生まれ、宮崎県出身。高校時代に「ダウンタウンの全九州お笑い選手権」でグランプリを獲得。舞台芸術学院卒業後、95年に同期の濱田龍司らとペテカンを旗揚げ。以降、全作品の作・演出を手がけながら、俳優としても活動する。並行して、外部作品の脚本・演出や出演も意欲的に行っている。

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――― 1年前に父親を亡くした三兄妹の長女。その結婚披露宴の最中に母が倒れるというハプニングが起こり、控え室に集まった家族や親族たちは、それまで避けてきた話題や今後のことについて話し始める……そんな筋書きをコメディータッチで描くのが『この素晴らしき世界』である。

本田「2011年に作った『青に白』は葬儀が舞台のお話で、2013年の『上手に笑えないまさこさん』は結婚披露宴会場が舞台という真逆の設定だったのですが、その両方の要素をミックスしたら面白いんじゃないかというのが最初の発想でした。そして、何事もなければおめでたい席で終わるはずだった披露宴が、互いに本音をぶつけ合わざるをえない方向に転がっていく。そういう状況を作ってみたいと思ったんです。そこで“うちの親戚にもこういう人いる!”とか、“こういう一言って、つい言っちゃうよね……”みたいなものが積み重なっていく時間にしたいなと」

――― そんな今作で同性愛疑惑が噂されるアル中の叔父を演じる柳家喬太郎は、本田が共同脚本で関わる映画(吉野竜平監督『スプリング、ハズ、カム』来年公開予定)で主演を務めており、「以前からペテカンの作品に出ていただきたいと思っていた」という本田のオファーで今回の出演となった。

柳家「普段からお芝居は好きでよく観に行くんです。ペテカンさんのこともお名前は存じ上げていて、とっても面白いという評判をずっと聞いていました。それで、たまたま昇太兄さん(春風亭昇太)がペテカンさんの舞台に出るというので初めて拝見したら(2012年『ワルツ』)、やっぱりすごく面白かった。
そしたら今度は自分がオファーをいただいて、そんなことがあるなんて思ってもいませんでしたから、ありがたくお受けしました。お芝居の経験は2〜3回ありますが、いわゆる客演という形で劇団の仲間に入れてもらうのは今回が初めてなので、どんな感じになるのか楽しみです。やっぱり何でも高座に活きると思うので」

本田「喬太郎師匠とお会いしたとき、台詞はなるべく少なめにしてほしいって冗談まじりで言われていたんですけど、書いているうちにどんどん増えちゃって(笑)。少なくしなきゃと思っていても、喬太郎師匠に当て書きすると僕もつい楽しくなって、おしゃべりな役になってしまいました(笑)」

柳家「一種の詐欺ですね(笑)。映画の方はどこにでもいる普通のいいお父さんの役で、こちらはアル中で親戚から煙たがられているおじさん。それが裏表みたいな感じで面白いなという気がしています」

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――― そして、前出の『青に白』を筆頭に、ペテカン作品の常連キャストとなっているのが田中真弓。ペテカンのメンバーである四條久美子(今作では三兄妹の長女を演じる)が田中の大ファンだったことから、いろいろな縁がつながってペテカンとの深い関わりが生まれた。

本田「僕はアニメを全然観ないので、声優さんは芝居がちょっと大きいというか、声を作った芝居をするものだと勝手にイメージしていました。でも、四條に連れられて真弓さんの出ている舞台を観に行ったとき、“あのおばちゃん、面白い!”と思って、初対面ですぐ、ペテカンの舞台に出てほしいってお願いしたんです」

田中「アニメの人なんてたぶんあまり好きじゃないだろうなって思ってましたけどね(笑)。『青に白』の役は私に当てて書いてくださったって言うんですけど、それまで全然やったことのない重たい役で、とても意外というか新鮮だったんです。声優の私を知らないからこそ、こういうふうに書いていただけたのかなという気がしました」

――― もともとは舞台出身の田中にとって、ペテカンで演じることは役者として大きな意味を持つという。

田中「私は中学高校の頃から演劇をやっていて、ずっと“声を張れ”って言われてきたんです。それこそシェイクスピアとかだったら、何行もの台詞を息継ぎなしで滑舌良くしゃべれるのが偉い、みたいな。しかも声優業になったら、すべての言葉が際立って聞こえないと仕事にならない世界。でもペテカンの人たちの芝居は、ほんとにそこら辺にいる人たちがしゃべるように、みんながごく自然に演じている。そこに私が入ると、そんなつもりはなくても“声が大きい”とか、“そんなにはっきりしゃべる奴はいない”って言われて……。ちゃんと伝えなきゃと思って言葉を飾ってしまうことで、逆に伝わらなくなることもあるのに、誇張した表現が当たり前になっていたんですね。
 自分がそういうヤバい方向に行ってるなというのはずっと感じていたので、ペテカンでちゃんとダメ出しをしてもらいながら、馬車馬のように舞台をやって落ち着かせています。そういうのって鍛えられないとわからないですから」

柳家「僕ら落語家もしゃべる商売ですけど、声優さんと違って1人でしゃべる仕事なので、人と絡む経験が普段はないんです。だから、人の台詞を聞いていることが苦手で。前にお芝居やらせてもらったとき、演出の人に“喬太郎さん、1人でやってますね”って言われてハッとしたんです。相手役の台詞を聞いて返しているつもりでも、1人でやっちゃってたんですね。噺家だからそれが染み込んじゃってる。それをどうやったらいいのかっていう方法論を、どういうふうにまた覚えていくのか。今回は舞台でお芝居するのも何年かぶりですから不安もありますが、やっぱり楽しみですね」

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――― そう話す2人以外にも多くの客演を迎え、ペテカンの役者陣と共にテンポ感のある舞台を作り上げる。幅広い世代のツボにはまる仕上がりを楽しみにしたい。

田中「私はもともと喜劇が好きで、それもクレージーキャッツや『シャボン玉ホリデー』みたいな、いわゆるテレビ的な喜劇がとにかく好きだったんです。ガチョーン!ドヒャー!みたいな。でもペテカンの皆さんとご一緒していると、喜劇ってそういうことじゃないのかなっていうか、笑いどころが全然違ってきて、そういう意味でもすごく楽しいんです。それで今回はどういう役なんだろうと思ったら、誰も名前をよく知らない“川越のおばちゃん”だって? もう意味がわからな〜い!(笑) そんなわけで、私自身がすごく楽しみにしている舞台です。ぜひご覧ください」

柳家「演劇でしか表現できないことってたくさんあると思うんですよ。そういうものを、落語ファンにも面白がってもらいたい。特に今回は、新作落語なんかが好きな人は一層入り込みやすいお芝居になるんじゃないかという気がします。そういう意味では、僕も意識しないで演じていいのかなと。これをきっかけに落語ファンは演劇も好きになってほしいし、演劇ファンは落語にも来てもらいたいですね」

本田「家族にまつわるお話を描いた今回の舞台で、喬太郎師匠と真弓さんは年配者としてのキーパーソンという感じはすごくあります。家族をテーマにした作品は、ドラマや映画でもたくさんありますが、今回は20周年を迎えたペテカンならではのものをお届けしたいと思っています。みんながお母さんのことを心配しながらも、それぞれの思いや距離感、諦めなど、いろんなものをぶつけ合う。それをただリアルに描くと本当にギスギスしてしまいますけど、そこはコメディーとして笑えるペテカンらしさを出していきたいですね」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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