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WEBインタビュー一覧
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上原咲季・植田温子・木谷仁美・中沢千尋
劇団BDPは児童劇団員が成長しても俳優として活躍できる場を提供したいと創設され、ミュージカルを中心に年間50公演以上の質の高い舞台を発表してきた。2021年5月の最新公演では2018年以来4度目となる『彼女たち』。全国大会にも出場する名門高校の演劇部を舞台に、アメリカの魔女裁判を描いたアーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』と、突然現れた1人の転校生によってあぶり出された“見えない何か”が嫉妬や妬み、欲望など、様々な感情へと変化して彼女達を襲っていく。演じるのは児童劇団で舞台経験を積んできたBDPアカデミーの劇団員たち。奇しくも物語の設定と同世代となる彼女達のエネルギーが果たしてどの様な化学反応を生み出すのか? ダブルキャストで主役の転校生を演じる上原咲季、植田温子の2人、そして演劇部の部長役の木谷仁美と演出・振付を担当する中沢千尋の4人に公演に向けた意気込みを聞いた。
● 上原咲季(うえはら・さき)
2000年7月30日生まれ、神奈川県出身。
BDPアカデミー所属。主な出演作品に2018年『彼女たち』主役 須崎藍羅役、『緑の村の物語』、『ピエロ人形の詩』、『パパからもらった宝もの』など。
● 植田温子(うえだ・あつこ)
2000年2月10日生まれ、北海道出身。
BDPアカデミー所属。主な出演作品に『飴屋の夜に・・・』、『KUSHINADA』、『あまんじゃくの桜貝』、『魔女バンバ』主役 バンバ役など。
● 木谷仁美(きや・ひとみ)
1999年4月21日生まれ、神奈川県出身。
BDPアカデミー所属。主な出演作品に『KUSHINADA』、『姫神楽』、『小さな貴婦人』、2018年『彼女たち』など。
● 中沢千尋(なかざわ・ちひろ)
北海道出身。
劇団BDPプラス所属。NYにダンス留学し、モダンダンスをニーナ・ブイソン氏に師事。RADIntermediate取得。劇団BDPならびに児童劇団『大きな夢』では数多くの作品で演出・振付を担当。
現代の社会問題も盛り込みたい
―――3年ぶりに再演となる本作はどの様な舞台になるのでしょうか?
中沢「本作は高校演劇部の生徒たちがアーサー・ミラーの『るつぼ』という戯曲を公演で発表することから始まります。1600年代のアメリカで実際に起きたセイラム魔女裁判をアーサー・ミラーが描いたもので、劇を通して魔女裁判を疑似体験することによって、演劇部員たちが色んな感情に飲み込まれていくという作品です。
初演はストレートプレイでしたが、2018年に改作してミュージカルになりました。今回、演出を担当しますが、この作品が持つ世界をいかに壊さずにさらにグレードアップできるか。初演の時からもネットの発達が進んでいるので、SNSを通したいじめなど現代の社会問題になっている事もおりまぜながら思春期の心の葛藤を描けたらと思っています。演じるのも若い彼女たちなので、その溢れるエネルギーをいかに出していくかが課題です」
ナイフの様なスリルがある
―――本作を演じることが決まって率直なお気持ちを聞かせてください。
植田「2018年公演の上原さん演じる転校生の須崎藍羅を観て、BDPアカデミーに入りたいと思ったほどでしたので、今回上原さんとダブルキャストで須崎を演じられるのは夢のようです。
初演を観るまではアーサー・ミラーの『るつぼ』も魔女裁判の事も知らなかったのですが、全く予備知識がなくてもすっとストーリーの中に入ることができました。舞台ではリアルな女子高生ならではの空気感といいましょうか。嫉妬や嫌悪など言葉では表現できないビリビリとした空気が流れていて、本当にその場にいるような感覚になる緊張感と面白さが混ざった不思議な感覚で、自分もここに立ってみたい!という思いを強く持っていました」
上原「劇団BDPでは比較的ファンタジーの要素を持った作品が多い中で、リアルな高校生たちの姿を描く本作は珍しいと感じました。リアルな女子高生の等身大の姿が描かれていて、多感な時期だからこそ生まれる葛藤や未熟だからこそ露呈してしまう人間の嫌な部分などが、ある意味ナイフの様に物語にスリルを加えていると思います。
3年前の前回公演では台詞の中に『マジ卍(まじまんじ)』といった当時女子高生の間で流行った言葉も入っていて(笑)、さすがに今回は時代に合わせた言葉になっていると思いますが、それだけ時代を切り取った作品とも言えますね。一見すると複雑で気難しい話に見えるかもしれませんが、歌やダンスが入ることで目でも楽しめるので、誰もがすっとその世界に入っていけると思います」
木谷「私が演じる演劇部部長の芳沢は部活に対してとても強いこだわりを持っていて、部員にも厳しさを求める姿勢から、転校生の須崎とはぶつかる部分も多く、今までにない考え方や行動を起こす彼女に対して全力で制御しようとします。しかしうまく制御できないもどかしさや苛立ちを抱えているので、その部分をどう表現できるかが役作りをする上で大切になってくるのではないかと思います。
特にネットいじめの問題はSNSという道具を通じて簡単に投げかけた言葉がどれだけ人間を傷つけ、追い込むものなのかという部分にもスポットを当てているので、本作を通じて問題提起ができればなとも思っています」
衝突や失敗を乗り越えて明るい道筋を見せたい
―――思春期の高校生が持つ繊細で不安定な感情が舞台を通してどの様に変化していくのかに注目したいです。
中沢「確かにそうですね。若い子達はポジティブな精神状態にいればすごく明るくていい子達なのですが、一度、負の精神状態になってしまうと、一気に傾いてしまう。それをどの様に修正していくかという過程が1つ大切になってくるのかなと。まだ世の中を知らない思春期ならではの視野の狭さが『私は誰からも愛されていない』という思い込みに陥りやすくなりますが、そこから救えるのは家族や仲間の愛や絆。その事に彼女達が幾多の衝突や失敗を乗り越えて最後には気付いていくという明るい道筋を創り出していければと思います。また本作の特徴として劇中劇があります。演劇部員一人ひとりがそれぞれの役を演じることで、葛藤しながらも、知られざる新しい自分の存在に気付いていくというのも見どころの1つです」
上原「演じていて感じたことですが、転校生の須崎藍羅はどこか孤独で誰とも交わろうとせず、自我が強いイメージがありますが、1年前に亡くなった兄の後ろ姿を追い求めている一途で純粋な部分があると感じました。正義感に溢れた子だからこそ、裏目に出てしまって冷たい子という印象を持たれますが、物語が進む中で徐々に彼女の愛らしい部分が見え隠れするはずです。人間の表面に出ている部分はほんの僅かで、本当の姿は簡単には分からないのだという、物事の真理も暗に伝えてくれる作品だと思います。
植田さんはすごく女性的で、私にない物を持っているので、きっと私とはまた違う須崎藍羅を演じてくれると楽しみにしています」
植田「もうすごいプレッシャーです!(笑)
劇中劇というある意味“一人二役”を演じる事は難しくもありますが、大きなチャレンジだと思っています。自分はまだまだ台詞を覚えることにいっぱいいっぱいですが、上原さんは間の取り方1つにしても本物。自分にない強さを持っていて、お芝居に感じない言葉回しをするので、上原さんのお芝居を観ながら勉強させてもらう事も多いですが、必死に稽古をして自分ならではの須崎藍羅を演じられたらと思います!」
木谷「劇中劇で演じる人物は部員と類似した性格もありますが、人によっては全く正反対の性格を演じることになるのでそこがまた難しいです。でも演じる側も同じ女子高生。時代や文化は違っても思春期ならではの葛藤などは共通している部分が多くあります。そこから生まれる不思議な一体感が彼女たちの心に何かしらの変化をもたらすのではないかと思います。劇中劇の『るつぼ』は魔女裁判をテーマにした戯曲で、自分とは違う他者を排斥するという現代の問題にも通じる事なので、是非劇中劇には注目して観てもらいたいです」
―――最後に読者にメッセージをお願いします。
中沢「2018年上演時にすでに完成された作品でしたので、そこを超える事は簡単ではないと思います。でも同じものではなく、再演をする上でも何か新しい付加価値をつけて上演できたらと思います。若い役者たちと一緒になって全力で創り上げていきますので、是非ご来場をお待ちしております」
木谷「劇団BDPだからこそ出来る作品だと思っています。現役高校生やそこに近い年齢の役者がミュージカルに愛情を込めて創っている団体はあまり多くはないはずです。特に同じ高校生にはかなり刺さる内容になっていますし、大人の方にも広く共通した問題意識を持ってもらえる作品だと思いますので、是非多くの方々に観て頂きたいです!」
上原「児童劇団で小さい頃から舞台に立ってきた子が多く、すごくエネルギーと情熱に溢れているので、迫力のある舞台をお届けできると思っています。コロナ禍で上演中止が相次いだので、本作にかける思いは相当なものです! その思いを全て舞台に注ぎ込むので是非、肌でそのパワーと温度を体感しにきてください!」
植田「現代と300年以上前の魔女狩りという2つの世界を体験できる作品ですが、観ていくうちにかなり共通する部分も見えてきます。そこがストーリーで繋がることで、女子高生、教師たちと色んな視点で違った感情移入が出来るのも本作の魅力だと思います。そこに私達の思いが加わることで前作を上回る公演になると信じています。皆様のご来場をお待ちしています!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)