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中国の伝統楽器・二胡の奏者として日本国内はもちろん海外でも活躍するウェイウェイ・ウー。日本で二胡という楽器とその音色を広め、多くの愛好家を育ててきた彼女も、今年で来日して30年の節目を迎え、それを記念したコンサートが5月に開催される。沢山の出会いがあって現在があると語る彼女に、これまでを振り返りつつ、コンサート、そして並行して進めているというアルバムについて話を聞いた。
● ウェイウェイ・ウー
中国・上海生まれ。5歳からヴァイオリンを始め、上海戯曲学校で二胡とヴァイオリンを専攻する。1991年に来日。伝統楽器である二胡の新たな可能性を開拓すべく、さまざまなジャンルの音楽や演奏家との共演を精力的に行い、二胡の音色を広く日本に広める。また従来は座って演奏する二胡を立って奏でるなど独自のスタイルを確立する。2002年5月、『メモリーズ・オブ・ザ・フューチャー』にてメジャー・デビュー。以来、ベスト盤を含め15枚のアルバムとライブDVD1枚をリリースしている。また二胡教室を自ら主宰(心弦二胡教室)し、愛好家を増やしている。2014年には世界遺産「白川郷」の観光ふるさと大使に任命される。2020年には未曾有の事態を迎え、音楽、二胡で人々の心を癒やすアルバム「贈りたい人へ」をリリースした。同時にYouTube等への生配信を含めた動画の配信を続けている。
―――来日して30年になるそうですね。
「早いですね。平成3年でしたが、来日当時は全く日本語が話せなかったんです。故郷は上海です。そこで子供の頃からヴァイオリンをやっていました。二胡を手にしたのは15歳の頃。メンデルスゾーンの第2楽章を聴いたときに、すごく東洋的に聞こえてそれを二胡で演奏してみたいと思ったのがきっかけです。始めてみたら凄く奥が深くて。そしてヴァイオリンと二胡の両方が学べる学校に進みました」
―――当時、上海で二胡は親しまれていたんですか?
「私が生まれた頃は文化大革命の時代ですから、二胡は物心ついた頃には街中で弾かれていました。この時代は西洋の楽器が制限されていて、私はヴァイオリンを隠れて弾いていたくらいです」
―――留学生としての来日だったんですよね。
「ええ。だから1年くらいで帰るつもりだったんです。実は私、ちょっと恥ずかしいんですが、上海でテレビドラマの「姿三四郎」が放映されていて、そこで観た竹脇無我さんが凄く好きでした。だから来日したら会ってみたかったんです。叶わなかったですけれどね」
―――当時の中国と日本では社会全体が全く違ったと思いますが、カルチャーショックのようなものもありましたか
「最初の頃に衝撃だったのが、池袋にあったレコード店のWAVEの試聴コーナーで、音楽を自由に聴けたことでした。これは大きな驚きでした。なにしろ当時中国にはまだCDが無かったのですから、こんな良いところから帰っちゃもったいないと思いました。もう純粋に色々な音楽に触れたいという気持ちが強かったです。しかもあの当時、中国が今のような発展をするとは当時は全く考えられなかったですから。もしかしたら自分のDNAの中に繋がりがあったんじゃ無いかとも思いました。一方で当時の日本で二胡は「胡弓」と呼ばれていたので、楽器の名前を説明するところから始めました。「一個でも二胡」なんていいながらね(笑)」
―――日本ではヴァイオリン奏者をはじめとして、色々な人と出会われたわけですね。
「中西俊博さんとか葉加瀬太郎さんなど、ヴァイオリンで新しい世界を切り拓いていった先輩達の背中を見て、私も二胡で新たな世界を表現してみたいと思いました。こうした出会いは宝物ですね」
―――その節目を祝うコンサート。準備は進んでいますか?
「もちろんです。コンサートのタイトルにもなっている『歳月之詩』をはじめとするオリジナル作品や、『ゲーム・オブ・スローンズ』のテーマ。ビバルディの『四季』から『夏』を激しくアレンジした曲などを演奏するつもりです。並行してレコーディングもしています。このアルバムはコンサートに特典として付けることになっているので、間に合うように準備しています。『歳月之詩』は30年間の歳月を1つの歌として謳歌する上質なバラードです。チェロやアコーディオンを加えたゴージャスな編成でお送りします。でも30年って、人生100年だとしても1/3でしょ。しかも上海より日本に居る期間の方が長くなりましたから、その感謝の気持ちも込めてコンサートとアルバムを企画したんです」
―――この一年は、演奏家としても辛い時期だったと思いますが、どのようにして過ごされましたか?
「来日20周年の時には東日本大震災が起きて、30周年にはコロナ禍。節目毎に当たってますが、でも明日を迎えられることだけでも感謝して生きたいと思います。確かにコンサートができないのは音楽家として凄く辛かったですが、もっと辛い思いをしている人ももっと居ます。そんなときに音楽の力でまず自分の心を潤し、それを皆さんに伝えていくべきと思いました。そこで生配信をしたり、愛好家向けに無料のワンポイントレッスンを配信するようになりました。もう全国からアクセスがありましたよ。慣れないことばかりで忙しいですが、スタッフの協力を得ながらやってきました。だから結構忙しいんですよ」
―――では、コンサートに向けてのファンの皆さんへのメッセージを頂けますか。
「色々と大変な時期ではありますが、是非足を運んでいただきたいです。プライベートなパーティのつもりで、日常を忘れてみんなで「イェーイ」と盛り上がれれば良いなと思ってます。コスプレも歓迎ですよ(笑)」
(取材・文&撮影:渡部晋也)