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古川 健・日澤雄介

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なぜ、大きな失敗に向かってしまったのか?

戦争に向かった時代、文官達の責任をあぶり出す新作

歴史上に起きた事実をもとにした作品を発表し続けている劇団チョコレートケーキの新作は、太平洋戦争に進んで行く中で、軍部以外の文官達による責任について描き出した作品だ。戦争という事実の中で、これまで語られる事が少なかった部分に光を当てることで浮かび上がる教訓は現代にも通用すると語る劇作家の古川健と、劇団主宰で演出を手がける日澤雄介に話を聞いた。

PROFILE

日澤雄介(ひさわ・ゆうすけ)のプロフィール画像

● 日澤雄介(ひさわ・ゆうすけ)
東京都出身。劇団チョコレートケーキ主宰・演出家・俳優。駒澤大学演劇研究部を経て、2000年に劇団チョコレートケーキを旗揚げ。劇団作品に出演する傍ら、2010年の第17回公演『サウイフモノニ…』から演出も手がけるようになる。劇団公演の他、古川とともに所属するトム・プロジェクト、On7など外部での演出も数多く手掛け、高い評価を得ている。

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● 古川健(ふるかわ・たけし)
東京都出身。劇作家。駒澤大学演劇研究部を経て、劇団チョコレートケーキに参加。俳優として劇団作品に出演する傍ら、2009年第16回公演『a day』からは脚本を担当。近年では劇団青年座、文学座アトリエの会、劇団俳優座など外部公演にも多数携わり、NHKオーディオドラマにも脚本を提供するなど、劇作家として広く活躍中。

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―――――今作「帰還不能点」は、太平洋戦争をテーマにした新作だそうですね。

古川「太平洋戦争が終わって数年経った時点から当事者達が戦争に至った理由は何か。対米戦を開戦してしまったのはどんな失敗があったのかを振り返るのがテーマですが、軍部の人間ではなく、政治家や文官の責任を物語にしてみたかったんです。ほとんどの人が勝てるとは思っていなかった対米戦を、なぜ開戦してしまったのか。戦争について陸軍悪玉論が多いですが、彼らだけが悪かったのかというとそれはそれで誤解があります。
 例えば陸軍や海軍が反対していた日独伊三国同盟を、当時首相だったの平沼騏一郎や外務大臣の松岡洋右がごり押しして成立した話でこれは調べればすぐ出てくる話ですが、あまり知られていない。これは過去の話では無く、われわれの今後のテーマでもあると思います。そこには教訓があるはずだし、そこを考えていかないと日本人はまた同じ失敗をしてしまうのではないかと思います。」

―――――2020年は戦後75年という事で、太平洋戦争について振り返るドキュメンタリーが多かった印象もありますが、そんな節目の影響はありますか?

古川「関係ないですね。僕は常日頃から歴史問題を主軸にした作劇をしていますが、そのなかでも日本の戦争を扱うのは覚悟がいるんですね。作家になって10年くらい経ったところで覚悟を決めて、731部隊と南京事件を書いて、その次というところで。継続的に書いているテーマのひとつです」

―――――古川さんが言うところの“覚悟がいる”テーマとは、いわば“重い”作品ともいえると思いますが、日澤さんが演出するにあたって、テーマの重さは影響するのでしょうか。

日澤「演出家としては他の作品とあまり変わるところはありません。僕が歴史や政治に古川ほど傾倒していないので、もしかしたらそういった部分の重みをスルーしているかもしれませんが、基本的な作品の表現はテキストによるので、そこは彼を信頼して進めています。劇団公演という意味では気合いも入りますが、題材によって気合いの強弱はないですね」

―――――先日、新聞に演劇や映画で政治的なテーマを取り扱う事についての記事がありました(12/9朝日新聞)。そこには古川さんが俳優座に書かれた、2.26事件を扱った『火の殉難』について採り上げられていました。演劇界や映画界にこういった題材を採り上げる風潮が来ているのでしょうか。

古川「僕は1978年生まれで、演劇を観るようになったのは90年代でした。この頃はあまり社会派の作品は少ない時代でした。戯曲はあるのですが、上演には出会わなかった世代です。そんな状況に飽き足らない同世代の作家達に“自分たちなりに社会と向き合った演劇を創っていこう”という気持ちが、意図せず生まれたのではないかと思います。まあ僕自身は書いていて楽しいから、こういったテーマを選んでいますけれど」

日澤「変な話、今僕が20代だったらこういった作品は手がけていないし、歳を取ったからこそ出来る気がするのが正直なところです。一方で世間が社会的にちょっと沈んでいるんじゃないか、楽しくて弾けるような演劇を見る気になれないんじゃないかとも思います。閉塞感というかね。そしてこれだけ政治的な作品が受け入れられるのは、作り手だけでなく観る側の皮膚感覚も1990年代や2000年代とは違ってきているのではと思います。社会に対する違和感を持つようになり、演劇の世界でも発信していかないとヤバイと思っているのではないですか。
 もっとも僕は演出をするきっかけになったのがこの劇団であり、その時横にいたのが彼だったので、今でも古川が書くものを演出しているわけです。それで政治的な作品をどう届けるかとか、現在と歴史的な事象をどのようにリンクさせるかといったところを考えてやってます。他の作品を演出する時にも、常に現在性については考えてしまいます。戯曲は“残るもの”なので、上演する度にその時の時代とどのように関わるかを考えますね」

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―――――作品を創る中で、作家と演出家のコンビとして、ディスカッションのようなやりとりはあるものですか?

古川「ゼロとはいいませんが、基本的には脚本を渡したらお任せですね。だからといって何か質問されても答えないという事では無いですよ(笑)」

日澤「書き上げた後に、こちらがやることに対して文句を言わない作家であることは確かです。逆に僕からシーンや表現について質問することはありますし、こういった部分を追加して欲しいとオーダーすることもあります。舞台の進行、例えば転換の都合などで変更をして貰うとか」

―――――キャスティングについてはどうしょう。

日澤「俳優集めは劇団会議で決めてます。劇団員が俳優を推薦したり、呼んでくることは多いです。その上でのキャスティング=配役決めですが、古川は当て書きを全くしない、いや、出来ない作家なんです。今回でいえば10人のキャストで1人だけ女性なので、女性は決まっているとしても、残り9人の男性キャストは稽古が始まってから読み合わせをやってみて、キャスティングしていきます。だから俳優の魅力次第ですね。作品によっては年齢を考慮することもありますけど」

―――――さて、未曾有の感染症によって社会的に大きな影響を受けた2020年。解決には至らないものの、徐々に回復に向けて進み始めたわけですが、まだ劇場に足を運ぶことを躊躇する方もいらっしゃる。そんな状況を踏まえて、観客の皆さんへのメッセージをお願いします。

古川「いつも言うんですが、僕は歴史を題材にしていますけれど、本来書きたいのは歴史ではなく人間で、時代時代を生きた人間の切実な想いを舞台に結実したいと思っています。だからこそ俳優たちが演じる人間を、生のお客さんに生の空気感で伝えたいと思います。そんな空気を感じにご来場いただきたいですね」

日澤「こういう仕事なのでもちろん沢山の方に観に来て欲しいですが、一方でまだちょっと難しいだろうと思う気持ちもあります。感染症への対策はかなりシビアにやっていますが、それでも嫌な人は嫌でしょう。実際“密”な状況ではありますから。そんな中で無理に来ていただいても楽しくないでしょう。そういった方は配信もあるのでそちらで楽しんでもらえればいいと思います。
 古川の戯曲、世界観は配信であっても充分に堪能できます。もちろん俳優達の活きた躍動感を感じるのは劇場ならでは。そこは映像・配信では乗らないですから。あと新作ですから何が起こるかわかりません。ご来場頂ければきっと満足頂けるものをお見せできると思います」

―――――ありがとうございました。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

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公演情報

劇団チョコレートケーキ
第33回公演 帰還不能点


日:2021年2月19日(金)〜28日(日)
場:東京芸術劇場 シアターイースト
HP:公演ホームページ