> WEBインタビュー一覧 > 岩倉直人・桧山歩弓・中石文音
大阪に拠点を置く劇団☆流星群は、1991年に高校生だけのメンバーで旗揚げされ、現在は社会人劇団として活動を続ける団体。全公演の脚本・演出を手掛ける主宰の岩倉直人さんは、結成当時高校1年生で、以来30年にわたって学業や仕事と両立させながら演劇に力を注いできた。舞台作りも特徴的で、自作の投影機を使ったプラネタリウム演劇や、約1万個の風船劇場、約6,000個の星電球劇場といった没入感の強い空間演出と、幻想的かつメッセージ性の強いストーリーを表現の柱としている。2007年からは本格的な野外劇も行うほか、2010年以降は本物のプラネタリウムドームを使った公演をほぼ年2回ペースで実施。今年はコロナ禍で活動予定が大きく変わってしまったが、ようやく12月に、カフェバーで行う朗読劇&デジタルライブペインティング『星降る夜の朗読会』が実現する。初のオンライン配信に挑むこの公演について「思っていた以上に攻めた内容」と話す岩倉さんに加え、2009年入団の桧山歩弓さんと2012年入団の中石文音さんを交えた3人に話を聞いた。
● 岩倉直人(いわくら・なおと)
1975年11月生まれ、島根県出身。
全公演の脚本・演出を手掛ける。公演本番は音響操作、プラネタリウム操作、星空解説も担当。過去には料理人の経験もあるほか、パソコンパーツ業界で営業マンとして伝説的な成績を残したことも。現在は印刷会社の代表取締役を務めながら劇団☆流星群を主宰し、劇団員およびレッスン生の演技指導も行っている。
● 桧山歩弓(ひやま・あゆみ)
大阪府出身。2009年に劇団☆流星群入団。現在は座長として役者たちをまとめ、よく響く声量と優しい台詞が好評を得ている。平日は教員を務める。マイブームは新しい料理のレシピを試してみること。
● 中石文音(なかいし・あやね)
大阪府出身。高校在学中の2012年に劇団☆流星群入団。その後大阪芸術大学短期大学へ進学し、メディア・芸術学科舞台美術コースを卒業。特技はフレンチトーストを上手に焼くことと、歌を歌うこと。
● 劇団☆流星群(げきだん・りゅうせいぐん)
1991年、演劇を通して自然保護を訴えることをテーマに高校生だけで結成。公演毎に観客を驚かせる実験的空間を創出する。現在は社会人劇団として活動中。篠崎光正氏のシノザキシステムを取り入れた演技指導で、年齢や経験を問わず幅広い層の役者を育てている。
平日は仕事、土日は演劇という日々を続けてきた
―――まだ高校1年生だった岩倉さんが流星群を立ち上げたいきさつは?
岩倉「もともとお芝居が好きだったのと、中学生の頃から聞いていた深夜のラジオ番組で、自然保護をテーマにした討論会をやっていたのに刺激されて、自分も何かしたいと思ったんです。高校生だけで、しかも学校の枠を越えてメンバーを集め、自然保護を訴える演劇をやってみたいと。当時は高校演劇も盛んだったんですけど、元々あるものに所属するのではなく、あくまでも自分が作ることにこだわりました」
―――高校生が学校の外に視点を広げて何かをしたいと考え、実行するのはなかなか珍しいことだと思います。
岩倉「ラジオ局や新聞社にも力を貸していただいて、問い合わせは100件を超えました。最終的に1年くらいかけて10人くらいのメンバーが決まり、最初の公演を行ったのが高校2年のときです。今はもうなくなってしまった大阪府立青少年会館というところで、照明も音響もプロと全く同じ条件の場所を借りて上演しました。世界中が放射能で覆われた未来の物語で、人々はドームの中で生活しているんですけど、ある日そのドームが壊れ、科学者が作ったタイムマシンで現代にやってきて、自然を振り返りながらまた未来に向かって自然保護を訴えていくというストーリーでした」
―――当時から演出にプラネタリウムを取り入れていたそうですね。
岩倉「もともと星が好きで、中学1年の頃から学校の科学部でプラネタリウムを作っていたんです。それで、お芝居にも絶対プラネタリウムを使いたいと思いました。あと、ずっと好きだったアングラ演劇の影響で、何らかの舞台装置や仕掛けを使った演劇を作りたいと思っていて、後にそういうものも少しずつ取り入れていくようになりました」
―――アングラ演劇がお好きだったのですか。
岩倉「東京で言うと新宿梁山泊や劇団唐組、水族館劇場にはすごく刺激されました。あと、大阪だと劇団犯罪友の会というのがあって、実は高校時代に少しそこに所属していたことがあるんです。維新派とも仲の良い劇団で、そういうご縁があったおかげで、後に野外劇を実現することもできました」
普段の仕事も演劇につながっている
―――桧山さんと中石さんが流星群に入ったいきさつは?
桧山「子供の頃から“ごっこ遊び”をよくやっていて、何か別のものになって遊ぶのが好きだったんです。その後、母に勧められて読んだ漫画『ガラスの仮面』にハマり、演劇というものを意識するようになりました。そして、たまたま演劇部がある高校に入ったのをきっかけに、学生演劇から始めて、大学時代までは演劇が一番という生活でした。卒業後はしばらく演劇から離れていたんですけど、どうしてもまたやりたいという気持ちがあって、“大阪・演劇”でネット検索して流星群に出会ったんです」
中石「私は、小学生の頃から地元の合唱団に入っていて、ミュージカルなどをやっていました。中学時代も合唱団でお芝居や歌の勉強をしていて、流星群に入ったのは高校生のときなんです」
―――そうなんですか!
中石「はい(笑)。私は高校に演劇部がなくて、それでも勉強したいと思って同じようにネットで調べたら、一番最初に出てきたのが流星群でした。それまでは合唱団をやっていただけで、演劇については右も左も分からない状態だったんですけど、未経験でもいいよということで。稽古が週末で、学校に通いながら行けるというのも大きかったです」
桧山「高校生の女の子が来た!って、みんな可愛がっていたよね(笑)」
―――流星群に入ってみてどうでしたか?
桧山「やっぱり自分は演劇がないとダメだなと。でも実際の公演は、思っていた以上に桁外れなものでした。入団して半年くらいのお手伝いを経て、初めて立ったのがプラネタリウムドームを使った公演だったんですけど、いきなり直径18mの壁にぶち当たって……」
岩倉「直径18mのプラネタリウムドームで、マイク無しで上演する。ドーム全体を役者が走り回るというのをやっていたんです」
桧山「そこで“声が聞こえない”と言われてショックを受けたところから始まって、段差や階段があるので、知らない間にあちこちにアザができていたり(笑)。学生時代にやっていた演劇とは全く別物で、観ていた以上にすごいんだなと。でも、観ていた以上に面白いなと思いました。あと、私は普段教員をしているので、仕事でやっていることが流星群で活きることもあるし、逆もまた然りで、自分の中で1本につながっている感じはすごくあります」
中石「高校生の頃は、稽古の休憩中に宿題やテスト勉強をして、またセリフを覚えて……みたいな感じで、生活の半分以上を演劇が占めていました。卒業後は身体表現の学科がある短大に進んで、平日は学校で演技を勉強し、土日は流星群。生活の全部が演劇になりました(笑)。短大の卒業公演のすぐ前に流星群の舞台があったりして、その時期はプレッシャーがすごかったですけど、続けていて良かったと思うことは多いです。今はフリーターとして、大勢の人の前で話す仕事をいろいろやっているんですけど、それも自分に足りないものは何だろうと考えて、演劇に活かせるものを選んでいます」
役者による本気の朗読劇を見てほしい
―――11月の朗読劇について聞かせてください。昨年も同じ時期にカフェバーで公演を行っていますね。
岩倉「星カフェSPICAという、店内がプラネタリウムになっているカフェバーで、演劇とデジタルライブペインティングを合わせた実験的な舞台をさせていただきました。それはプラネタリウム演劇でやってきたことを凝縮した内容で、どれだけ入れるかっていうくらいお客さんを入れて、シャボン玉を飛ばしたりスモークを焚いたりしたんですけど、今回は同じ星カフェSPICAですがお客さんをかなり限定し、メインはオンラインの生配信になります。さらに、役者一人ひとりが別々の話を読む朗読劇にして、万が一誰かが欠けた場合でも公演が成り立つようにと考えました」
―――デジタルライブペインティングというのはどういうものですか。
岩倉「松井智恵美さんというアーティストの方がタブレットで絵を描いて、それをプロジェクターで投影します。役者の朗読に合わせて絵がどんどん変わっていったり動いたりする面白さも、見どころの1つですね」
―――規模は小さくとも、劇団☆流星群の世界を遠方の人も楽しめる良い機会になりますね。
岩倉「そうですね。ただ、おかげさまで流星群の場合、プラネタリウム演劇が珍しいこともあって、けっこう遠くから来てくださるお客さんが多いんです。昨年のSPICAさんでの公演も、お店自体が全国的に知られているので、いろんな地域からお客さんが集まりました。ですから、逆にオンライン配信となった方が、観たいという人はもっと多いんじゃないかなと考えています」
―――では、今回初めて劇団☆流星群を観ることになる人に向けて一言ずつお願いします。
桧山「流星群の魅力の1つに、スケールの大きさがあると思っています。今回は朗読劇ということで、画面としてはどちらかというと静の状態かもしれませんが、ライブペインティングとの融合や音楽の付け方によって、流星群らしいスケールは感じていただけるかなと思うので、そこを観ていただけたら嬉しいです」
中石「今回朗読するのは星に関するお話で、それを色々なものとのコラボでこういうふうに見せられるんだよということと、普段仕事をしながら一生懸命演劇をやっている人が、ここまでのものを作っているんだよというのを観ていただきたいです。自分でハードル上げちゃいましたけど(笑)」
岩倉「演劇と朗読は別物だと私は考えていて、朗読には朗読の技術がある。しっかりした役者による本気の朗読とはこういうものなんだというのを、全国に向けて発信したいですね。それに星の演出とデジタルライブペインティングが加わって、さらに今回は音楽も生演奏なんです。朗読に合わせて楽器を変えて演奏してもらう予定で、最初はリスク回避を考えるところから始まった公演でしたが、意外に攻めた内容になりました。ぜひ、たくさんの方にご覧いただきたいと思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)