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トローチ
明るくてホッとする作品をコンセプトに、俳優や声優として活躍している4人組の演劇ユニット「トローチ」。令和初の最新作は、作・演出に箱庭円舞曲の古川貴義を迎え、辻親八を軸に今を見つめ直す、明るくてちょっと毒のあるドラマを描く。トローチメンバーの東地宏樹、小林さやか、桐本拓哉、辻親八に話を聞いた。
● 東地宏樹(とうち・ひろき)
1966年5月26日生まれ、東京都出身。
俳優、声優、吹替え、ナレーターなどで活躍中。主な出演作に、ドラマ『孤高のグルメ Season4』酒井役、アニメ『ガンダム00』シリーズ/ラッセ・アイオン、アニメ『黒執事』バルドロイ役など。吹替えでは『アバター』ジェイク・サリー、『トンイ』ソ・ヨンギほかウィルスミス、金城武、サム・ワーシントン、ヒュージャックマンなどの声を多数担当。
● 小林さやか(こばやし・さやか)
1970年10月12日生まれ、北海道出身。
劇団青年座所属。舞台、声優ほか活躍中。代表作に『サザエさん』波野タイコ、青年座『ありがとサンキュー!』など。吹替えではNHK−BS『大草原の小さな家』キャロライン、『ジ アメリカンズ』エリザベス、『トンイ』仁顕王妃、ソン・イェジンの声を多数担当。
● 桐本拓哉(きりもと・たくや)
1967年7月27日生まれ、岐阜県出身。
俳優、声優、ナレーターほか活躍中。近作にアニメ『FAIRY TAIL』(ベルセリオン)、『PSYCHO-PASS 3』(ヴィクトル・ザハリアス)、劇場版『シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』など。吹替えでは『SUITS/スーツ』ハーヴィ・スペクター、『トンイ』ヨンダルほか、ソ・ジソブ、ブラッドリー・クーパー、ベン・フォスター、ジェレミー・レナー等の声を多数担当。
● 辻 親八(つじ・しんぱち)
1954年10月20日生まれ、千葉県出身。
俳優、声優、ナレーションほか幅広く活躍中。代表作にアニメ『PSYCHO-PASS 3』、『スター☆トゥインクルプリキュア』、映画『Gのレコンギスタ 行け!コア・ファイター』、アニメ『宇宙兄弟』ほか、吹替えでは『トンイ』チョン・イングク、『ハリー・ポッター』シリウス・ブラック他、ゲイリー・オールドマン等を担当。
● 劇団トローチ
2011年から2012年にかけてNHK BSで放送された韓流ドラマ『トンイ』吹き替え収録で共演した東地宏樹(大沢事務所)、桐本拓哉(青二プロダクション)、小林さやか(劇団青年座)、辻親八(オフィスPAC)4人によって2014年に結成。公演ごとに作家と演出家を決め役者を集め、その作品に見合う劇場で上演している。日々生活に追われている人達がフラーッと劇場に足を向け、何気なく観ているうちに笑っていたり泣いていたり。劇場を出る時は1mmぐらい世の中が和らいで見えているといいなぁという願いで芝居を届けている。
“あの時ああしてよければ良かった”エピソードを持ち寄って色々話したの
――― 前作から5作目に向けて、おなじみのトローチ会議が繰り広げられていたようですね。リサーチ担当の小林さんは様々な作品に出会えたのでしょうか?
小林「はい、たくさん観に行きました。小劇場の若い方も面白い方がたくさんいました。前回ご一緒した松本さんには年齢を重ねるがゆえに持っている錘(おもり)みたいなものを書いていただいたので、そういう部分も大切にしながら5回目はまた変化できたらと。毒を持ってテンポよく書ける人を考えたら、以前ご一緒したことがある箱庭円舞曲の古川くんにたどり着きました」
東地「他のメンバーは作品を拝見したことはありますが、作品作りは初めてですね」
――― 古川さんとは作品作りの一環で、顔合わせの時に人狼で盛り上がったとか……?
小林「それぞれのヒントを得るために、“あの時ああしてよければ良かった”エピソードを全員持ち寄って、人生経験とか色々話したのよね。その後に人狼をやって。古川くんは、みんなに色々やらせながらパソコンを全然見ずにブラインドタッチでしゃべりの癖とかをどんどん打ち込んでいて……」
東地「人狼経験者が2〜3人しかいなくて、とんでもない人狼になりました。メンバーの半分くらいはわかったふりしてやっていていたようで、変な感じにややこしくて(笑)。舞台化されているんですよね、僕たちの人狼はお金が取れないぼんやりした人狼」
辻「即興で人狼をする舞台なんてすごいよね」
どんな役を演じたいかホワイトボードに書き出したんです
――― 今作はどんなお話になるのでしょう? 作・演出の古川貴義さんの印象を聞かせて下さい。
小林「今回は親八さんが軸になって、現在の親八さんの役が過去を振り返って今を見つめ直す物語になりそうです」
東地「チラシを見ると少しヒントがありまして、キャストの後ろに図形が書いてあります。舞台は塾を経営している会社で、でもひとつの場面ではなく、いろんな場面が動いていくと思います」
辻「古川くんとは去年の夏にはじめてちゃんとお話しましたが、今時あそこまで演劇だけにどっぷり関わっている人はそう居ないです。シアターミラクルで演出をされていた舞台を観た時も、本当に一生懸命でこの男はイイなって。全て任せれば熱い物ができそうな気がしているんです」
東地「古川さんは劇団を休止してからの仕事量が凄いんです。大小関わらず引き受けられていて、自分の劇団を離れ、劇団ではできないことや発注に答えるとか、そういうことで自分を膨らませる作業をされていて、その中の一端にトローチも入っているんですけど、“何かやってやろう”という気持ちが伝わってきます。良い時期にお声掛けできたなって。彼が物語を作る時にこの間やった人狼とかがうまくこの作品に反映されたらいいなと思いますね」
桐本「僕はいつも人間観察をするんです。古川さんは笑ったり楽しそうにしているけど目の奥が鋭いんですよね。何を考えているんだろう、どういうものを作ってくれるんだろうなと興味を惹かれます。人狼をやった時にエチュードもやったんですよ。皆はそれぞれエチュードを演じたんですが、僕は僕のエピソードを演じてもらって、監督みたいな感じで演じることはできなかったんです。『演じてないけどいいの?』って聞いたら、『わかってますからいいです』って言われて(笑)。彼にどう映っているのか楽しみと怖さがあります。これからの展開が楽しみですね」
――― 観察していたつもりが見られていたと。
桐本「そうそう! 僕の何を見ていたのか。事務的なことでメールのやり取りはしているので、彼はそういう文章からも何かを読み取っているところがあるのかな。どういうキャラを僕にやらせてくれるのか楽しみです」
小林「最初5人で会議をして、どんな役を演じたいかとホワイトボードに書き出したんです。どうなるのか本当に楽しみですね」
――― ちなみにどんな役を演じたいと考えていますか?
小林「私は身体の利く役をやりたいと言いました(笑)。すごく動きたくて動ける人をリクエストしました」
辻「僕はいつもお世話になっているある劇団の人がずっと気になっていて、一生懸命で前向きですごく面白くて、あの人みたいな日常をやりたいと言いました。名前は言えませんが(笑)」
小林「いつもお世話になっている方なので、わかる人にはわかる(笑)」
桐本「いくつか言っていて覚えているのが、『セント・オブ・ウーマン』という好きな映画があって、アルパチーノが演じた役みたいなキャラをいつかやりたいと話しました。自分の中で大事な1本で事あるごとに見ているんです。盲目の退役軍人役なのですが、大きなものを背負いこんでしまったキャラクターに惹かれるものがあります」
東地「僕もいくつか言っていて、その中で覚えているのが火野正平さん。火野さんてしゃべること全部がセリフみたいで凄いなって思っていて、そうなれないけど近づいていきたい意味も込めて。女ったらしなんだけど恨まれないような役ってやったことないなと。自分が忘れていたことも台本に生かされたら驚くかも(笑)」
――― 本番での答え合わせが楽しみです!
今までやってきたいろんな事がひとつに混ざったような5回目になるといいな
東地「山口正義さん以外は初めての出演です。今回はほぼ同年代の方が集まりました」
小林「みなさん素敵な方ばかりで、有馬自由さんにはグイグイ引っ張ってもらいたいですね。菊池美里さんは地道にずっとお芝居をやってきて、いつもちょっと変わったタイプの役が多いので、そこ狙いではなくナチュラルな菊池さんというのをトローチでその良さがでたらいいなと思っています。そして中村中さんは唄ってもいいよって言ってくださっていまして、どうなるかはわかりませんが、脚本の中で必要なシーンがあればお願いするかもしれません。贅沢な話ですが」
東地「今までのトローチとは違う形の作品になるであろうと思います。一人の人生を通して笑いながらも何かを感じてもらえるような芝居になったら。いま世の中がすさんでいるので、老若男女が何か共感を得られる芝居になればいいな。特に同世代に響いてくれたら嬉しいですね」
小林「5回目にして、今までやってきた楽しいとか辛いとか、重い軽いとか色んな事がひとつに混ざったような5回目になるといいなと思っています。お客様も楽しんで、やっている私たちも演じることを楽しめるような作品になるよう祈っているところです」
辻「チラシのコメントに『彼は今、何を削っているのだろう』とあるように、僕なんかも60半ばにして同級生を意識し始めて気になるんです。ずっと自転車を磨いていた奴がいて、そういえばあいつは今でも磨き続けてるのかな〜とか、やってる訳ないけど(笑)。どうしているかなと何となく思うんです。そんな世代の方にも観て欲しいですね。本番が楽しみです。
恥ずかしいんだけどチラシに僕の昔の写真がいっぱい使われていまして、下の方の同級生たちはみんな悪そうな奴ばっかりだけど、みんな立派になっています」
桐本「感覚的な部分ですが、今までは舞台セットを具体的に立て込んでその中でワンシチュエーションの芝居をやってきました。今回はまだわかりませんが、そういう世界観から外れる物になるんじゃないかと勝手に思っていて、これまでとはテイストがかなり違うものになる気がしているので、そういう点でも自分は楽しみですし、お楽しみいただけたらと思っています」
東地「もう5回目なんだなと、しみじみ思います。令和にもなって2020年て面白い数字ですよね。近未来にきちゃっているのに僕らはアナログなことを好きでやっている、でも今やる意味や新しいことをやりたと思っている。今回のメンバーは平均年齢が今までで一番高いんです。くだらない部分と大人ならではの深い部分の両極端を全部できればいいな〜やりたいな〜って思っていて、それができるメンバーが揃いました。観に来ていただいて楽しんでいただけたらと思っています」
音楽は前作に引き続き、クレイジーケンバンドの小野瀬雅生と、須藤祐によるコラボレーションが実現。音楽もぜひ注目してほしい。また数百枚は書いたという東地氏の筆によるタイトル文字からも、それぞれが丁寧に作品作りを進めている想いが伝わってくる。まるで大人の青春、羨ましい関係性だ。それぞれの世界から帰ってくる「トローチ」という場所がとても愛おしく感じる。
――― 最後にメッセージをお願いします。
辻「トローチ、前回も言いましたがターニングポイントです!」
小林「毎回ターニングポイント(笑)」
桐本「ポイントありすぎでしょう(笑)」
東地「ターンしすぎて戻っちゃうから(笑)」
辻「(笑)。僕が演劇を続けてきた理由も自分の中でわかってきて、それを古川くんがくみ取ってくれているはずです。演劇が大好きな人が描く作品を楽しみにしていてください。次の6回目へのいいステップになる芝居になると思いますので、肩の力を抜いてリラックスして観に来ていただけば嬉しいです」
(取材・文&撮影:谷中理音)