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安西慎太郎・下平慶祐

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一人の男が客席に向けて独白を続ける。“カプティウス(囚人)”というタイトルの意味するものは?

演劇を通して世界を変える。舞台俳優・安西慎太郎が挑む新たな戦い

19歳で俳優デビュー以来、数々の注目作に出演している俊英・安西慎太郎が、一人芝居『カプティウス』に挑む。同い年の演出家/脚本家・下平慶祐を迎えて作り上げる本作は、太宰治『人間失格』を底本とするオリジナル作品。二十代半ばで人気実力ともに上り坂と言える安西が、なぜ下平をパートナーに選び、なぜこの作品と向き合うのか。二人にたっぷり話してもらった。

PROFILE

安西慎太郎(Shintaro Anzai)のプロフィール画像

● 安西慎太郎(Shintaro Anzai)
(あんざい・しんたろう)
1993年12月16日生まれ、神奈川県出身。2012年『コーパス・クリスティ 聖骸』で俳優デビュー。ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで白石蔵ノ介を演じて一躍注目される。以降、『戦国無双 関ヶ原の章』『K-Lost Small World-』『武士白虎 もののふ白き虎』『幸福な職場』『遠い夏のゴッホ』『四月は君の嘘』『野球 飛行機雲のホームラン』など主演作多数。今年は、飯島早苗作/鈴木裕美演出『絢爛とか爛漫とか』でも主演を務めて高い評価を得た。

下平慶祐(Keisuke Calvin Shimohira)のプロフィール画像

● 下平慶祐(Keisuke Calvin Shimohira)
(しもひら・かるびん・けいすけ)
1993年9月27日生まれ、ニューヨーク出身。大学の英語劇サークルで演劇と関わり始め、2013年に四大学英語劇大会でGrand PrizeとStage Effect Prizeを大会史上最年少演出家として受賞したのを機に、プロとしての活動を始める。2014年、自身の劇団「もぴプロジェクト」を立ち上げ、全作品の演出と脚本を担当。近年の代表作として『星の王子さま』『ミスクリエイション』『贋作 春のめざめ』『カルパノーラマ』『シェイリ』などがある。もぴプロジェクト『マークドイエロー』(2017年)にて佐藤佐吉賞優秀脚本賞受賞。

インタビュー写真

たった一人で舞台に立つ怖さ。だからこそやろうと思った

――― お二人の出会いは?

安西「以前出演した、る・ひまわりの舞台で、演出助手をしていた彼と出会ったのが最初です。当時はそこまで深い関わりではなかったですけどね」

下平「もう全然、仕事の付き合いというくらいで」

安西「でもある日、彼が作る(もぴプロジェクトの)舞台を観に行って、そのあと話をしたら、実は思想や夢が同じだということがわかって、連絡を取るようになりました。この世代で、自分のやりたいことを強く持っていて、実行力のある人間はあまり存在しないんです。彼が伝えたいメッセージも聞いて、僕はそれがすごく美しいと思いました」

下平「最初にお会いしたときは主に2.5次元で活躍されている俳優さんというイメージだったんですけど、そのときにやったのはストレートプレイで、とにかくすごかった。同い年でこんなも言葉を自分のものにできる人がいるんだという驚きが自分の中にあって、ずっと一緒にやりたいと思っていました」

安西「それで今回、何かをやろうって思ったときにパッと浮かんだのが彼しかいなかったんです」

下平「最初は、安西慎太郎が自分で企画を作りたいということで、劇団を運営していてノウハウも持っている僕が手伝うくらいのつもりだったんですけど、話していくうちに、二人でもっと上を目指したくなって。これを安西のエゴイズムで終わらせてはいけないな、と。一応、安西慎太郎の一人舞台となっていますけど、安易な彼個人による企画のつもりではないんです。今どきの言葉で言うと安西は“製作委員会”の一人で、彼はその中のいろんな人間をつなぐハブの係を担っていると考えてもらった方がいいのかなと思っています。彼が監督だからこそ集められるメンバーで構成される個人力の高いチームというか……伝えるのが難しいですけど」

――― そもそも、安西さんがこれをやろうと思ったのはなぜですか?

安西「2018年に事務所を退社し、フリーになってから、自分は何をやりたいのかと考えたとき、すごくシンプルに、面白いものを作りたいと思ったんです。人の心を動かしたり、心を奪ったりするものを作りたい。そこから考えが広がり、今の日本の若手舞台俳優の中に、自主企画や一人舞台をやるという発想があまりないなと。もしくは、やりたいけど実行できない何かがある。誰もやらないならやるしかないなと。僕は舞台という生もので日本を代表するような人間になりたいと思っているので、その始まりとして、今作を上演しようと決意しました」

――― そこで、一人舞台というものに目が向いたきっかけは?

安西「成河さんの一人舞台(『フリー・コミティッド』)を観たんです。それは一人で何役もやるスタイルで、やはり成河さんは圧巻でしたし、2時間一人で舞台にいることの恐怖ってすごいんだろうなと思いました。単純に、一人の人間がずっとそこにいるというのが究極に怖いなと。そのときに、怖さと同時に一人だからこその可能性も感じたんです。今回僕がやるのは違うスタイルですが、25歳の若造で、一人で1時間以上お客様を飽きさせない舞台俳優なんていないんじゃないかと思ったのも理由の一つですね」

インタビュー写真

下平「実はこの企画の一番の始まりって、彼がフリーになって、ファンに対する接し方もあらためて考えていかなきゃいけないねという雑談で。それでそこから、みんなに一番応えられる方法として何ができるかと。だから、最初はいわゆるファンイベントをやろうという話もありましたし、毎回違う俳優さんを呼んで二人芝居をやるのも楽しいねという話も出ました」

安西「でも、ぴー(下平)が一人芝居にしようって引かなかったよね(笑)」

下平「ごめん(笑)。これはいつも大切にしていることですが、どうせ公演をやるのであれば、日本の演劇界における何らかのブレイクスルーを作りたい。それは彼と僕の共通したビジョンでもあって、今回の公演は特にそこを大事にしています。例えば、ファンに喜んでもらうならやっぱりイベントじゃなくて芝居だと思ったし、もちろん二人芝居も素敵ですけど、一人でやる方が俳優としての彼のすごさを大切にするにはいいんじゃないかと。最初の出会いは仕事でしたけど、僕はすぐに彼のファンになってしまって、というのも、この人、同い年なんだ!っていう衝撃がずっとあって、だからこの人にしかできないであろう作品を作ることを譲りたくなかったんです」

安西「懐かしいね。俺もあの頃からやりたいってなんとなーく思ってて、いつかやろうなんて稽古の帰り道で話したよね」

下平「何かの問題意識に対してどうにかしたいってなったときに、あえて言うなら、人間的に、彼はプレイヤーで、僕はディレクターだと思っています。今回の企画もそこは良い意味で分業していて、二人で作っている感覚が強いですね。多分僕らはそういう意味でも合うんです。それはコラボという感覚とも違って、あなたが刀を持つなら僕は銃を持ちます、くらいの感じでしかない。それが全スタッフにもあって、もちろん言い出しっぺは安西くんですけど、皆さんがそれぞれのセクションから『カプティウス』を作っていて、それってすごく尊いんだぞ、なんて当たり前のことも伝えたいことの一つだったりします」

これが演劇なんだ、というものをぶつけたい

――― 作品の中身については、どういうものを作りたいと?

安西「現段階では、そこは下平くんに任せていますね」

下平「そうだね」

――― 文学の名作を下敷きにしたオリジナル、というのは下平さんが普段手掛けている作品とも重なります。

安西「正直、作品に対しては何の不安もないんです。演出するのも彼だし。ただ、それを僕がちゃんとできるかというのがとにかく怖い。彼が提示したいことをちゃんと表現できるかなと、そればっかりずっと考えています」

インタビュー写真

――― でも、そのくらいじゃないとやる意味がない?

安西「そうですね。今までいろんな演出家さんとやらせていただきましたけど、彼が一番僕を甘やかさないんだろうなという感じがすごくしていて(笑)。そういうのを含めて、怖いですね。楽しみですけど」

――― 演出家の言葉も一人で全部受け止めるわけですからね。

安西「すごい、熱い喧嘩【セッション】しそうだね」

下平「うん、全然すると思うし、それが分かるからやりたいと思ってた。僕自身も、演出ということについてしっかり考えたいなと思っています。俳優さんに演技を教えるのが演出なんじゃなくて……俳優さん、美術家さん、照明家さんがそれぞれ持ってきたプランをどういう波長で伝えていくかというのが演出の仕事だと僕は思っていて。そういうことを、安西の舞台を通して演劇界にぶつけたい気持ちがあります。

変な話ですけど、今回の作品を観た人は、たぶん何を演出したかわからないと思うんです。ずっと舞台上の安西を追い続けて、安西くんすごい!ってなると思う。でも、実はいろんなセクションの人たちが、バレないように緻密な仕掛けを重ねていった結果、安西がすごいって見える。それが演出というものだし、これが演劇なんだっていう挑戦をしたいと思っています」

――― 作品の雰囲気を知る手がかりとして、主題歌「御託並べ」の一部が公式ツイッターで公開されています。下平さんの作品でずっと音楽を担当している加藤俊一さんの曲ですね。

安西「僕は……泣きましたね。映画とか本とか音楽であまり泣いたりしないんですけど、この曲を聴いたとき、小さい頃からのいろんな記憶が蘇ってきて。強いメロディの中で言葉がすごくぶつかってくる感じがとてもいいなと思いましたし、一人芝居の中でどのタイミングで流れるかわからないですけど、鳥肌が立ちそうだなって思いました」

下平「彼(加藤)とは、夢野久作さんの『ドグラ・マグラ』を原案にした『マークドイエロー』(2017年)という作品で意気投合して、そこからずっと一緒にやっています。好きな音楽とかは微妙に違うんですけど、人間として一緒だなと思って。悪いように聞こえてほしくないんですけど、彼も安西も僕も生きるのが下手で、笑って過ごせばいいものを、つい胸ぐらを掴んでしまう。今回のメンバーはそういう人が……」

安西「すごく多い」

下平「僕は普段の演出であまり音楽を使わないし、今回もそれほど多くはないと思います。ただ、音楽が流れていない場面で、観ている人全員の頭の中に同じビートやメロディが流れるというのが一番カッコいいと思っているので、そこが目標です。その中で、きちんと流すであろうこの曲のこの歌詞が、お客さんに刺さるといいなと思います」

インタビュー写真

ギリギリで作っている毎日がすごく楽しい

――― 安西さん目当てで集まるお客さんの中には、初めて一人芝居を観る人も多いと思います。そんな人にとって、一人語りが何十分も続く舞台を観るというのは忘れられない経験になりそうですね。

下平「もう、そのためだけにやりたいです。お客様が時間とお金と精神力を使っていただくことに対して、こんなにも応えることができるんだぞというのをやりたい。素敵な作品でした、では収まらないものにしたいという気概を持っています」

安西「ファンの皆さんの間にも、安西が真剣に戦おうとしているから私たちも真剣に見に行かなきゃいけない、っていう空気があるんですよね。だから、本番当日はすごい空気感になりそう」

下平「それめちゃくちゃ嬉しいしありがたいけど、でも、そこはいい意味でラフに観に来てほしいかな」

安西「そうだね。構えて来るのって、心が豊かじゃなくなってしまうしね」

下平「あくまで演劇って余暇の使い方の一つであってほしいから、近所のおばちゃんの家に遊びに行くくらいの気持ちでいらしてください。あと、安西と言えばこういう役っていうイメージってあると思うし、僕もそれは大好きなんだけど、今回の作品はそれを超えていこうね」

安西「それは僕もすごく楽しみ」

下平「あとは、もし今回の企画が素敵だなって思ってくださる方の中で、プロデューサー志望の人がいたら、ぜひ声をかけていただきたいです。僕らがまだたくさんの現場を踏んでいないからかもしれませんが、二十代で、死ぬ気でプロデューサーをやりたいという人にあまり会ったことがないんです。だからもし、プロデューサーとして命をかけたい、こういう企画がやりたかったんです、という人がいたら、ぜひともご一緒したい」

安西「したいですね」

下平「というか、今回もそういうメンバーを集めているし」

安西「そうだね」

下平「それがいつの間にか、安西慎太郎が作る企画のメンバーだから、ではなく、演劇界全体の風潮になったらいいなって思います」

安西「だから、ファンの方はもちろん、演劇関係者の方にもたくさん観てほしい。期限的なものではなくて、精神的なギリギリを楽しみながら僕らは戦っています」

(取材・文&撮影:西本 勲)

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公演情報

「舞台「カプティウス」」のチラシ画像
安西慎太郎 一人芝居
舞台「カプティウス」


2020年2月18日 (火) 〜2020年2月23日 (日・祝)
高田馬場ラビネスト
HP:公演ホームページ

一般(前売):5,000円
(全席指定・税込)

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