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久保井研・藤井由紀・稲荷卓央

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劇団唐組の紅テントが下北沢に出現!80年代を代表する名作が新演出で上演

皮膜一枚で外界と隔たれた二時間ばかりのミクロコスモスを体験せよ

『ビニールの城』は、主宰の唐十郎が1985年に石橋蓮司、緑魔子率いる劇団第七病棟へ書き下ろした名作だ。自分の腹からでる言葉に人格さえも危うくなった元腹話術師の朝顔は捨ててしまった人形・夕顔を探してあるバーに辿り着く。そこで出会ったのはアパートの隣人のモモと、仮初めの夫を演じる夕一だった……。”三者と一体“の愛憎を巡る観念劇は「80年代の演劇評No.1」と評され、以降も多くの人々に愛されてきた。今回、唐組の代名詞とも言える紅テントで上演されるのは初の試みであり、本作にとっては34年ぶりの“里帰り”とも言える。果たして薄い皮膜を隔てたミクロコスモスで展開される情景とは!? 座長代行の久保井研と看板女優の藤井由紀、そして約4年ぶりに唐組に復帰した稲荷卓央に公演への意気込みを聞いた。

PROFILE

久保井研(くぼい・けん)のプロフィール画像

● 久保井研(くぼい・けん)
1962年、福岡県出身。
89年に唐組入団。90年『透明人間』で演出助手を務め、97年の再演では初めて演出を担当。 外部演出では『少女仮面』(10年)や渡辺えり一人芝居『乙女の祈り』(10年)などがある。唐組での代表演出作は『桃太郎の母』(93年)、『水中花』(01年)など。庭劇団ペニノやサンプルなど外部出演も多い。

藤井由紀(ふじい・ゆき)のプロフィール画像

● 藤井由紀(ふじい・ゆき)
1971年、埼玉県出身。
95年に唐組入団。多くの作品でヒロイン役を飾る。優雅なたたずまい、繊細な演技で知られる紅テントの看板女優。主演代表作は『糸女郎』(02年)、『泥人魚』(03年)、『津波』(04年)、『ふたりの女』(10年)、『秘密の花園』(16年)など。外部出演も多く、泉鏡花のリーディングや、Project Nyx、温泉ドラゴン、青蛾館『宝島』(17年)などに出演。2017年の『動物園が消える日』で第25回読売演劇大賞 優秀女優賞受賞。若松孝二監督 映画『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08年)など映像作品にも出演している。

稲荷卓央(いなり・たくお)のプロフィール画像

● 稲荷卓央(いなり・たくお)
1970年、北海道出身。
91年に唐組入団。以降2015年春公演まで全作品にほぼ主役で出演。主な主演作に『泥人魚』(2003年)、『鉛の兵隊』(2005年)、『盲導犬』(2009年)など。近年ではNHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)など、映像作品でも活躍をしている。舞台『ビニールの城』で約4年ぶりに唐組に復帰。

インタビュー写真

本の持つポテンシャルをどう大人の芝居で表現できるか

――― 80年代を代表する名作が初めて唐組の紅テントで上演されます。

久保井「7年前に座長の唐が倒れて、現場に立てなくなって以降は過去の上演作品を新解釈する形でおこなってきました。今のところは新作が期待できませんが、状況劇場からの作品が多数あるので、うちでできる一番面白そうな作品を選んで、時代のニーズにマッチングさせられるような内容になればと思っています。今回の『ビニールの城』は80年代にかなり評判になり、その頃の小劇場ベスト10に入るような作品です。僕も学生の頃に観ましたがかなり衝撃を受けた記憶があります。

今回の公演にこの作品を選んだ理由の1つは武者修行に出ていた稲荷卓央が戻ってくることがありますが、この本が持つポテンシャルと言いましょうか、それぞれの登場人物の思いの強さを、大人の芝居としてどう表現できるかということに挑戦してみたいと思いました。最近はうちの客層も若くなっていて、世代が一回り二回りして、今の若い人たちにとっては新鮮な劇空間だと感じられているみたいです。最近はやりのSNSなどで感想が書き込まれる中で、大人の芝居をやってどんな反応が見られるのかという興味もあります」

稲荷「僕は21歳で劇団に入りましたが、劇団に入ってしまうと、どうしても自分たちの作品を腰を据えてみることができないんですよね。出演を重ねていく中で役者としての行き詰まりも感じて、無理を言って武者修行という形で4年ほど外部公演に出させてもらっていました。客観的に唐組の舞台を観ることができ、改めて唐さんの戯曲の素晴らしさと、宝石の様な台詞の数々に圧倒されて、新鮮な気持ちに立ち返ることができました。その中でこの『ビニールの城』の本を読んだ時にすごく衝撃を受けてボロボロ涙が止まらなかったんですね。自分もそういう年齢になったのかなと思うと同時に、どうしても演じて見たいという気持ちが強くなって、久保井さんに相談して復帰に至った次第です。映像作品にも出演してきたので、その経験も含めて今回の舞台に還元できればと思っています」

藤井「劇団に長くいたご褒美ではないですけど、ただいただけではなく、それなりに久保井も稲荷も私も成長してきたんだなという思いもあって、今なら出来るんじゃないかという気持ちで挑みます。

昨夏に他界した辻孝彦を始め、団員も入れ替わりがある中で、残った私たちの成長した姿を観て欲しいという願いもありますし、テントなので色んな場所に建てられる身軽さもあります。かつて状況劇場の時代に唐が下北沢に本多劇場が建つ前の場所でテントを張って以来の公演なので、劇場の街の下北沢にテント1つで殴りこみに行くぐらいの気持ちで臨むつもりです。

また最近は団員にも若い世代が入ってきて、観客の若返りが進んだこともあり、違う意味で世代の垣根を超えてこの80年代の名作を観てもらい、唐組の伝統である“紅テント”を知ってもらえる良い機会だと思っています。また久しぶりに観た人たちにも、変わり続ける私たちの姿を観てもらえたら嬉しいですね。春の公演の『ジャガーの眼』では出演人数も多く、にぎやかな舞台でしたが、本作は大人の男女の関係に主眼を置いて少人数でおこなう濃密な劇。ある意味、唐が持つ二面性をこの1年でお客さんに堪能して欲しいという意図もあります。春公演を観た方は秋公演を観て改めて『唐十郎ってすげえな』と思ってもらえるはずです」

インタビュー写真

薄い皮膜越しに虚構空間を作り出せる面白み

――― 劇団の代名詞ともなっている紅テントですが、この時代にテント興行にこだわる理由を教えてください。

久保井「1つは劇場でない空間といいましょうか、街中に空き地さえあれば、そこで劇空間を作り出せるという面白みに尽きると思います。ぺらっとした1枚の皮膜ですが、それが街の中に出現することによって、1つの虚構の空間を作り出せてしまう。空間を切り取ってはいますが、薄い膜なので外からの雑踏の音が入ってきますし、その土地の中でやっているという感覚がある中で、どれだけ観客を虚構の中に巻き込めるかがチャレンジになります。『ジャガーの眼』のようににぎやかでダイナミックな芝居ならいいですが、今回の『ビニールの城』のように、いかに人間関係を見せるかという物語になってくると、街の雑踏との戦いにもなるでしょうし、演じる役者との戦いにもなってきます。失敗するか成功するか。かなり勝負ですね。

またテントを作ることによって、観客があたかも舞台の中に入り込んでしまっているかのような見方ができますよね。物語の力を借りて観客を引きずり込んでいくとでも言いましょうか。座席で芝居の見え方は変わってくるとは思いますが、持ち帰って頂くものは必ず満足いただけるものとして準備を進めております。

一方で今は街中に空き地を探すことが難しい時代。敵はコインパーキングだと思っています(笑)。そういう隙間を許さない世の中になってしまっていますから、隙間産業の僕らとしては、隙間を見つけて入り込んでいく行動力とアンテナをこれからも磨いておくつもりです」

――― クライマックスにおこなう「屋台くずし」という仕掛けも見所の1つですね。

久保井「同時に『屋台くずし』は観客の覚醒でもあるんじゃないでしょうか。物語が進んでいくうちにその虚構の中に取り込まれていって、『屋台くずし』でいわゆる外界が飛び込んでくるわけですけど、その外界がこれまで見慣れていたものと違って見えるようになれば面白いんじゃないかというように考えています。

それはお客さんが物語の中で冒険をすることによって、観終わった後にあたかも現実さえも違って見えてくるようになればしめたものと思っています。またそういう虚構世界を作り出したテントも、公演期間が終われば、まるで夢だったかのようにその場所から消えてしまう儚さも1つの美学かなと。また我々は社会から影響を与えられながら生きていますが、逆にそういうものをすべて取り込んで、人が覚醒していく面白みを演劇を通じてできればいいのかなと思っています」

ようやく時代が唐に追いついた

――― 正解がすぐに求められてしまうこの時代に、本作を上演する意義はありますか?

稲荷「不器用な男女が答えの見えない物を求めて会話をしていくという部分ではその真逆を行っていますよね。一方で、元腹話術師の朝顔は生身の人間との付き合いが苦手で、距離を置いてしまう人物。こういった傾向は現代においても決して少なくないと思うんです。当然、朝顔が持っている価値観は特異なものだとは思いますが、どこか皆さんからも共感を得るものがあるかもしれない。僕の演じる朝顔を見て、今のお客さんがどう感じるかはすごく興味がありますね。本作は唐さんの作品の中でもメッセージ性が強い作品だと思っています。ダイレクトな台詞を芝居を通していかにお客さんに伝えられるかが勝負になると思います」

久保井「私は唐が『自己と他者が関係性を作らないで、どうして生きていけるのかい?』と作品を通して投げかけている思いがします。本作が書かれたのは34年前。当然、時代背景も違ってきてはいますが、その当時に唐はこれから人間のディスコミュニケーションが始まる時代になるという事を予期していたのかもしれません。お客さんには他人との付き合いはどうなんだろうと思いを馳せながら観てもらえると物語がより膨らむと思います」

藤井「ある評論家の方とお話した時に、最近の若い子はアニメを良く観ているから、物語が飛躍することに慣れていると仰っていて、確かに『ジャガーの眼』の様なキャラクターが立っていて、物語が一瞬で飛躍する唐さんの手法は逆に今の子のほうが親しみやすいのではと感じています。公演を観に来てくれる若い子の食いつき方を見ていると、ようやく時代が唐さんに追いついたのかとも感じられますね。幕間で高校生の子達が人物相関図について解説し合っている姿を見ると新鮮な気持ちになります。一方で、親御さんを含めて3世代で来て頂いている方もいますし、誰がどの様に楽しんでもらっても良いという唐さんのお芝居の懐の深さはすごいなと。気楽な気持ちでテントに来て頂いて唐さんの珠玉の台詞の数々を楽しんで頂けたらなと思っています」

インタビュー写真

唐の別側面が観られる舞台

――― 益々、公演が楽しみになってきました。最後に読者へメッセージをお願いいたします。

稲荷「僕はこの本でどうしても言いたい台詞があるので、それを全身全霊で伝えたいですね。どんな言葉かは観に来てのお楽しみです!」

藤井「過去上演を映像で観た時に、少しだけと思ったら止まらなくなりました。最後は号泣してしまい、これまでにないほど心を動かされた作品です。その感動を皆さんと是非共有できたらなと。また、3会場の屋台くずしをした後の借景がそれぞれで違うので、3会場すべてを観てもらうのがお勧めです。これはテント興行にこだわる唐組ならではの面白みだと思います」

久保井「今回は荒事だけでない人間関係で物語を魅せるという、ある意味、唐十郎の別側面を見ることができる芝居だと思っています。人間的でありながら、心に刺さる台詞が沢山ちりばめられています。秋が深まり、観劇には一番良い季節ですので、どうか多くの方に観に来て頂ければと思います」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

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公演情報

「ビニールの城」のチラシ画像
劇団唐組第64回公演 唐十郎 '85名作選 第二弾
ビニールの城


2019年10月5日 (土) 〜2019年10月13日 (日)
猿楽通り沿い特設紅テント
HP:公演ホームページ

26名限定!3,500円 → 【整理番号引換券】2,600円さらに200Pゲット!

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