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WEBインタビュー一覧
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図師光博・石部雄一・久保田唱
ENGがボクラ団義の久保田唱を迎えて送る第十回公演は、「探偵だから」できることをしていたら、「探偵なのに」いつの間にか巻き込まれた。そんなシチュエーション・コメディだ。独特のテンポ感で進んでいく濃密な会話劇の行方は――。
● 図師光博(ずし・みつひろ)
愛知県出身。
学生時代に自主映画の制作を始め、2001年に映像集団ブルースキングを旗上げする。作品は映画祭などで高い評価を受け、大学卒業後に上京して俳優を志す。2007年のタンバリンプロデューサーズ作品「ロマンティックホテル」で初舞台を踏み、2010年あたりから多くの舞台に参加するようになる。ENGには第5回公演「バックトゥ・ザ・舞台袖?The stagewing of THRee'S」から数回参加。その他ボクラ団義、劇団6番シードの作品にも多数参加している。
● 石部雄一(いしべ・ゆういち)
山梨県出身。
舞台を中心に、役者として活動。近年の出演作品に『キャッシュオンデリバリー』、『雷ヶ丘に雪が降る』、『Re:BIRTH』(主演)等がある。また、舞台出演にとどまらず、『イリクラ Iridescent Clouds』、『熱海殺人事件3作品同時公演』、『イリクラ2017』では自身で演出も務める。ENGの作品には全て出演している。
● 久保田 唱(くぼた・しょう)
長野県出身。
役者としての活動を経て、2007年沖野晃司と共に企画演劇集団ボクラ団義を旗揚げ。その後、ボクラ団義の全作品で座付き作家として脚本・演出を担当している。その手腕が注目され、外部の劇団への作・演出や、商業公演、映像作品への進出など、活躍の幅を拡げている。
――― 役者としても活躍する佐藤修幸がプロデュースする演劇ユニットENGが、企画演劇集団ボクラ団義から久保田唱を迎えて贈る第十回公演「探偵なのに」。まずはどんな話になるのか聞いてみた。
久保田「日本で言う探偵って、推理小説や昔の刑事物に出てくる殺人事件の捜査をするようなものではなくて、まあ浮気調査とかが主な仕事な訳です。この物語の探偵もそうで、いわば街の興信所の人ですね。でも一応「探偵だから」尾行が得意です。そこで好きになった娘を個人的に尾行します」
石部「それって犯罪に近くない?(笑)」
久保田「そうやって様子を見ていると、どうやら危険が近づいていることがわかってしまう。「探偵だから」ね。やがて怖い人に捕まって、とある館に連れて行かれてしまう。すると今度は連れ込まれた館の住人としてその娘が登場する。さらにそこには他にも捕まっている人が居て……どんどん巻き込まれてくという話です」
なるほど。それは確かに「探偵なのに」なシチュエーションだ。とはいえシリアスなサスペンスである様子はない。
久保田「ええ、コメディです。今回、プロデューサーの佐藤さんからはサスペンスや推理の要素があるコメディをという話があったので、こんな、ワン・シチュエーション・コメディになりました。ENGで作品を作るのは5作目なんですが、そのうち3作がコメディ。ワン・シチューエーションにこだわる訳ではないんですけど、個人的に好きな会話劇になっていますね」
そして巻き込まれた先で、それこそ推理小説に出てくるような仕事を初体験する探偵を演じるのは図師光博。さらにどんな役柄になるかまだわからないが、これまでのENG作品には全部参加している石部雄一も重要な役回りで参加する。
久保田「今回は最初から探偵役を図師さんということでお願いされたので、彼を中心にして書きました」
図師「僕は久保田さんに以前脚本を提供してもらっていました。コントに近い、ショートコメディですがそれを全部僕が演じていたんです。ところが実際にはほとんど会ったことがなくて。初めてじっくり顔を合わせたのが、ボクラ団義の『時をかける206号室』でした。ENG作品には何作か参加しているんですが、僕の使い方にちょっと狂っているところがあって(笑)。『バック・トゥ・ザ・舞台袖』ではなんと「図師光博」役でした(笑)。自分で自分を演じるという。稽古では「図師さんらしくないですね」なんて言われたりして(笑)。そうかとおもうと「メトロノーム」では一切笑いがない役柄だったり。とても面白い使い方をしてくれます。まあそれは信頼関係の結果だと思っていますけど」
――― 確かに『ロスト花婿』で見せた妙なハイテンションで突っ走るお兄さん役は、まさに「柔らかい狂気」を感じさせるモノだった。一方で石部の役柄はまだわかっていないという。
石部「まだ情報は無いですね(笑)。ENGはプロデューサーの佐藤さんがその人間性でキャスティングされていることが多いです。だから稽古場の雰囲気が非常にいい感じになるんです。あと僕は久保田さんのワン・シチュエーションがともかく好きですね。ワクワクするというか、ワンシチューエーションだからこその、ディテールに対するリアリティというか、しっかりしたコンセプトを持っているんです。」
――― 主人公がいつの間にかトラブルに巻き込まれ、どんどん深みにはまっていく。そんなシチュエーションだが、久保田自身の体験にもそうしたことがあったのか。
久保田「実体験を作品にすることはないですね。でも子供の頃好きだった『金田一少年の事件簿』に「金田一少年の殺人」というストーリーがあったんです。金田一は常に捜査する側なんですが、この話では自分が犯人に仕立て上げられ、ずっと逃げ回っているそんな話でしたが、僕はそれにワクワクしたものです」
図師「でもこの作品はシリーズ化もできるよね。そうなると僕はずっと出られる(笑)」
――― それでは役者側からみた久保田作品の面白さ、魅力はどんなところにあるのだろう。
石部「セリフのリズム感は凄いですね。それが台本の中から伝わってくるんですね。それを具現化するのが難しい部分もあるんですが、それが崩れると、さらにはこの音でないと上手くシーンにはまらない。そのくらい繊細に書かれているんです。僕が感じる久保田作品への印象ですが、これもワンシチューエーションの会話劇だからこその感覚だと思います」
図師「久保田さんの台本は独特だと思います。狙ってはいないのでしょうが、僕はそう感じています。僕自身、久保田作品を沢山演じているからそう思うのかも知れませんが」
久保田「セリフが憶えづらい、って言われるんですよね」
図師「ええ、100パーセントそうですね(笑)。でもボクラ団義のメンバーは憶えが早いんです。さすがですよね」
久保田「でも最近のインタビューで劇団員がそう言ってるし(笑)」
図師「まだ言ってました?(笑)独特なんですよ」
石部「リズムとかの部分かも知れないけれど、面白いのが、舞台上で聞いてはいけない情報があるんです。というのは、舞台って基本的に引き(全景を俯瞰するような)の見方をしますが、ある瞬間ですっと寄る(クローズアップする)ことがあって、そこで変に反応して引っ張られていると行き止まりになっているとか。そういった部分が凄く多いです。だから道筋を間違えるといけない迷路みたいな部分がありますね」
――― 濃密に詰まったセリフとそれが生み出すリズム感に観客がついつい引き込まれていく。きっとそんな舞台になるであろう『探偵なのに』。最後に三人それぞれの抱負を尋ねてみた。
図師「ENGで3本目のコメディだから、お客さんへのハードルはずいぶん上がっていますね。その責任も重いのですが、この座組はほぼほぼ共演しているメンバーなんで安心感もるんです。だからあんまり心配していない自分もいます。まあハードルを軽々越えるような芝居をしたいと思います」
石部「さっきも言いましたが久保田さんの作品はディテールに対するリアリティがしっかり描かれています。よく稽古でも「普段そんなことしないよね」と指摘されることが結構あるように、不自然さを極力排除している。だからお客さんもストレス無く、自然に観ることができる。そこが面白味だとおもいますし、独特のテンポ感やスピード感が自然にかみ合っていく。そんなところも見所になると思います」
久保田「もともと会話劇が好きなんです。普段から人間同士の自然な会話って面白いとおもっています。それが舞台に乗せて嘘くさくなった瞬間に面白くなくなるんですよね。だから僕自身はそれほどの気負いはなく、日常を大切にしたものを作りたいと思います。コメディって普通あり得ない事が起きるから笑っちゃうんですが、そこにとんでもない出来事や人が出てくるコントと違って、もっと自然に笑えるものですから。まあ気楽に観に来て欲しいですね」
(取材・文&撮影:渡部晋也)