> WEBインタビュー一覧 > 藤波瞬平・山木 透・さかいかな
「圧倒的にリアルな台詞」と「日常をのぞき見する感覚」を信条とし、日常をそのまま切り抜いたような世界観の中に、些細な問題や、心の距離間を丁寧に描いてきた演劇ユニット「スプリングマン」。全作品の作・演出を手掛けてきた澁谷光平が放つ最新作は、家族の濃密な人間関係を描く現代の家族ドラマだ。家族間だからこその“ムズムズ感”を人間関係の変化や心の機微を通して丁寧に描く本作は、令和の時代に生きる私達に新しい家族のあり方を示してくれる。主演の藤波瞬平、山木透、さかいかなに本作への意気込みを語ってもらった。
● 藤波瞬平(ふじなみ・しゅんぺい)
1983年11月21日生まれ、東京都出身。
東京演技研究所 主宰。2006年に加藤健一事務所俳優教室卒業後、フリーランスの役者として古典から現代劇までジャンルを問わず数々の舞台で幅広い役を演じる一方、演出家としても活動し、評価を得ている。
◆舞台◆
一人芝居「審判」
F³「楡の木陰の欲望」
演劇企画集団THE・ガジラ「寒花」
演劇企画集団Jr.5「徒然アルツハイマー」
演劇集団 砂地「アトレウス」「Hamlet」「令嬢ジュリー」
クロジ「きんとと」「異説 金瓶梅」「僕の愛した冒険」
スプリングマン「弁当屋の四兄弟」
◆演出作品◆
Aloha Project Presents「巣から落ちる雛が聞こえる」
ユトサトリ。「スコール」
2019年10月11(金)〜20(日)
下北沢本多劇場で上演予定の
加藤健一事務所
「パパ、I LOVE YOU!」
に出演が決まっている。
● 山木透(やまき・とおる)
主な出演
◆舞台◆
ミュージカル「忍たま乱太郎」第8弾〜第10弾(2017年〜2019年)
劇団た組。「在庫に限りはありますが」(2019)
「LDKミディアム2」(2018)
劇団た組。「貴方なら生き残れるわ」(2018)
劇団た組。「壁蝨」(2017)
「不滅の恋人」(2016) ほか多数
◆テレビ◆
テレビ埼玉「情報番組マチコミ」月曜日レポーター(2017年〜)
● さかいかな(さかい・かな)
1986年11月11日生まれ、福岡県出身。
声優、歌手、舞台女優。2005年、テレビアニメ『REC』のヒロインでデビュー。以降、『地獄少女』シリーズきくり役、『ミラクル☆トレイン』あかり役、『ネプテューヌ』コンパ役等 実写映画『キサラギ』如月ミキ役、2010年以降は舞台を中心に活動。近年は【さかいかなプロデュースAloha Project】Aloha Project Presents親愛なる時代たちへ(2019年6月6日〜8日、新中野ワニズホール 作・森悠)で演出を手掛けたほか、2019年「風水土のしつらい展」(5月15日〜20日 大丸梅田店15階ミュージアム)では民族楽器の演奏と現代の東洋服ファッションショー「身衣(MIGOROMO)ショー」に演技出演するなど表現の場は広がっている。
役者たちがどれだけリアルを届けられるか?
――― お三方とも過去にスプリングマンさんの公演を経験されていますが、どんな印象をお持ちですか?
藤波「僕が初めてスプリングマンさんの公演を観たときは、20代前半の若者の物語だったのですが、ああ、こういう若者はいるわ。とすごく納得したんですね。すごいなこんな事できるんだと。自分が役者として出る事になったら果たしてできるだろうかと思ったのが最初です。すごく小さなミクロな視点を丁寧に描く劇団さんで、いわゆる家族モノや友情モノといった時代が変わっても変わらない普遍的なものをずっと描き続いている。それを重々しくも、軽々しくもなく、優しく愛の溢れる作品を描くのが好きなところです。
今回は桜田家という家族の話で、激しくぶつかりあう事もないけども、むずむずするような微妙な空気感の兄弟を中心に、次第に8人の家族の距離感が縮まっていく様子をお客様に覗き見してもらうような作品です。今までの家族モノとは少し違う、ドラマ性を極力そぎ落とした、『ああこんな事あるよね』と共感してもらえるリアリティがちりばめられた作品になると思います」
山木「僕もスプリングマンさんの作品を観させてもらって感じたことは、どこかで起きていそうなお話だなと。日常を切り取ったような物語が多いなと感じました。僕は3年前に『不滅の恋人』に出させてもらったのですが、さかいさん演じる姉との喧嘩がすごい楽しくて。まだ舞台に立つようになって経験も浅かったのですが澁谷さんにアドバイスを頂いて、色々な引き出しを開けてくれるというか、やっていてすごく楽しかったので、また是非出演させてくださいとお願いをしていました」
さかい「『不滅の恋人』で弟役の山木さんはこちらの芝居に対してすごく自然にニュートラルな反応をしてくれる印象を持ちました。皆、相手を感じてその場に立とうというメンバーが集まっているから、それで物語が膨らんでいくと思います。リアルな日常を描くからこそ、お客様に家族ってこういう距離感だよねと実感を持ってもらうために、役者たちがどれだけリアルを届けられるかしっかり作ることを心がけています。今回は今まで公演のメインキャストで構成しているので、自分で言うのもなんですが、信頼できるゴールデンメンバーというか、全員4番打者というか(笑)。澁谷さんが届けたいリアルをすごく大変な思いをしてチャレンジしていくのではないかと思います」
現代ならではの新しい家族像を描く
――― 家族という濃密な関係性を皆さんがどのようなお芝居で表現するかも気になるところです。
藤波「今回兄弟役となる山木君とは初の共演なので、どういう芝居を皆がしてくるのかすごく楽しみです。僕自身はあまり目立つ気がなくて、周りの人達の芝居に合わせることを意識しています。僕は山木君の芝居自体を観たことはないですが、飲みに行ったり話したりして、こいつの芝居は絶対面白いなと」
山木「どんどんハードルが上がっていくのでそういうのやめてください。僕はそれが一番恐いです」(一同笑)
藤波「大げさでなく、1人1人がどんな芝居をしてくるか、未知数な人間しかいないんですよ。でもそれがものすごく楽しみで、稽古になったら誰よりも楽しむのではないかと思います」
山木「スプリングマンさんの座組みは良い意味で個性的な方達が揃っていますよね。
僕はあまり勉強するという言葉を使いたくないのですが、この方々から盗める所は盗みたいなと思っています。8人で家族を作りあげていく過程を楽しみにしています」
藤波「確かに個性はすごいよね。でも全員に共通しているのが、皆澁谷さんの作品が好きで、澁谷さんが作る空気感を分かっている気がします。もしずれてもすぐに『それ、つまらないから辞めて』と突っ込みが飛んできますけど(笑)。
お客様も10代から80代までと年代層がすごく幅広くて、本当に全世代に向けて作っているんだなと実感します。今をしっかり描ける作家さんはすごく稀有だと感じていて、家族は繋がりが強くないといけないという先入観がどうしてもある中で、現代ならではの新しい家族像みたいなものをリアルに描いてくれる。それを純粋に今、この令和の時代にやることはすごく意味があるのではないかと思っています」
さかい「他の劇団でできない事ができるのが、皆スプリングマンさんに出演したいという動機になっているかもしれませんね。私は今回、藤波さんと夫婦を演じますが、この時代はそれぞれ夫婦に個性があるというか、決まった形が無いと感じているので、型にはめずに、2人だけの夫婦観が作れたらより伝わりやすいのかなと思っています。
振り返ってみると、3年前の『不滅の恋人』では、私自身がすごく自分の個性を出そうとしていたなと。事実、個性を使わせてもらった公演でしたが、今藤波さんのお話を聞いて、今回は皆さんが作り出す世界の中でいかに、何もせずにありのままでいられるかというチャレンジが出来ると思っています。お客様が舞台を観終わって、『ああ、この人は自分だったな』と思ってもらえたら良いですね。誰かの心に届けるという気持ちを大切にしたいと思っています」
その部屋にいるかのような空間を作る
――― そういった濃密な関係性を描くミクロな空間は小劇場ならではとも言えますね。
さかい「大きなものを凝縮できる楽しみがありますよね。大箱と小劇場往復できることはすごく良いこと。表現を大きい劇場の後ろまで届けることも楽しい。でも客席に座っているお客様がまるでその部屋の中にいるように巻き込む空間を作ることはすごく難しいけども、ある意味すごい挑戦だと思います。そういう濃密な空間は小劇場でしか味わえないことですし、すごく贅沢ですよね。でも澁谷さんから任される自由度が高い分、こちらもどれが正解か頭を悩ませる機会も多いですが(笑)」
山木「それすごくわかります。僕もその距離感が好きです。大きい箱ではできない、スプリングマンさんでしか描けないテイストがすごく好きです。でも独自のテイストであっても決してハードルは高くなくてきっとお芝居をあまり観たことがない方でも抵抗なく入っていける世界だと思います」
――― 公演が楽しみになってきました。最後に読者にメッセージをお願いします。
山木「3年ぶりのスプリングマンさんで、すごく楽しみであるし、絶対素敵な作品になることは分かっているので、自分の想像も超えるような、でも自然体で。あまりお芝居を観たことがないひとに観てもらいです。是非あまり構えずに観に来てもらいたいです」
藤波「家族という、切っても切れない関係性だからこそギクシャクしてしまうこともありますが、人が人を思いやることはお芝居に限らず人生でとても大切な事だと思っていて、澁谷さんの作品にはその大切なものがしっかり描かれていて、それをきちんと表現できる役者が集まっています。そうして生まれたものが結果的に愛の溢れる作品になっている。家族愛というのがどう描かれるのかに是非注目して観てもらいたいです。そして観終わったあとに、ちょっと家族に電話をしてみようかな、会ってみようかなと思ってもらえたら嬉しいです」
さかい「今、このタイミングで3年ぶりに呼んで頂いて、私にとっても意味があるのかなと。この時間を大切にして演じて、それをお客様に届けたときにこの物語の台詞の1つが何か波紋を起こすことが出来たら嬉しいです。是非、一歩を踏み出して劇場に遊びに来てください」
(取材・文&撮影:小笠原大介)