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時代の流れの中で生きる人々の生と性を、繊細に激しく描く作風で定評のある演劇プロデュース集団・西瓜糖。昨年からは奥山美代子と山像かおり(秋之桜子)の二人体制となり、外部演出家とのコラボレーションで作品作りを行っている西瓜糖が、下北沢ザ・スズナリで新作『ご馳走』を上演する。演出を花組芝居の加納幸和が手がけ、メインキャストに山路和弘、井上和彦を迎えた本作は、昭和45年を舞台に、二組の熟年夫婦に起こる軋みをミステリー要素も交えて綴るという。西瓜糖ファンはもちろんのこと、初見の人もその世界に引き込まれること間違いなしの作品になりそうだ。
● 奥山美代子(おくやま・みよこ)
北海道出身。文学座所属。2012年に西瓜糖を旗揚げ。1990年、文学座アトリエ公演『グリークス』(鵜山仁演出)で初舞台を踏んだ後、文学座作品および外部作品にも多数出演。『ぬけがら』『タネも仕掛けも』『黴』『死旗』『ヴェニスの商人』『マクベス』『ハムレット』など多くの作品で主演、メインキャストを務める。西瓜糖の全作品を制作、出演。10月には、文学座本公演『一銭陶貨』(佃典彦作/松本祐子演出)出演。
● 山像かおり(やまがた・かおり)/秋之桜子(あきの・さくらこ)
大阪府出身。1988年〜2017年まで文学座に所属。文学座公演のほか、2005年に渡辺美佐と羽衣1011を、2012年に奥山美代子・松本祐子と西瓜糖をそれぞれ旗揚げし、全公演に出演。秋之桜子のペンネームで脚本も手がける。多くの中小劇団やプロデュース公演、劇場アニメ、小説など幅広いジャンルに作品を提供。声優としても、洋画、海外ドラマ、アニメーションの吹き替えで主演/メインキャスト多数。8月には流山児★事務所創立35年記念公演『赤玉★GANGAN 〜芥川なんぞ怖くない〜』で脚本&出演。
● 加納幸和(かのう・ゆきかず)
兵庫県出身。日本大学藝術学部演劇学科卒業。俳優、演出家、脚本家。1987年『ザ・隅田川』にて、花組芝居を旗揚げ。ほぼ全ての作品の脚本・演出を担当し、自らも女形として出演。帝劇・新橋演舞場など大劇場での出演・演出・脚本も多数こなし、ドラマや映画にも進出。2013年、西瓜糖第2回公演『鉄瓶』に出演、2014年の花組芝居『夢邪想』では脚本を秋之桜子に依頼するなどの縁がある。6月には、花組ヌーベル 実験浄瑠璃劇『毛皮のマリー』(脚本・演出・主演)、7月には、ミュージカル『刀剣乱舞』 髭切膝丸 双騎出陣2019(出演)が控える。
● 山路和弘(やまじ・かずひろ)
三重県出身。1977年劇団青年座に入団。2011年『宝塚BOYS』『アンナ・カレーニナ』にて菊田一夫演劇賞・演劇賞、2018年、一人芝居『江戸怪奇譚-ムカサリ-』『喝采』にて毎日芸術賞を受賞。そのほか近年の出演作に、舞台『かもめ』『メリー・ポピンズ』『死と乙女』『二十日鼠と人間』『罪と罰』、映画『日本のいちばん長い日』『帝一の國』『曇天に笑う』、ドラマ『軍師官兵衞』『ミス・シャーロック』など。洋画吹き替えも多数務める。7月下旬より、舞台『お気に召すまま』(東京芸術劇場他)出演。
● 井上和彦(いのうえ・かずひこ)
神奈川県出身。1973年に声優デビュー後、『キャンディキャンディ』アンソニー役、『サイボーグ009』 島村ジョー役、『妖怪人間ベム』ベム役、『美味しんぼ』山岡士郎役など数多くのアニメ作品に参加。 洋画や海外ドラマの吹き替えも多く、近作としては『ドクター・ストレンジ』『ダンボ』『ハンニバル(ドラマシリーズ)』『NICS』など多数。並行して舞台・映像作品にも出演し、活動は多岐にわたる。2009年には、第3回声優アワードにて助演男優賞を受賞。
物語的な演劇を目指してやってきたのが認められつつある
――― 新体制となった西瓜糖で2本目の新作ですが、どんなところからスタートしたのでしょうか?
山像「私たちの場合は、お話より先に、どういう人と一緒にやりたいかというのが最初にあるんです。ただ、今までの作品は割と戦争にまつわるお話が多かったので、今度は戦争をあまり感じさせないようなもので、私たちの世代にしかできないものがいいねって奥山と話をして、まず山路さんと井上さんを捕まえることができたので、よっしゃあ!って感じで(笑)」
山路「捕まっちゃった(笑)」
井上「(笑)」
――― このお二人に声をかけたのは?
山像「もともと西瓜糖の舞台を観てくださっていて、面白いって言ってくださるお二人でもあったし、実は今まで何回か声をかけさせていただいたことがあったんですけど、お忙しくて出演は叶わなかったんです。色っぽい大人の男の役者さんで、そういう方と一緒にできる機会はなかなかないので、ぜひやりたいなと思っていました」
井上「西瓜糖の醸し出す空気や空間はすごく落ち着くし、役者として憧れるというか、こういう世界の中に入ったらどうなるんだろうなと思っていました。山路さんとは声の仕事や朗読劇でちょくちょくご一緒させてもらっているので、今回はすごく嬉しいですね」
山路「今、彼が言ったような西瓜糖の芝居の空気というのは、他にあまりないんです。昔はあったかもしれないけど、最近はあまりないというか。それは我々の世代にとってすごくホッとするところがあって、ぜひやりたいなと思っていました」
山像「ありがたいですね。私たちの時代は、文学座で言うと『ふるあめりかに袖はぬらさじ』とか『華岡青洲の妻』のような物語的な演劇が多い中で育ってきたのですが、最近はちょっと少なくなってきている。西瓜糖では、その時間だけは物語を見るっていうような演劇を目指していきたいといつも思っているんです。だから、特に一緒に時を過ごし、芝居を作ってきた人たちには認められつつあるのかなと感じます」
山路「そういう芝居を、若いときは力ずくでやったじゃない? それが今、齢六十を超えて、もうちょっと肩の力を抜いてやれたらいいなと思ったりするんだよね」
井上「西瓜糖のお芝居は、演劇してます!っていう空気を最初に漂わせないところがいいんです。みんなそこでリアルに生きている人に見える」
山路「すごい褒め言葉じゃないですか」
井上「取材だからね、いいこと言っておかないと(笑)」
いろいろな綺麗さを知っている加納さんの演出にしごかれたい
――― 加納さんは第2回公演『鉄瓶』に役者として出演されていますね。
加納「西瓜糖の旗揚げ公演に、親戚の森田順平や、お世話になった先輩の若松武史さんが出ていたので観に行ったんですけど、ちょっと前までは演出家の時代で、今は作家の時代だと言われている中、作家の世界を押し付けてくるような作品が多いと思うんです。でもそういう押し付けがなくて、それぞれの役がすごくしっかり描かれてるのがいいなと思って、僕も出たいな、みたいなことをちょっと言ったら……」
山像「耳がピクッと動いて(笑)。全然面識がなかった加納さんをグッと捕まえました」
――― そして今回は演出と。
加納「僕が外部で演出するときは時代劇やミュージカルが多くて、等身大の芝居を演出したことがないんです。劇団ではたまにやったりするんですけど。だから、実はずっとこういうのをやりたかったんです」
山像「加納さんの作るお芝居は、すごく人間を見ているんじゃないかと思うんです。その目線が怖いと思うこともあるくらい。今回は、そういう目線でこの大人たちを演出してもらうとどうなるかなと思って演出をお願いしました。秋之と違う目線を入れてもらうことで広がりも出るだろうし、お芝居を観て面白かったっていうエンターテイメント的なところも欲しいので、そこにもすごく長けていらっしゃる加納さんにぜひ、ということで」
奥山「ものすごく楽しみですね。花組芝居の舞台を観て私がいつも感じるのは、美しいことは正義だということ。もちろん加納さんご自身が美しいというのもありますが、衣装、メーキャップ、音楽、セット、照明、すべてがトータルで美しい。うちはあそこまでできませんし、もちろん作品も全然違いますけれども、加納さんに演出していただくことでどうなるのかっていうのは、役者として楽しみで仕方ないですね」
山像「別に派手なことをしなくても、佇まいや仕草で美しさを感じさせることはできますよね。昔の女優さんにはそういう人がたくさんいらっしゃいましたし。今はただ自由にやればいいっていう現場も多い気がしますが、割と規制をかけた上で芝居をすれば、観ている方もゾワゾワすると思うし、私自身がそういうのがすごく好きなんです。今回は衣装やメイクに頼らずとも、そういう美しさを出せるような人たちを選んだので、そこにいるだけで何かを想像させるようなことができればなと思います。しかも、いろいろな綺麗さを知っていらっしゃる加納さんの演出ですし、若いキャストも何人もいるので、しごいていただきたいですね。“その役なのにその足で歩くの?”みたいな(笑)」
――― ダブルキャストも含めて、西瓜糖としては大人数のキャストですね。
山像「ダブルキャストは今回が初めてです。ありがたいことに、西瓜糖のワークショップオーディションはいつもたくさんの方に来ていただいて、可能性が感じられる方でもお断りすることがあったんですが、今回は奥山からの提案で、少しでも多くの人を採用した方が見えてくることも多いんじゃないかって。小園ちゃん(小園茉奈)みたいにワークショップから出演が決まって(第5回公演『うみ』)、今回もう一度出てくれることになった人もいるし、そういう発展もあるので」
新元号“令和”にふさわしく、名前に“和”が入った人が3人も!
――― 山路さんと井上さんは、それぞれ奥山さん、山像さんの夫役を演じるそうですが、お二人自身を想定したキャラクターになっている?
奥山「なっていますね」
山像「はい、当て書きです」
加納「お二人を知っていると、ああそうだなって思えますね」
山像「当て書きの経験ってありますか?」
井上「どうだろう。昔あったかもしれないけど……僕はもともと声の仕事が先で、それから舞台も少しずつやるようになったんですけど、二十代の頃に“台詞はいいけど動きはロボットみたい”って言われて、すごく落ち込んだんです。鉄人28号みたいだって」
山像「そんなこと言われたんですか? かわいそう」
井上「だから今回は、人間として動けるように頑張ります(笑)」
山路「僕は当て書きってあんまりないですね。こいつ俺のことこんなふうに思ってるのかって、心にわだかまりができたらどうしよう」
山像「そうは考えないでくださいね(笑)」
加納「最初のイメージはあるかもしれないけど、文字の上で動き出しちゃうから」
山像「そう。加納さんは本を書かれるからわかると思うけど、途中からは最初のイメージを忘れて、物語に入っていっちゃいますから」
山路「じゃあ、何も考えなくていいってことだ」
井上「どんなふうに脱線しているか、楽しみですね」
――― こうして皆さんが話している雰囲気からも、良い舞台になりそうな感じが伝わってきます。最後に、公演を楽しみにしている方に一言ずついただけますか。
加納「西瓜糖は旗揚げからずっと松本祐子さんが演出をされて、前回(第6回公演『レバア』)は寺十さん(寺十吾)がやって、ある種の空気ができているんですけど、僕がやるんだったらやっぱり何か変化がないとっていう話をさせてもらって。人間関係の運びには西瓜糖らしさがありつつ、ちょっと今までにない構成を取り入れています。演出家にとっては、これは足枷だぞっていうト書きもずいぶんあって(笑)、逆に発奮していますね。だから、確かに西瓜糖なんだけど、今までとは違う。それが今後の西瓜糖につながるものになればいいなと思っています」
山路「若い頃は、年取った役者を見てて、自分も年を取ったらあんなふうに自然で楽にやれるようになるのかなって思ってたんだけど、いつまでたってもクサいことやったり力入れたりしてる。最近はそういうところが嫌になっちゃって、どうしたら力抜いてやれるんだろうってことばかり考えてるんです。だから今回は、ほんとにそのまんまの等身大でいられたらいいなっていうのが目標ですね」
井上「でも、力抜けてますよね」
山路「何言ってんの(笑)」
井上「先日もスタジオで一緒になったんですけど、どうしてこんなに楽に喋れるんだろうって、悔しかったです。そして僕は、皆さんのようにちゃんと演劇に関わってきたわけじゃなく、いつの間にか仕事を始めて45年経っちゃった人がこんなところに入っていいのかなと思いながらも、今回はそれなりに自分の生きてきたことが出せればいいかなって。そもそもこのお芝居に出ることにしたのは、本当に大好きな役者さんたちの胸を借りていっぱい遊んでやろうと思ったからなので、皆さんと一緒にいい時間を楽しく過ごせたら最高ですね」
奥山「こんなに素敵な皆さんとご一緒できるようになったのも、西瓜糖を続けてきたおかげだなと思うし、これからも続けていきたいと思います。そして今回の脚本を読んで……毎回いいなとは思ってるんですけど、今回は圧倒的にいい。それってやっぱりすごいことだし、続けてきた成果なんじゃないかなって思います。あとは演出家と役者が頑張ればいいだけ、というのが私からのアピールです(笑)」
山像「まず、憧れのスズナリで西瓜糖がこんなに早くできるとは思ってもいませんでした。しかもこのメンバーで……井上さんが見つけてくださったんですけど、山路さんと井上さんと加納さんの3人とも名前に“和”が入っていて、新しい元号“令和”にぴったり(笑)。そんなメンバーが集まって、先ほども話したように、大人にしかできない演劇を作りたいです。
今回は、私が好きなミステリー要素も含めているので、最後まで飽きずに観ていただけると思います。演出に加納さんをお迎えすることで、私も作家として新しい刺激をいただいて、より面白いものにできればと思っています。ぜひともスズナリを満員にしたいので、皆さんお誘い合わせの上、いらしていただきたいです」
(取材・文&撮影:西本 勲)