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大人の男女が腹の底から楽しめるゴージャスなショーをコンセプトに掲げ、2002年から公演を重ねているミュージカルレビュー『ダウンタウン・フォーリーズ』。構成&演出:平哲郎、振付:川崎悦子、音楽監督:島健という強力チームのもと、歌あり踊りありタップあり、さらにはコントも漫才もパロディも……と、まさに何でもありの抱腹絶倒のショータイムが繰り広げられる。もちろん、クオリティはすべて超一流。それなのに、こんなことやっていいの!?というところまで振り切っているのが『ダウンタウン・フォーリーズ』の魅力だ。3月に上演されるVol.11が目前に迫った今、第1回目から出演している島田歌穂と、今回初出演となるHIDEBOHの二人にインタビュー!
● 島田歌穂(しまだ・かほ)
1987年『レ・ミゼラブル』で脚光を浴び、同作の世界ベストキャストに選ばれ、出演回数は1,000回を超えた。近作では、17年『ビリー・エリオット』、18年『メリー・ポピンズ』『ナイツ・テイル』に出演し好評を博す。また、17年 ディズニー映画『美女と野獣』、19年『メリー・ポピンズ リターンズ』にて吹替を務める。女優、歌手として幅広く活躍。芸術選奨文部大臣新人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞多数。大阪芸術大学教授。 今年、デビュー45周年を迎えた。
● HIDEBOH(ひでぼう)
1967年10月7日生まれ、東京都出身。北野武監督作品『座頭市』(2003年)のハイライトとなるタップ&ストンプシーンに出演、振付から総合演出までを手がけ、タップダンスを日本に大きく広めた第一人者。音楽性の高いリズムタップを基調とし、パフォーミング性を高めたオリジナルスタイル「Funk-a-Step」を考案。ダンサー、アクター、シンガー、コレオグラファーとして多方面で活躍中。
初演で見た“客席のうねり”は今も忘れられない
――― 前回のVol.10からは4年ぶりの公演になりますね。
島田「でも、そんなに経ったという気がしないんですよ。これまで毎回、平ワールドの中でいろんな発見をさせていただきながら、お客様にもたくさんのことを教わってきた『ダウンタウン・フォーリーズ』を、またできるんだ!という喜びの方が大きくて、とても4年ぶりとは思えないです。そして今回は強力なHIDEBOHさんをお迎えして……」
HIDEBOH「新人でございます(笑)」
島田「何をおっしゃいますやら(笑)。この稽古場に来るとすべてが蘇ってきて、毎日ゲラゲラ笑いながら、またここに帰ってきたという感じで今回もやらせていただいています」
HIDEBOH「いつも笑いが絶えないですからね。僕は30代前半くらいの頃に初めて『ダウンタウン・フォーリーズ』を観て興味を持ったんですけど、もともと両親がショービズの人間だったので、いわゆるレビューというか、笑いと踊りとエンターテインメント、そして何より音楽があってタップダンスが土台になったショーがとにかく好きだったんです。だから、すごく楽しんだ一方で、やられた!って思ったのをよく覚えています。そんな舞台にまさか自分が参加できるなんて、本当に不思議なご縁だと思います」
――― 正直、もっと前から関わっていてもおかしくない感じもあります。
島田「そうですよね(笑)」
HIDEBOH「もともと歌も大好きなので、こんなに歌わせていただいてお芝居もあって、タップが土台でという、ずっと憧れていた場所に来れたかなという気持ちはとてもあります。やっとスタートラインに来れたというか。自分はこういう年齢なので後輩と一緒にやる仕事が多いのですが、ここでは先輩方が何歩も先まで振り切っていらっしゃるから、それに一生懸命ついていって、なんとか追いつけ追い越せという気持ちで取り組んでいます。とても新鮮で面白いですね」
――― コントやパロディなど、かなり振り切った表現も多い舞台ですが、最初からスムーズに入っていけたのですか?
島田「私は意外と“こんなのできない〜”っていうのはあまりないタイプなので(笑)、“えっ、ここまでやるの!?”とか、“これってどういう意味?”って思いながらも、とにかく平先生を信じて稽古しました。そしてVol.1の初日、この平ワールドをちゃんと伝えられるだろうかとドキドキでしたが、ワンシーンごとにお客様がどんどん前のめりに反応してくださって“これでいいんだ!こんなにウケてくれるんだ!”と驚いたのは忘れられません。
特に最後のクライマックスシーンで、お客様が大爆笑してくださり、「客席がうねる」ということを体験し、これはすごいなと。あれは生まれて初めての感覚でした。そのときから、もう平先生にすべて身を預けていこうという、みんなの不思議な結束みたいなものができました。私自身もそうとう芸域を広げていただいて、どんな着ぐるみも被り物も怖くないです(笑)」
HIDEBOH「ただ笑ったとか騒いだというのとは違って、ほんとに客席がうねるというのは、芸をやる人間にとって最高のこと。まさにそれこそがエンターテインメントだと思います」
心から信頼できる仲間たちと作っていく
――― Vol.1からほぼ全公演に出演している北村岳子さんと、Vol.5から参加している平澤智さんも、『ダウンタウン・フォーリーズ』ではおなじみのメンバーですね。
島田「タカちゃん(北村)は本当に付き合いが長くて……私がミュージカルをやり始めた頃、1983年か84年頃からよく共演させていただいて、心から信頼させてもらっている方なので、Vol.1でタカちゃんも参加すると聞いたときは“ブラボー!”って感じでした。彼女と一緒に三味線を抱えて漫才をする《トクホン姉妹》というのがあるんですけど(笑)、そういうことをガッツリやれる関係はタカちゃんしか考えられないですね。もちろん歌もダンスも素晴らしくて、すべて安心して一緒にやれる、かけがえのない人です」
HIDEBOH「北村さんはまず芸達者で、クオリティの詰め方、完璧さがすごいです。そして私が言うのもおこがましいですが、《トクホン姉妹》を観ると、天が巡り会わせた二人という感じがします。やっぱり芸というのは間(ま)が大切なんだなと強く思わされますね」
島田「平澤さんも30年以上いろんな作品で共演していますが、あの存在感はワン&オンリーですね。普段は振付師の先生としてもバリバリ活動されているのに、ここに来るといじられキャラで(笑)。きっと平先生も、平澤さんのことが大好きなんだと思います。味のあるキャラクターとして、『ダウンタウン・フォーリーズ』には欠かせないですね」
HIDEBOH「僕も観客として観ていたときから、不思議なキャラクターだなと思っていました。途中で出てきて、何かをやって去っていくという……」
島田「一人で放置されるシーンが多いんですよ(笑)」
HIDEBOH「そこで本人の素が見えたり、ちょっと困っちゃったりということがなくて、なぜかちゃんと成立してしまう。いろんなことを気にしないで突っ走るすごさがありますね。一人で全部解決するというか、自家発電型というか」
島田「あはは!それ面白い(笑)。まさにそこが魅力ですね」
HIDEBOH「二枚目にも三枚目にもなれるし、攻めるところと引くところが、計算されているのかいないのかわからない。歌穂さんがおっしゃったように、本当にワン&オンリーです」
真剣にふざけて、観る人を笑顔にする舞台
――― 音楽監督を島健さんが手がけ、《ダウンタウン・フォーリーズ管弦楽団》と称する生バンドがバックを務めるのも贅沢ですね。
島田「小さな規模の舞台は録音した音源を流すことが多いですが、『ダウンタウン・フォーリーズ』はほんとに生演奏で、音楽的にも何もかもクオリティ高く、というところに毎回こだわっています」
HIDEBOH「もちろん音源を流すスタイルにも別の面白さはありますが、生バンドが演奏するというのはショーの根源ですし、もちろん島健さんが手がけられるということで、とてつもない一流の音なんですね。それを聴くだけでも価値があるのに、歌も踊りも芝居も加わったここまでのショーというのは、他に類を見ないものだと思います。そして、その根底にある平先生の世界は、とにかく“粋”なんです。なかなか現代では少なくなってきたお洒落な笑いを、ぜひ生で観ていただきたいですね」
島田「そして忘れてはならないのが、初演からずっと振付をしてくださっている川崎悦子先生です。平先生が最初に提示されたものに対して、川崎先生がまったく違う角度からアイディアを加えることで世界がバーッと広がって、とても新たな楽しいシーンが生まれる……そういう化学反応がすごい。そんなふうに、キャストもスタッフもバンドメンバーも含めた“チーム”でずっと育ててきたのが『ダウンタウン・フォーリーズ』なんです」
HIDEBOH「もちろん笑いは大きな要素ですが、もっと大きな意味での“笑顔”……観る人を幸せにしてくれるショーだと思います。歌も踊りも芝居もめちゃくちゃすごくて、しかもそういう人はこんなことやらないだろう、というのが全部崩される。どこまでふざけていて、どこまで真面目なのかわからないまま、どんどん巻き込まれていくんです」
島田「ふざけたことを真剣にやるという(笑)。1つ1つの間(ま)まで本当に真剣に作っていて、アドリブは一切ダメなんです。でも稽古場で起きた面白いことはどんどん取り入れたり、意見交換も自由にさせてくださるので、いろいろ試行錯誤しながら、しっかり平先生の大きな懐の中で守ってもらっているという安心感はありますね」
HIDEBOH「古今東西のいろんな作品へのオマージュやパロディもたくさんありますが、元を知らなくてもちゃんと楽しめるようになっています。それも『ダウンタウン・フォーリーズ』のすごいところだと思いますね」
島田「大人の世代が楽しめるショーを作りたい、ということで始まった『ダウンタウン・フォーリーズ』ですが、めくるめくエンターテインメントによる抱腹絶倒のひとときは、年齢を問わず楽しんでいただけると思います。全く舞台を観たことがないという方も、絶対に“観てよかった!”と思っていただけるショーですので、ぜひぜひお越しください!」
(取材・文&撮影:西本 勲)