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鴻上尚史

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第三舞台の衝撃作が、ディストピアこそがリアルな2019 年に生まれ変わる

新たなキャストで紡ぐ、ユートピアとオアシスとアジールの物語

鴻上尚史率いる虚構の劇団が、2/22〜シアターサンモールで『ピルグリム2019』を上演する。89 年に鴻上の作・演出で第三舞台が初演し、03 年には新国立劇場でシリーズ「現在へ、日本の劇」のオープニング作品として上演された『ピルグリム』。「さて、問題。オアシスはどこでしょう?」をキャッチコピーに掲げ、平成も終わらんとするこの19 年に伝説の衝撃作を再演する意義とは?

PROFILE

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)のプロフィール画像

● 鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)
作家・演出家。1958 年生まれ、愛媛県出身。
81 年に劇団第三舞台結成。『朝日のような夕日をつれて』『ハッシャ・バイ』、『天使は瞳を閉じて』『トランス』他多くの作品を発表し人気を博す。11 年に解散後、現在はプロデュースユニットKOKAMI@network、08 年に旗揚げした虚構の劇団での作・演出を中心に活動。またエッセイスト、ラジオ・パーソナリティ、TV 番組司会、小説家、映画監督など幅広く活動。紀伊國屋演劇賞、ゴールデンアロー賞、岸田國士戯曲賞をはじめ、虚構の劇団旗揚げ公演からの三部作をまとめた戯曲集『グローブ・ジャングル』で第61 回読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞。

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ディストピアこそがリアルな時代を反映した『ピルグリム』

――― 16 年ぶりの再演ですが、今回初めてこの作品をご覧になる方も多いと思います。どんな作品なのでしょうか?

「僕が30 歳の時に書いた、集団と個人についての作品です。どんな集団でも多分そうだと思うんだけど、初期はすごく楽しい。特に皆で作った集団であればあるほど本当に楽しくて、喜びが倍になって悲しみが半分になるみたいな時期が必ずあって。

それが段々、祝福されない恋愛とか(笑)、面倒臭い関係が始まったりする。それを何とか乗り越えようとした時に、集団で割とよくあるのは、あいつが全ての問題の根本なんだって、生贄を1 人見つけるんだよね。スケープゴートと呼ばれたりもしますけど。

スケープゴートって必要なんだけど、必要なくせに同時に排除されるっていう存在で、ところがそのスケープゴートがいなくなったり反省したら問題が解決するかというと、またやっぱり問題は起こって、次のスケープゴートを見つけようとする。そういう集団のメカニズムが、大胆に言えば、面白いなと思ったのが、執筆の大雑把な動機かな。

物語としては、ゲイの書生と暮らしている、今は売れなくなっている作家がいて、ここ一番で最後の小説を書こうとする。そこで書いたのが、ここではないどこかを求めて冒険を続ける人たちの話なんだけど、そこから…というお話。この大きな枠組みは、今回も変わりません」

――― 登場人物達が目指す「ここではないどこか」について、ご自身のTwitter で「今回は、ユートピアとオアシスとアジールの物語になります」とおっしゃっています。「アジール」は、19 年版で初めて出てきた言葉だと思うのですが。

「そうです。アジールについては作品の中でもちゃんと説明してるんだけど、要するに、社会から隔絶した自由な空間ということ。それはつまり、社会からどんなに攻められようが、そこに入ると許される、昔でいうと駆け込み寺とか、西洋世界では教会とか、法やルールを犯した人がそこに駆け込んだらもう、権力は手を出せない場所です。現実から逃げたいって思った時に、初演も再演もオアシスを追求したんだけど、アジールもそうだろうっていうのがあって。それは今回の新たな視点ですね」

――― 他に、前2作から変わる部分はありますか?

「今、SF って全く売れなくなってて、推理小説がすごい売れているそうです。それは、世の中が訳分かんなくなればなるほど、どんなに複雑でも必ず最後にちゃんとした答えがある推理小説を皆が求めるということだと思います。訳の分からん話は、もう現実だけで十分だと。ただ、唯一SF で売れてるジャンルが世界的にあって、それは何かというと、ユートピアの反対の、ディストピア小説なんです。日本でもジョージ・オーウェルの『1984 年』がここ10 年くらいで20 万部くらい売れている。つまり今は、ユートピアやオアシスよりも、ディストピアに皆リアリティを感じてしまう時代なんだと思います。

今回変えるのは、その、ディストピア小説が流行っている時代になるって事かな。あと、初演の時は伝言ダイヤル、03 年版は分散型コンピューティングっていう、時代時代のネットワークというか繋がり方を書きましたけど、03 年までは繋がる事、今、見えてる世界じゃないネットワークがあるってことが希望だったのね。だけど、もうはっきりしたのは、繋がる事が、希望から、重荷とか苦痛になってきたって事。それは一番変わったことですね。19 年版で変わった基本認識はその2つかな。まだ03 年くらいまでは、ぎりぎりユートピアがどっかにあって、そこに向かって旅立とう、ここではないどこかに何かがあるはずだっていうのが成立したと思うけど、今はもう、すぐに「いや、そこってディストピアでしょ?」ってなるんじゃないかな」

――― それでも“オアシスを探す旅”ではあるのでしょうか?

「そう。それでもやっぱり、今の共同体に馴染めない人たちは、旅を始めるしかないっていうことだよね。じゃあどこに向かって旅するんだろう?ってことが、テーマになってるってことです」

第三舞台を重ねた初演、自分の力不足だった再演

――― 鴻上さんの中で、過去の上演については、どのようなものとして記憶に残っていますか?

「初演は劇団立ち上げて8 年ぐらいの作品で、まさに第三舞台を重ねてたわけですよ。初期の何年かは、お祭り騒ぎが本当に1 年中続いてるみたいで幸福で、でも最初に言ったみたいに、それがずっとは続かない。それで、理想的な組織とは何だろう?みたいなことを劇団全体で試行錯誤したんです。だから初演は、劇団全体で組織論をトライアルしてたっていうか。それは劇団の中だけじゃなくて、当時は、今の言葉でいう絆とかね、共同体がもっと強かったし、劇団なんてもう一蓮托生で、全員が命賭けてやるんだみたいな事思ってる劇団のほうが多かったのね」

――― ある種の宗教のような?

「そう。それか、強すぎる体育会系。俺はそれがすごく嫌いで、酒もそんな毎日毎日飲んでるんじゃねーよ、みたいな(笑)。それは本当のコミュニケーションじゃないんだってことを、すごくやったわけですよ。日本全体の体育会系、あるいは熱い、ちょっと入った宗教的な共同体論に対して、戦いを挑んだし、劇団としても、理想的な組織はなんだろうっていう問いかけをすごくしたんですね」

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――― では、プロデュース公演だった03 年版は?

「今だから言えるんだけど、俺の明らかな力不足でした。組織論とか共同体論を上演するためには、そういう座組みにしないといけなかったんだよね。でも、俺が本質を見誤ったというか、本当に自分の問題なんだけど、キャスティングから演出、脚本の書き直しも含めて、有り体に言えば、僕のキャリアの中でかなり失敗したうちの一つだって言えます」

――― それは、書いてしまって大丈夫でしょうか?

「全然良いです。だって俺の責任で、俳優さんの責任じゃないから。俳優さんはすごくよくやってくれたので。第三舞台をずっとやってたので、自分の中で劇団という枠組みが前提であったんですよ。プロデュース公演もそういうもんなんじゃないかっていう意識があっちゃったんだよね。今なら、虚構の劇団やりながら、(プロデュースユニット)KOKAMI@network もやってるので、演出のスイッチが違うんだってことが分かるんだけど。とはいえ、やった意味はすごくあったし、不本意だったからこそ、19 年版ではちゃんと『ピルグリム』を今の時代にもう一度適用させようと思ってます」

笑えて、考えさせられる、2019 年のオアシスへの旅

――― この19 年にこの作品を再演しようと思われたのはなぜですか?

「一つには、『天使は瞳を閉じて』という第三舞台の作品を虚構でやって、ありがたいことに「面白いね」「今もう一回虚構で見るのはいいね」っていう声が多かったので、第三舞台の作品を虚構でやるっていうのは案外面白いんじゃないかって思ったのがあります。
もう一つは、初演で勝村(政信)、再演は山本耕史がやった直太郎っていう、ちょっと屈折はしてるんだけど陽気な役があって、その陽気さと可愛らしさが、客演で頼んでる秋元龍太朗さんにすごい合ってるんじゃないかなって気がしたんですよね。龍太朗とはもう一度一緒にやりたいと思ってたから。

それから、同じく客演でお願いしている伊藤今人さんは、初演で大高(洋夫)がやった黒マントっていう役っぽいぞ、と。そういう俳優的な視点ですね。それからもちろん、『ピルグリム』は基本的には共同体の話で、この21 世紀になって日本という共同体がどこへ行くんだろう?ちょっと厄介なところに向かおうとしてるんじゃないの?と。身近な所に敵を見つけることで自分たちの団結を図ろうってのは、共同体の方法としては一番安易なので。その意味で、またこれをやる時期じゃないかなっていうのもありました」

――― 秋元さんとは、虚構の劇団の前作『もうひとつの地球の歩き方』で初めてご一緒されたそうですが。

「何年も前に見た舞台に生きのいい子がいるなぁと思って覚えてて、前回初めてやってみたんだけど、いい奴なのよ。俺は演出家なので、どんなに人間的にいい奴でも俳優としてダメだったらダメなので、いい奴っていうのは俳優としていい奴って言うことですけど。若いと格好つけてる奴もいて、そんなの知ってるよとか、俺にはそんなの必要ないよとか、やせ我慢でやってる奴もいると思うんだけど、龍太朗は、真っ当に勉強したい、成長したい、それがすごく素敵に出てるんだよね。だから、ああ、いいなぁと思って。

山本(耕史)君とか(高橋)一生みたいに、ちゃんと売れてくれるといいですけどね。一生とやったのはあいつが23 くらいの時で、今、龍太朗も23 かな。だから大きくなっていってくれるといいなぁって感じです。劇団員も、虚構版の『ピルグリム』にするぞ! 第三舞台を超えるぞ! みたいなことを熱く語ってますので、頑張って欲しいですね」

――― 新たな役者さんで作る今の時代の『ピルグリム』、楽しみにしています。では最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

「僕の作品はそもそも、軽くて深いっていうか、重くて軽いっていうか、笑えるんだけど、ちゃんと中身があるものをずっと作ろうとしていて、この作品もそういう風にちゃんとなっていると思うので。だまされたと思って来たら、だましませんよ、と。昔見た人は、19 年版がどうなったかっていうことを確かめに来てもらいたいし、初めての人は、自分にとっての理想的な集団とか理想的な共同体って何だろう?とかいうことを、楽しい気持ちで、考えながら見てもらえればと思います」

(取材・文:土屋美緒 撮影:友澤綾乃)

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公演情報

「ピルグリム2019」のチラシ画像
虚構の劇団 第14回公演
ピルグリム2019


2019年2月22日 (金) 〜2019年3月10日 (日)
シアターサンモール
HP:公演ホームページ

18名限定!4,800円(全席指定・税込) → 【指定席引換券】4,200円さらに200Pゲット!

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