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浅野雅博・石橋徹郎

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世界中から愛される傑作戯曲が、15年ぶりに日本で上演!

文学座の名優ふたりが挑む、聖地・下北沢 での1ヶ月にわたる大冒険。

――演劇界の重鎮・文学座の浅野雅博と石橋徹郎が、小劇場の聖地・下北沢で1ヶ月のロングラン公演を行う。しかも、劇場は定員70名のOFF・OFFシアター。将来を夢見る若手劇団のベースキャンプとも言える場所で、文学座の中堅が翻訳劇をふたりきりで演じ切るという企画は、大きな話題を呼んだ。今からちょうど5年前。2010年、『モジョミキボー』初演時のことである。

PROFILE

浅野雅博(あさの・まさひろ)のプロフィール画像

● 浅野雅博(あさの・まさひろ)
1972年3月27日生まれ。神奈川県出身。94年、文学座研究所入所。99年、座員となる。近年の主な舞台に、文学座『リア王』『殿様と私』『連結の子』『岸田國士傑作短編集』、風姿花伝プロデュ―ス『帰郷』、世田谷パブリックシアター『ジャンヌ』、こまつ座『闇に咲く花』、俳優座劇場『空の定義』『兵器のある風景』『もし、終電に乗り遅れたら…』、新国立劇場『鳥瞰図』『ヘンリー六世』『るつぼ』などがある。

石橋徹郎(いしばし・てつろう)のプロフィール画像

● 石橋徹郎(いしばし・てつろう)
1970年5月5日生まれ。東京都出身。96年、文学座研究所入所、01年、座員となる。近年の主な舞台に、文学座『グレンギャリー・グレンロス』『美しきものの伝説』『尺には尺を』、新国立劇場『オットーと呼ばれる日本人』『ヘンリー六世』『パーマ屋スミレ』、こまつ座『イーハトーボの劇列車』、加藤健一事務所『If I Were You〜こっちの身にもなってよ!〜』、演劇集団キャラメルボックス『無伴奏ソナタ』などがある。

インタビュー写真

文学座というホームを飛び出し、いざ下北沢へ。

石橋「文学座の本公演であっても、外部での客演であっても、僕らはいち役者として参加している。だから自分たちが徹底的に面白くするためにはどうしたらいいんだろうねって話はよくしてたんですよ。それで思いついたのが、自分たちのプロデュース企画。そうすれば、隅々にまで自分たちの想いを行き渡らせることができる。それで、浅野とふたりで何か面白いことをやろうよってことになったんです」

浅野「文学座は大所帯だし、自分たちが出る機会も限られている。小さいところで1ヶ月も公演をやるなんてフットワークの軽いことは絶対に無理。でも、自分たちのプロデュースならできる。長期間やれば、興味のある方なら必ず観にきていただける。だから題材も何も決めず、とにかくまずは1ヶ月やることだけを決めてOFF・OFFシアターを押さえさせてもらいました」

――― より良いものをつくるためには、もうひとり客観的な視点から芝居を見てくれる存在が欠かせない。そこでふたりが真っ先にオファーをしたのが、同じ文学座の演出家・鵜山仁だった。2007年から2010年まで鵜山は新国立劇場の演劇芸術監督を務めていた。そんな鵜山が下北沢の極小劇場で演出をするいうのも大きな目玉だった。かくして3人の冒険の旅が始まった。

浅野「そもそもなぜ下北沢を選んだのかと言うと、たとえばふらっと街にやってきた人が当日券でお芝居を観に行く文化がある街といえば下北沢だけだったから。文学座のお客様は大切ですが、自主企画でやるからには普段文学座を観ないお客様にも観ていただきたかった。だから、ニューヨークのオフオフブロードウェイのように、いつもどこかでお芝居をやっていて、当日にチケットを買って気軽に入れる下北沢で公演がやりたかったんです」

石橋「実際、『モジョミキボー』を1ヶ月やって、すごく手応えがありました。前半は身内のお客様が多かったんですけど、中盤くらいからどんどん知らないお客様が増えてきて、後半になると客席はいっぱいなのに知っているお客様がほとんどいないという状況になった。あれはちょっと感動的でしたね」


一騎当千のプロたちが、とことん実験を楽しむ尽くす。

―――  『モジョミキボー』は小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞し、13年に再演も行われた。そんな会心の一作から座組みはほぼそのままに今度は新たに『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(以下、『ロズギル』)に挑む。

浅野「前回も今回も最初に決めたのは、翻訳劇をやろうということ。それで、今回もいろんな戯曲を読みました。いいものはたくさんあったけれど、1ヶ月やるとなると厳しいものばかり。そんなとき、鵜山さんから『ロズギル』を提案されました。登場人物はメインがふたり。だけど、他にもいろんな人が出てきます。『モジョミキボー』もふたりで17役を演じ切りましたが、今回もそれと同じじゃ面白くない。だから趣向を変えて、役も何人か削って。ふたりきりではないんだけれど、何役も演じるわけではないというふうになっています。どんなものになっているかは、ぜひ劇場で確かめてもらえれば」

――― ふたりの掛け合いを支えるスタッフにも一流のプロフェッショナルが揃った。

浅野「いかんせんプロデュース公演なので、ギャラは安いんです(笑)。でもその分、好きなことやらせてくれよってスタンスでみんな来てくれるから逆に面白い。一瞬しか出ない衣裳にすごく力を入れてくれたりとか。こういうことに手間をかけるのがエンターテイメントなんだってわかってるプロの方々が集まってくれました」

石橋「まさに実験的。公演中もスタッフのみなさんがちょっと明かりの雰囲気を変えてみたりとか、いろんなことを試してくださる。本人たちも“インディーな感じでやりたい”って言葉に出してくれています。一流のプロが下北沢の小劇場でインディーズなものをやる面白さを、みなさんにも体感してほしいですね」


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体力と気力のすべてを、この1ヶ月に注ぎ込む。

――― 『ロズギル』と言えば、一般的に不条理劇と評されることが多い。下北沢で翻訳劇というだけで異色だが、そこに不条理劇と加われば、当日券でふらっと入るには敷居が高い。しかし、ふたりは「不条理劇ということはない」と胸を張る。

石橋「人間として当たり前のことがテーマになってて、翻訳劇だからってよそよそしいところは全然ない。『ロズギル』は世界中からいまだに上演許可のオファーが絶えない人気のある戯曲。それはこういう理由なんだってことを理屈抜きで楽しんでもらえたらいいなと思います。僕らがその面白さを証明するというよりは、僕らも今やってて楽しいから一緒に楽しんでもらえたら嬉しいなっていう気持ちですね。翻訳劇っていう先入観はなしに、単にお芝居としてエンターテイメントだなと思ってもらえたら」

浅野「そもそもストーリー的にいえば、かの有名な『ハムレット』の裏側でローゼンクランツとギルデンスターンという端役が右往左往しているっていうバカバカしさと、自分が死ぬとわかったときの切なさを描いた、単にそれだけの物語。それを面白おかしく、最後には切実に清く終われればいいと思っています。僕自身、お金を出してお芝居を観に行くときに思うのは、ちょっと笑って、ホカホカして、最後にえって驚いて、観に来て良かったって言えるものになればいいなということ。この作品もきっとそんなお芝居になると思います」

――― 1ヶ月のロングラン公演。計33ステージにも及ぶ。

石橋「OFF・OFFシアターをこれだけ長い間使わせていただけることに、まず感謝しています。いくらでもやりたいってカンパニーがいる中で、1ヶ月やらせてくださるなんて、本当にありがたいと言うしかない」

浅野「だからこそ『モジョミキボー』に追いつけ追い越せじゃダメ。新しいものを新鮮な気持ちでつくらないと。きっと僕らがいっぱいいっぱいにならないと面白くならない。初日を観た人に“これ1ヶ月もあるの?”って思われたいですね。僕らみたいな無名の俳優が1ヶ月やることはすごい大変なこと。命を削ってやらないとお金はもらえません」

石橋「『モジョミキボー』のときは35ステージ。初演のときは周りが心配するくらいふたりしてガリガリになりました(笑)」

浅野「だから今回は33ステージ。僕らも大人になったから減らしたんです、2ステージだけ(笑)」

――― 浅野は今年で43歳。石橋は45歳となる。一般的に見れば、十分に大人と言われる年齢。もちろんそれに見合う実力もキャリアもつけてきた。だが、その目の輝きといったら何と楽しげで無邪気なことだろう。旗揚げ間もない若き演劇青年そのものだ。若者たちの演劇文化の中心地で、経験豊かなふたりが何をしでかすか。この5月、下北沢に行かないという選択肢はない。

(取材・文&撮影:横川良明)


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