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成清正紀・四浦麻希・異儀田夏葉

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鶴屋南北戯曲賞受賞後第一作は、劇団の“転換期”となった代表作を再演

特別なひと夜から始まる、遠い夜明けまでの希望と祈りの物語。

――― 第18回 鶴屋南北戯曲賞に輝き、一層熱い視線を浴びる劇作家・桑原裕子。彼女のホームグラウンドであるKAKUTAが、受賞作『痕跡(あとあと)』以来となる待望の本公演を行う。注目が集まる中、次回作に選んだのは『ひとよ』。2011年に上演し、KAKUTAをまた一段高みへと突き動かした記念碑的作品に、初演以来の続投組となる成清正紀、四浦麻希らが再び命を吹き込む。

PROFILE

成清 正紀(なりきよ・まさのり)のプロフィール画像

● 成清 正紀(なりきよ・まさのり)
1974年8月4日生まれ。大阪府出身。プロデューサー・KAKUTA団長。第2回公演『コイの想い出』より参加、以後、本公演全作品に出演している。近年の外部出演作品に、アトリエ・ダンカンプロデュース 七変化音楽劇『有頂天家族』、ホリプロミュージカル『ピーターパン』など。

四浦 麻希(ようら・まき)のプロフィール画像

● 四浦 麻希(ようら・まき)
1984年2月16日生まれ。東京都出身。劇団ワークショップを経て、10年、『めぐるめく』より入団。近年の外部出演作品に、浮世企画『ここにある真空』、ホリプロミュージカル『ピーターパン』など。

異儀田 夏葉(いぎた・なつは)のプロフィール画像

● 異儀田 夏葉(いぎた・なつは)
1981年7月24日生まれ。埼玉県出身。09年に客演として『さとがえり』に出演。その後、劇団ワークショップを経て、13年に入団。近年の外部出演作品に、ONEOR8『世界は嘘で出来ている』、タカハ劇団『わたしを、褒めて』など。

● KAKUTA(かくた)
1996年結成。01年より桑原裕子が作・演出を手がける。緻密なプロットと台詞、絶妙なキャストのアンサンブルで見せるという、敢えて奇をてらわないウェルメイドな手法にこだわり、日常を生きる人たちの日常的・根源的な感情を濃やかに描き出す劇団として広く人気を集めている

インタビュー写真

重い枷を背負った一家の慟哭と救済を描く。

成清「桑原が若い頃は青春群像劇が得意で、KAKUTAではよく賑やかなお芝居をつくっていました。それが年齢とともに書くものも変わっていて、世の中で起きている社会問題から受けたものを肌で出していくような感覚が桑原に染みつきはじめたのが、この『ひとよ』から。『ひとよ』は家族を守るために家庭内暴力をふるう夫を手にかけた母親が15年ぶりに家に帰還するところから物語が始まる。桑原の抱く母親像が素直に反映されてる作品だと思いますが、一方母親がとる行動は倫理的にも大きな問題をはらんでいるので、もしも自分が同じような境遇に身を置いたらどう考えるかということをお客さんに問いかける作品でもあります」

四浦「こうして再演という機会を得て改めて台本を読んでみたら、前回では気づけなかったいろんなことに気づけたんです。たとえば4年前は残された家族の目線で見ていて、帰ってきた母親が子どもたちに言う台詞の真意が理解しきれていないところがありました。けれど、今ならそう言うしかなかったんだと思えるようになっていて。それは私が年齢を重ねたからかもしれないけれど、読んだ印象が4年前とはまったく変わっていましたね」

――― 年齢を重ね、環境が変われば、見える景色も移ろうもの。時を経ての再演は、前作を観た観客にとってもまた異なる発見や感動をもたらすに違いない。一方、同じく劇団員の異儀田夏葉は、『ひとよ』には今回が初登板となる。

異儀田「初演の頃は、私は客席でこの作品を観ていました。もう本当に衝撃的で、思わず二回観に行ったくらい(笑)。『ひとよ』には家族や夫婦、恋人友人って何なんだろうねって問いかけがあふれている。そして、この『ひとよ』を観ることで、自分なりの答えが見えてくると思います。そんな大好きな作品に出られるなんて、もうプレッシャーで吐きそうです(笑)。この再演がまた誰かにとっての大切な『ひとよ』になると思うと、吐きそうになるくらい恐ろしいけど、でも楽しみです」


インタビュー写真

濃密な劇空間に凝縮した極上の人間ドラマ。

――― 重いテーマ性をはらんだ作品だけに、終始空気の張りつめた舞台をイメージしてしまうが、決してそれだけではない軽妙さも持ち合わせているところが、この『ひとよ』の魅力だ。

成清「僕が演じる吉永は、片言しか喋れないのに、自分は日本人だって言い張ってる男。天真爛漫で縛られるのが嫌いで、お金なんてなくてもいいから楽しいことを求めている気ままな性格です」

異儀田「初めて観たとき、成清さんだってわからなかったくらい(笑)。海賊みたいな恰好して、だけど妙に説得力があるんです。吉永の存在がすごく救いになってるし、登場人物たちにとっても拠り所になっていると思う」

成清「吉永を演じる上では深いことはあまり考えていなくて、とにかく彼の目線で目の前の出来事や世の中そのものを面白がり、元気に楽しめたらいいのかなって。『ひとよ』は人殺し一家と呼ばれる家族の物語。どうしたって重いんですよ。だから吉永がいることによって少しずつ空気が変わっていけばいいなと思うし、僕自身、この作品に限らず、どんな真面目な役でもお客さんの不意をつくというか、ちょっと緩ませて笑わせられるような、そういうことができる役者でありたいって心がけてるんです」

四浦「私が演じるのは、チンピラにくっついてる現代的なギャルみたいな女の子。事件のことはニュースでしか知らなくて、家族の事情はまるでわかっていない役です。たとえどんな理由があったにせよ、他人から見ればそれはただの殺人事件。『ひとよ』はそういう赤の他人から見た部分もきちんと描かれているところが面白い。だから私も外部者としての視点をきちんと伝えらたらと思います」

――― 再演では、ザ・スズナリ、そしてKAAT神奈川芸術劇場で上演される。小劇場ならではの濃密な劇空間から立ちのぼる、汗や息遣いまで感じられるような演劇体験に期待したい。

成清「本公演でスズナリサイズの劇場でやるのは十数年ぶり。オープンスペースのKAKUTAのお芝居に見慣れたお客さんにも改めてすごいなって言ってもらえると思います。特に今回の舞台となるのは、田舎町のさびれたタクシー会社。その裏庭で母親は父親を殺害するんです。その舞台設定の雰囲気が、スズナリのあの空気と重なるところがあって。きっとお客さんも観ながら、そのままそこにいるような感覚になると思う。それがこのお芝居の新しいスパイスになるんじゃないかと期待しています」


インタビュー写真

手法はオーソドックスに。深く鋭く観る人の心を突き刺す。

――― 鶴屋南北戯曲賞受賞後初の本公演だが、三人ともに「特別に変わったところは何もない」と口を揃える。

異儀田「私はKAKUTAのお芝居が大好きだから、誤解を恐れずに言うと、今までやってきたことがやっと評価してもらえたという感じです。ただ、受賞作の『痕跡』は、私自身、その役になりきるということを突きつめてやれた作品。自分自身の役者としての考え方も変わった転機になった作品です。劇団としてもターニングポイントになった作品だと思うから、『痕跡』を経て、この『ひとよ』をやるとどうなるのかっていうところは、すごく楽しみなんです」

成清「賞を獲ったのは、あくまで桑原本人。だから僕たちはプレッシャーというものはそんなに感じていない。とは言え、賞を獲ったことで初めてKAKUTAを観に来てくださるお客さんもいると思う。KAKUTAのお芝居がどんなものかというのは観に来てくれたお客さんが決めればいいこと。だから僕たちとしては受け口は広くしながら、そこだけで終わらず、普段の生活の中に潜んでいる光と影に自分の視点が行くような、そういう面白さを体験していただけるよう一生懸命やるだけです」

四浦「この間、プレ稽古をして、改めてこのメンバーでこの『ひとよ』をやれるのがすごく楽しみだなって思いました。あと、友達にもよく言われるんですけど、KAKUTAのお芝居を見ると食べ物が食べたくなるんですよ」

成清「桑原が食べ物を扱うのがすごく上手いんですよね。彼女自身、人が食べるところを見たいというのがあって」

四浦「だからきっと劇場を出たらお芝居に出てきたものを食べたくなると思いますよ。今回なら膝小僧最中とか(笑)」

成清「じゃあ物販でやればいいか。さっき食べてたあれですとか言って(笑)」

――― 当人にとっては、人生が変わるような特別なひと夜も、他人からすれば何千何万と繰り返される凡庸な夜のひとつに過ぎない。だが、そのおかしみこそが人生の味わいだ。きっと劇場から一歩踏み出したとき、その夜が自分にとって特別な“ひと夜”となっていることをあなたも実感できるだろう。

(取材・文&撮影:横川良明)

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