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根本正勝・菊地 創

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菊地創によるシアタープロジェクト、第一弾はイギリス発のミュージカル

テクノロジーと人間をめぐる、今、観るべきわたしたちの未来の話

ニューヨークでミュージカルを学び、俳優としても活躍中の菊地創が立ち上げたシアタープロジェクト「Black Wings Project」。その第一弾として、イギリス発のミュージカル『㏌ touch』の上演が決定した。菊地の目指す「演劇としての、ミュージカル」とは何か。そして何故この作品を選んだのか。今回菊地と初タッグを組む根本正勝を交え、作品について聞いた。

PROFILE

菊地 創(きくち・はじめ)のプロフィール画像

● 菊地 創(きくち・はじめ)
1983年10月12日生まれ。東京都出身。
1991年TOKYO FM少年合唱団に入団し、数々の演奏会やオペラに出演。1998年東宝ミュージカルに抜擢。その後変声期を機に15歳で単身渡米。日本での活動も行いながら2007年の帰国まで、ニューヨークのブロードウェイ・ミュージカル養成所AMDAにてミュージカルを学ぶ。 帰国後は、イベントMC、構成、演出、英語字幕制作、声優など活動の幅を広げている。

根本正勝(ねもと・まさかず)のプロフィール画像

● 根本正勝(ねもと・まさかず)
1979年4月27日生まれ。福島県出身。
2009年にサンシャイン劇場、新大阪メルパルクホールにて上演されたネオロマンスステージ『遙かなる時空の中で 舞一夜』にて藤原鷹通役を好演し注目を浴び、本作をきっかけに、さらに、映画、ドラマ、声優と活動の幅を広げる。同年から「Ash」のボーカルとしてアーティスト活動開始。2017年1月には、銀河劇場にて自身初の脚本・演出作品『紅き谷のサクラ』を上演した。

インタビュー写真

時はそう遠くない未来。環境汚染が進んだ地球で、人々は“in touch”というオンライン電脳空間を生み出した。そこでは自分の分身であるアバターで、あらゆることが可能になる……。『㏌ touch』のストーリーは、少し前なら紛れもないSFだったかもしれない。しかし現在、その世界観が我々の実社会に肉迫しつつあることは明白だ。

――― 今回の『㏌ touch』は、菊地が立ち上げたシアタープロジェクト「Black Wings Project」の旗揚げ公演となる。菊地の目指す「演劇としての、ミュージカル」とは一体どんなものなのだろう。

菊地「日本のミュージカルは、レビューの延長みたいなイメージがすごく強いと思うんです。だから、そういう意図で作られる方が多いと思うし、お客さんもそれを求めて観に行く。それは悪いことではないんですけど、僕が作るんだったらドラマを見せたいんですね。ドラマが見えない歌、ドラマが見えない踊りは意味がないと思う。ミュージカルが苦手な人や、演劇が好きな人に見てほしいですね。ミュージカルの可能性を捨てないで欲しい」

根本「お芝居の延長線上にその歌があるっていうのは、僕も結構思うところがあって。歌の前にストーリーがあって、その人たちの気持ちがあって、結果そこに歌がある。自分の役もそうですけど、この作品がどんな事なのかというのを捉えた上で、そこにある歌を理解したいですね。今は純粋にわくわくしてます。今回はある意味新しい取り組み、船出をするわけじゃないですか。そういう方と一緒にやるっていうのは、とても楽しいですね」

――― ずっとシアターカンパニーを作りたいと思っていたという菊地。昨年、俳優として参加していたある公演でロンドンを訪れた時、『㏌ touch』を製作したオフウエストエンドの演劇集団「Perfect Pitch」の代表に自らアポイントを取り、日本で本作を上演させて欲しいと直談判したという。なぜ菊地は今回『㏌ touch』という作品を選んだのか。

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菊地「一つは、今の時代が丁度いいタイミングだということです。作中に、AIの暴走も描かれてるんですけど、昔は本当にターミネーターみたいな世界の話だなあと思っていたものが、今はsiriとかAlexaとかが浸透し始めて想像し易いんですよね。あと、梅雨が6月に明けてしまったり、明らかに何かのバランスが変わってきている。
 だから、なぜ今この作品をやるのかという理由としては、そのための基礎的なベースにある情報だったりシチュエーションだったりが、丁度いいっていうところですかね。これは、非常に挑戦的な作品なんですよ。色々クリアに描かれていないことが多くて、役者がどう演じるかと演出がどうみせるか、そしてお客さんのその日のコンディションと思考回路、想像力で、全く違う話に見える。なので、人によって全く持ち帰り方が変わってくる不思議な作品なんです」

根本「(『㏌ touch』の舞台は)本当に今のこの世の中と似ていて、僕の役は、色んなものが便利になってきたけど、それについていけないというか、ついていきたくないと思っている、いわゆるちょっと頑固者なんです。僕も、例えば今スマートフォンとか使うじゃないですか。なにかどこかで、この流れに乗り過ぎてしまうと、浸食されていくんじゃないかなっていう、自分の大事なもの、人間の大事なものが失われていくんじゃないかなって思う時があるんです。でも、便利なものは取り入れても心をなくさなければ、大事なものって変わらないんじゃないかなって思ったり」

菊地「作中で、ある日突然ドローンで“ベイビーメーカー”っていう機械が届けられるんです。あなたのDNAサンプルと、あなたのパートナーのDNAサンプルを入れることによって赤ちゃんができますよって。根本さんが演じる男は憤慨するんですよね。でも彼の奥さんは子どもができない身体なので“これでいいじゃない”って。ここで描かれているのはそういう世界なんです。ワンクリックでそういうものが届いてしまうっていう」

――― 生演奏でおくる楽曲も、本作のみどころの一つ。ミュージカルの楽しさと、ドラマの重厚さと。時代性に富んだストーリーはもちろん、菊地の目指す新たなミュージカルの可能性にも、ぜひ注目したい。

菊地「作品の根本にあるのは、人と人が触れ合うってどういう事なんだろう、つながるってどういうことなんだろうっていうこと。テクノロジーの介入があっても、結局心と心はつながるよねという捉え方もできるだろうし、逆に、いややっぱり生身でって思う人もいるだろうし、両方の見方ができる作品かなと僕は思っています。見どころとしては、非常にダンサブルな作品になる予定です。楽曲もすてきですよ。ドラマ的な要素を強くする分、ミュージカルとしてのショー的な楽しさも、しっかり作りたいと思っています」


(撮影:立川賢一/取材・文:前田有貴)

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