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結城一糸

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人形と俳優の共演が作り出す舞台空間は、演劇ファンにも新鮮な感動を与えるはず

人間たちと仲良くなりたい赤鬼を描いた児童文学の名作を人形音楽劇で

とある山の中、人間たちと仲良くなりたいと願う赤鬼のために、友達の青鬼がある作戦を思いつき……童話作家・浜田廣介の代表作を、糸あやつり人形 一糸座が舞台化した『泣いた赤鬼』が、2016年に続いて待望の再演を果たす。主宰の結城一糸は「親子で見られる作品を作りたかった」と話すが、これは決して“子供向け”ということを意味しない。江戸時代から続く人形浄瑠璃の芸術性と、児童文学の親しみやすさが組み合わさり、舞台表現の魅力を誰もが感じられる要注目の作品になっているのだ。

PROFILE

結城一糸(ゆうき・いっし)のプロフィール画像

● 結城一糸(ゆうき・いっし)
1948年に結城座十代目結城孫三郎の三男として生まれる。
1972年に三代目結城一糸を襲名。2003年に結城座から独立し、2005年に江戸糸あやつり人形座を旗揚げ。2015年に一糸座と名を改めて現在に至る。江戸糸あやつり人形の古典作品のほか、宮沢賢治、エウリピデス、バタイユ、ブレヒト、アルトーなどの作品にも取り組むほか、海外公演やワークショップも行う。代表作は『綱館』『釣女』『八百屋お七』『アルトー24時再び』『カリガリ博士』『ゴーレム』『ある人形芝居一座によるハムレット』など。

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人形・役者・音楽が一体になった芝居

――― 有名な児童文学『泣いた赤鬼』を取り上げようと思ったのはなぜですか?

「もともと僕たちは古典の劇団で、大人に見せる作品が多かったんです。江戸時代の人形浄瑠璃は子供も一緒に見ていたものなんですけどね。それでうちも、何か親子で見られるものを作りたくて、童話とかをいろいろ読んでいる中で、この『泣いた赤鬼』が面白いんじゃないかと思いました。イメージとしては、巨大な赤鬼と青鬼を二人の俳優(田中英樹、古市裕貴)が演じて、村人たちは人形がたくさん出てくるという構図でやりたいと」

――― 人形と俳優が舞台上で共演するという、一糸座のスタイルをうまく活かせるというわけですね。

「普段は、人間の身体と人形の身体みたいなものがどう組み合わさるかという芝居が多いので、それを子供たちにもわかりやすい形で見てもらうことができると思います。そして、ぜひ音楽劇にしたいと思いました。浜田廣介さんの世界を音楽でも表現したいと」

――― それも、幅広い年齢に見せることと関係があるのでしょうか?

「そうですね。音楽を担当してくださる園田容子さんは、2012年にブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』を上演したとき参加してもらったのですが、すごく人形に合っていたんです。園田さんの音楽と、役者と、人形がごちゃまぜになった芝居ですね。ミュージカルではないけれど、音楽劇と銘打てるくらいふんだんに音楽を使いたいと思っています」

――― キャストにはミュージカル俳優の王子菜摘子さんもいらっしゃいますね。

「少女の役をやっていただいています。すごくきれいな声で、あれがないと、この『泣いた赤鬼』はできないでしょうね。この作品はずいぶんいろんなところから再演を望む声が挙がっていたのですが、王子さんが“何年も経つと私も少女じゃなくなるから早くして”とおっしゃったのも大きな要素の1つでした(笑)」

――― 2016年の初演時の手応えはいかがでしたか?

「親子で来てくださる方は多かったですね。上演後に、赤鬼さんとか青鬼さんと一緒に写真を撮ったりして(笑)。そういうのもすごく楽しくて、今までとは違う雰囲気がありましたし、お子さんたちに見せる芝居というものをちゃんとやらなくちゃいけないんだなというのを、改めて感じました。やっぱり古典となるとなかなか難しいので、こういう作品から人形の面白さを見てもらって、もうちょっと大きくなってから古典に接したときに、また違った面も見ていただけるといいんじゃないかと、そんなことも考えていました」

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人形劇を通して、不思議を丸ごと抱え込む

――― 脚本・演出を少年王者舘の天野天街さんが手がけていますね。

「もともと黒テントで役者をやっていた井村昴という人が、僕の若いころからの友人で、天野さんのところで役者や舞台監督をやっているんです。それで天野さんが面白いという話は以前から聞いていて、いつかお願いしたいなと思っていました。原作はすごく短いので、それを膨らませてもらうことを前提に書いていただきましたが、かなり天野ワールドが入った内容になって、お願いしてよかったと思います」

――― 義太夫や三味線も入るのですね。

「あるシーンの見せ方をみんなで考えていたときに、もともと僕たちのやっていた義太夫を入れると効果的なんじゃないかということになりました。義太夫の竹本綾之助さんは、いわゆる文楽みたいな感じとは違う、素直な語り口なので、童話に合っているというか、違和感なくできたと思います」

――― 人形がいて、人間の俳優がいて、いろんなスタイルの音楽がある。そういう総合的な表現は生の舞台ならではですね。

「プロローグの演出も印象的で、個人的にもすごく好きなんです。そういうところから人形劇の面白さに入っていただけると、僕らも嬉しいですね」

――― そもそも、糸あやつり人形の芝居は生で見るとかなり引き込まれます。

「日本の人形というのは、外国と違って特殊です。ドラマを演じるという部分では、やっぱり人形浄瑠璃の中で鍛えられたものがありますね。近松門左衛門が出てくる前の人形遣いはあまり演技がうまくなかったらしくて、そこで近松が、人形に性根を入れさせるような本を書くんだと言って、人形の芝居がだんだん良くなっていった。そういう歴史があって、日本の人形はすごく深いところまで要求されたものですから、いろんな形の演技方法があるんです」

――― しかも、人形遣いが自分の意のままに人形を操っているというわけでもないですよね。

「それも日本の人形の特徴です。自分の思い通りに演技させるということだと、単なる身代わりになってしまって、人間にはかないません。書かれたお芝居と、それに合わせて作った人形と、人形遣いという、せっかくこれだけ複雑な構造があるので、人形の中に詰まっている人間ではない部分の良さを、外から無理強いするのではなく、人形と相談しながら共に演じていく。そういうことが大切なんじゃないかなと思います。うまい役者さんは、自分の中にいろんな他者を持っていて、自分の感情だけで演じるのではなく、どこかでそれを客観視している自分がいる。人形劇というのは、それを構造として持っているものなんですね」

――― 演じることの本質にも触れるようなそういうことをわかりやすく体感できるという意味で、人形劇という形、そして『泣いた赤鬼』という作品はぴったりだと思います。特に子どもたちは先入観なく、頭で理解するのでもなく……

「不思議なものをそのまま抱え込んでくれるといいですね。生きていないものが生きているように見えたり、それがお芝居をして不思議な世界を作っていくのを、丸ごと感じてもらえたらいいなと思います」

(取材・文&撮影:西本 勲)

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