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西瓜糖

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演出に寺十吾を迎え、三津谷亮ら11人の俳優とともに西瓜糖が新境地を切り開く。

一軒家に集う見ず知らずの男と女たち。いびつな人間模様から浮かび上がる“人間の業”。

 大人の女性だから描ける濃厚な世界観で、通な演劇ファンから高い評価を受けてきた西瓜糖。第6回公演『レバア』は、演出に舞台『関数ドミノ』も記憶に新しい寺十吾、さらにTBSドラマ『3人のパパ』からロ字ック『滅びの国』まで幅広い活躍を見せる三津谷亮ら多彩なキャストを迎え、敗戦の傷痕が生臭く残る昭和20年代を舞台に、混沌とした人間模様を描き出す。
 そこで今回は、西瓜糖メンバーである劇作家・女優の山像かおり(筆名:秋之桜子)、同じく西瓜糖メンバーの女優・奥山美代子、さらに寺十、三津谷の4人に、謎に包まれた『レバア』の一端を語ってもらった。

PROFILE

山像かおり(やまがた・かおり)のプロフィール画像

● 山像かおり(やまがた・かおり)
大阪府生まれ。83年、文学座附属演劇研究所入所。88年、座員昇格。2016年文学座退座。現在、フクダ&Co.所属。舞台のほか、声優としても『ER』『クローザー』『サマーウォーズ』『妖怪人間ベム』など出演作多数。秋之桜子の筆名で2004年脚本家デビュー。羽衣1011、西瓜糖の全作品。劇団昴ザ・サード・ステージ、花組芝居、椿組、映画プリンセスプリキュアの一編『パンプキン王国のたからもの』の脚本を手がけるなど幅広く活躍。『猿』で第16回劇作家協会新人戯曲賞優秀賞受賞。劇団昴『暗いところで待ち合わせ』(脚色)シアターグリーンBIGTREETHEATER賞受賞。

奥山美代子(おくやま・みよこ)のプロフィール画像

● 奥山美代子(おくやま・みよこ)
北海道生まれ。1989年、文学座附属演劇研究所入所。94年、座員昇格。『ぬけがら』『口紅』『犀』『タネも仕掛けも』などの文学座作品の他にも、『あ うん』『あの日僕だけが見られなかった夜光虫について』『堕落美人』『ヴェニスの商人』『マクベス』『ハムレット』など多数の作品に主演。メイン役を務める。2018年は西瓜糖のほかに、文学座『ジョー・エッグ』『ヘンリー4世』などに出演。

寺十 吾(じつなし・さとる)のプロフィール画像

● 寺十 吾(じつなし・さとる)
京都府出身。1992年、劇団tsumazuki no ishiを旗揚げ。以降、作・演出・出演を務める。外部舞台作品の演出や出演、映画・テレビ出演など多方面で活動を展開。近年の俳優としての実績に、倉持裕 作・演出『お勢登場』、劇団チョコレートケーキ『あの記憶の記録』がある。演出家としては鵺的『悪魔を汚せ』、シス・カンパニー『黒塚家の娘』、舞台『関数ドミノ』の他、11月、『誰もいない国』で新国立劇場初演出を予定している。

三津谷 亮(みつや・りょう)のプロフィール画像

● 三津谷 亮(みつや・りょう)
青森県出身。學蘭歌劇『帝一の國』、ミュージカル『黒執事〜NOAH'S ARK CIRCUS〜』など話題の2.5次元舞台への作品には欠かせない存在になっている一方で、舞台『真田十勇士』、明治座『ふるあめりかに袖はぬらさじ』、大河ドラマ『真田丸』(NHK)、テッペン!水ドラ!!『3人のパパ』(TBS)など、ストレート舞台・映像作品での好演も高く評価されている。最近では、劇団ロ字ックの初本多劇場進出作品『滅びの国』への出演など、次代の演劇界を担う逸材として期待が寄せられている。

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西瓜糖は、個人の力では抗えない運命にねじ曲げられた人々を描いている

――― 今年11月、初めて新国立劇場での演出が決まるなど、今や飛ぶ鳥落とす勢いの寺十吾。西瓜糖には第2回公演『鉄瓶』で出演者として参加したが、演出を務めるのは今回が初めて。だが、その歴史を辿ると、さらに古くに山像とは縁があった。

山像「私が第16回劇作家協会新人戯曲賞優秀賞をいただいた『猿』を演出してくださったのが、寺十さん。それまでずっと私が書くのはコメディばかりで、あんな真面目な作品を書いたのは『猿』が初めて。だからもう当時は寺十さんにおんぶに抱っこという感じで。あれからもうすぐ8年。私もいろんな経験を積んで、ちょっとは成長できたのかな、と(笑)。だからこそ、このタイミングでもう一度寺十さんに演出をお願いしたいなと思ったんです」

寺十「彼女の作品では、よく戦争が題材で扱われていると思うのですが、そこで描かれているのは、戦争によってねじ曲げられた人間模様や因果みたいなものなんですね。今回も時代設定こそ昭和ですが、震災のように個人の力や想いだけではどうしようもないものに押し流されてしまうことは、現代でもあること。そうした強い運命のようなものに、どう向き合っていくか。そこを丁寧に描いているところが面白いですね」

――― 北村想×シス・カンパニーによる人気シリーズ・日本文学シアターを筆頭に、数々の劇作家の戯曲を演出してきた寺十。その戯曲と向き合う姿勢の根底にあるものは何だろうか。

寺十「とにかく本をよく読むことですね。この本がどういうことをやりたいのかということを一番に考えます」

山像「寺十さんと初めてお会いしたのは、私が役者、寺十さんが演出家という関係で。そういう寺十さんの信念は、そのときからすごく感じられましたね。中には、本のダメなところをどうするかというアプローチで取り組む演出家さんもいらっしゃると思うんですけど、寺十さんは本に書かれていることは何かをすごく大切にされる方。その姿勢が、私にはすごく衝撃的で。いつか自分の本を演出してもらいたいって、当時からずっと思っていました」

奥山「私はじっちゃん(寺十)とは『鉄瓶』で夫婦の役をやらせていただきました。じっちゃんは演出の方に何か質問するときも言葉のチョイスが的確で。多くは語らないんだけど、一言でどういうことをおっしゃりたいのかすぐわかる。だから、一度じっちゃんの演出を受けてみたいとは思っていました。でも、前回は夫婦の役だから『じっちゃ〜ん』なんて甘えられたけれど、今回は演出家と役者。『奥山さんはさ〜』なんて厳しい顔で詰められたら傷ついちゃうってビクビクしています(笑)」


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三津谷くんの悪い部分を描きたい、と思った

――― 三津谷亮は、西瓜糖への出演自体が初めて。人気の2.5次元舞台からDULL-COLORED POP、てがみ座など気鋭の実力派劇団まで、出演作は実に多彩だ。

三津谷「2016年は、とにかくお話を頂いたものは全部やろうというつもりで、いろんな作品に出させてらいました。そうすると、結果的に2.5次元系のものが多いなという感じで。もう少しいろんな質のお芝居にチャレンジしたいなという気持ちがあって、僕の年齢で作品を選ぶのもおこがましいのですが、去年は事前にプロットを読ませていただいて、マネージャーさんともどういう作品がやりたいのか話し合いながら、決めさせてもらいました。そういう流れを経て、今年は上手くバランスをとっていければな、と。まず最初にロ字ックでストレートプレイ。そして、その次が『パタリロ!』で2.5次元。そして、この西瓜糖です」

――― 西瓜糖への出演を決めたのは、直接山像と交わした会話が決定打になった。

三津谷「桜子さん(山像)とお話ししたときに、『三津谷くんの悪い部分を書きたい』と言われたんです」

山像「そのとき、すごくいろんなお話をしてくださって。特に印象的だったのが、『つい人によく見られたいと思ってしまう』という話。『人によく見られたくていろいろやるんだけど、後で何であんなことしちゃったんだろうって後悔する』なんて話をしていて、そういうところが私と似ているなって思ったんですね。本当はクールにいきたいのに、つい敵をつくっちゃう気がして悩んじゃうそうで (笑)。こう言うと言葉が悪いですけど、小物的なところがすごく面白いなって」

三津谷「そうなんです! 小物感が半端ないんです、僕(笑)」

山像「もっとイケイケなのかなと思ったら、ねじれているところがあって、そこがとってもチャーミング。私はねじれているところを全部秋之桜子に押しつけられるけれど、彼はそういうアウトプットするところがないから、相当ため込んでいるんじゃないかなって気がします。そこを今回思い切り出せれば。マネージャーさんから『無理です』って止められたらどうしようと思いながらも(笑)、どこまで書けるチャレンジしていきたいですね」

奥山「私、彼が出ていた『滅びの国』を拝見したんですけど、ものすごく品のある役者さんで。終わるなり(山像に)連絡して大騒ぎするくらい本当素敵でした。だから今回ご一緒できるのが、とっても嬉しいです」


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まだ自分の気づいていない何かが開花するような作品になれば

――― 三津谷は、寺十の演出を受けるのも初めて。だが、昨年、舞台『関数ドミノ』で同じ事務所で先輩の瀬戸康史らが寺十演出のもと、気迫の演技を見せたのを客席で観ていた。

三津谷「正直に言うと、すごく悔しかったです。観終ったとき、『僕は何でこの作品に選ばれなかっただろう』『どうしてタイミングが合わなかったんだろう』って思ったりもしました。でもだからこそ、こうやって違うかたちでご一緒できるのは嬉しいです」

――― 08年、第5回D-BOYSオーディションで審査員特別賞を受賞。この世界に足を踏み込んで、10年のときを迎えようとしている。

三津谷「20代前半の頃からそうなんですけど、僕は自分の中でどこか1枚壁をつくってしまう性質があって、それがお芝居にも出てしまうんです。開いているはずなのに、開けていない。自分でも壁をつくっているのはわかっているし、常に開いた状態でありたいと思っているんですけど、なかなか難しくて。そこがずっと課題ですね」

寺十「でもきっとこのメンバーだとおのずと壁を破らざるを得なくなっちゃうんじゃない? キャリアがある人たちがいっぱいいるし、畑が違う人たちと一緒にやることで、その人たちの芝居とか稽古への取り組み方とか飲み会での様子とか、拾えるものは山ほどあると思う。きっとすごく刺激になると思いますね」

三津谷「(舞台『関数ドミノ』に出演した)池岡亮介からも、寺十さんは『言っていることがすぐわかるから、短い言葉でも落としこめる』というふうに聞いていて、直接演出を受けられるのが、すごく楽しみです。僕も今年でいよいよ30歳。まだ自分の気づいていない何かが開花するような作品になれば」


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『レバア』の意味は人それぞれ。観終った後に考えてもらえる作品にしたい

――― 『レバア』の舞台となるのは、昭和20年代前半。まだ敗戦の傷が癒えぬ焦土の街で、ひとつ屋根の下、共に暮らす老若男女の機微を描く。

山像「まだ復興も程遠い頃のお話。当時はいろんな価値観の人がいて、戦争のトラウマを抱えて再生できない人もいれば、目の前のことに向かって前向きに生きていこうという人もいる。今回について言えば、戦争がどうこうというより、個人個人のことを書きたいなって考えています。いろんな人が出てくるけれど、その一人ひとりに焦点が当たれば、というのが今の理想。今までの私の作品は物語を見ていくものだったと思うんですけど、今回はお客さんが個人個人に興味を持って見てもらえるようになればと考えながら、今、苦心惨憺書いています(笑)」

奥山「まだ台本を読んでいないので何とも言えないですけど、私個人の気持ちとしては、どんな内容でもお客さんにある種の活力を与えられるようなものになったらいいなと思います。それは涙を流せるものがいいとか、そういうことではなく、ドロドロの内容だってカタルシスを得られるものは必ずある。自分が関わる作品に関しては、お客さんに『来て良かった』と思っていただけるものであればいいなと思いながら、いつも演じています」

山像「あとは、タイトルの『レバア』。これはまだ台本も何も書けていないときに、ポンッとこの言葉だけが先に浮かんできました。『レバア』と聞いて思いつくものは人それぞれ。内臓の『レバア』もあれば、ドアノブの『レバア』もあるし、機械のON/OFFを切り替える『レバア』だってありますよね。そのすべてをひっくるめて、あとは観た人がどういう意味だったんだろうって考えてくれれば、それが一番。あの題名は何だったんだろうって残ってくれれば嬉しいし、そんなふうに心に何か残る作品をお届けできればと思っています」

――― 血生臭い『レバア』。新しい時代に向けての『レバア』。いろんなイメージが浮かんでは消えてゆく。果たして劇場を後にするとき、あなたの心にはどんなイメージが残っているだろうか。そんな余韻も含めて、西瓜糖の描く人間の業をしっかりと味わい尽くしたい。


(取材・文&撮影:横川良明)

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