home  >  WEBインタビュー一覧  >  土田英生

PICKUP
土田英生

キメ画像1

隣り合わせに入居している2つの会社

互いをうらやましく思いあう気持ちの行きつく先は?

MONOの次回公演『隣の芝生も。』は、古びた雑居ビルに隣り合わせに入居している2つの会社がいつしか交差していく様を描くコメディ。今回は、代表の土田が全国各地の講座で出会った次世代の俳優たちも出演する。“これからのMONO”を予感させる作品に期待が高まる。

PROFILE

土田英生(つちだ・ひでお)のプロフィール画像

● 土田英生(つちだ・ひでお)
1967年3月26日生まれ。愛知県出身。劇作家・演出家・俳優/劇団MONO代表。立命館大学在学中に演劇の世界に足を踏み入れ、89年、MONOの前身となるB級プラクティスを結成。作・演出の多くを手がける。99年、『その鉄塔に男たちはいるという』で第6回OMS戯曲賞大賞を受賞。01年、文学座に書き下ろした『崩れた石垣、のぼる鮭たち』により第56回芸術祭賞演劇部門にて優秀賞を受賞。03年には文化庁の新進芸術家留学制度で1年間ロンドンに留学した。劇作と並行してテレビドラマ『斉藤さん』、『俺たちに明日はある』、映画『約三十の嘘』などの脚本も多数手がけている。

――― この『隣の芝生も。』を書かれたきっかけを教えてください。

土田「一年以上前に設定を考えてたんですけど、自分が20年前に演劇を始めて、そのときは雑誌とかで取り上げられて俺たちもイケるのかもとも思えたし、上手にコメディを作る劇団だと取り上げていただいてたんですね。ただ、大人になると人間の暗部も書きたいなと思ってそっちに寄っていって、そういう立ち位置を自らが作ってしまってたんです。
 でも、これから10年、20年とやっていくんだったら、やっぱりコメディを作りたいなと思って。それで、隣の部屋同士の住人たちが、微妙にずれていくような、コメディの基本の設定から話を書こうと思ったんです。二部屋を舞台にするって大変なんですよ。二部屋がずっと舞台上に見えているようなものは苦手なので、表と裏でまわすと思うんですけど、それってお金もかかるんだけど、そういうことを一からやろうと思っていたら、こういう設定になりました。ただ、コメディに立ち返ろうと思いつつも、能天気にはいかないでしょうね。最終的には隣の芝生は青く見えるという話にはなっていくので」

――― 現段階はどんな状態なのでしょうか?

土田「終わりもまだ見えてないんですけど、ある部屋にドアがあって、そこは開かなくて、『なんでこのドアは存在するんだろう、きっと隣からならドアは開いてその先の部屋に行けるんだろうね』って話してるけど、隣も隣で同じことを思っているという。そんな二つの部屋の話が交わっていって、最後にそのドアの間に挟まっていたものが壊れて、隣の芝生も青くはないねという結末になればと思っています。今日は、インタビューを受けるということで、ノートも持ってきました(笑)。」


インタビュー写真

――― 手書きの相関図に写真が貼ってあるんですね!

土田「普段はイラストレーターで書いてるんですけどね。初心に帰って今日は手書きで。だいたいは、相関図は何回も書くんですよ。書いてるうちに、この人はこうはならないなとか、考えているうちに消えていったりもするんです。書くにはやっぱり軸が必要なので、相関図と場所のイメージは最初に書き出します。このあと、プロットを書いて、箱書きをするものなんですけど、今は箱書きは一切しないですね。
 でも、何年もやってると、ドラマの脚本も何も考えずに書いても、自然と一話分の48分になってるんです。よく車の運転をする人も、最初はセンターラインに対してどこらへんを走ってるかとかわからなくても、そのうち自然とわかるようになるし、すれすれだったら、ヒヤっとするじゃないですか。自分の体が車になってるような。そういう感覚ができてくるんですよね。聞いた話ですけど、俳優の生瀬さんは、画角がわかるそうですよ。演技していて、自分がどれくらい映り込んでいるのかが身体でわかるんだそうです。なんでもやり続けてるとそうなるものなんですね」

――― なるほど……それぞれの生業ごとにそういった体験はありそうですね。そして本日は相関図を描いてきてくださったので、隣り合った部屋の人たちについても教えていただけたらと。

土田「隣あった部屋のひとつには元々はヤクザだった人達が足を洗ったあとに立ち上げた会社が入ってて、もうひとつにはスタンプ屋さんが入っています。よく符丁ってあるじゃないですか。その世界だけで通じる隠語みたいな。刑事なら犯人をホシって言ったり。そこに登場する元ヤクザの人達も、符丁で会話してるんだけど、符丁だらけでおかしなことになっている、そういうところからスタートする予定です」

――― それぞれの会社にはどんな人がいるんですか?

土田「元ヤクザのほうは、MONOの劇団員で全員アラフィフ。スタンプ屋は、アラサーの俳優たちが演じます。このアラサーの俳優っていうのが、僕が三年前に全国で俳優講座をして、そこで知り合った100人の人の中で、何度かプロデュース公演に出てもらったりした俳優たちなんですけど、今回は、『これまでのMONO』とか『これからのMONO』ってうたってるように、若いメンバーがこれからのMONOを作るうえで、核になってくるかもしれないなという気持ちでやっています」


――― そんなふたつの部屋のたちが、どんなことになっていくんでしょう。

土田「もともとヒントになったのが、ウディ・アレンの『重罪と軽罪』という映画で、不倫相手を殺しちゃう男と、気をもたせるだけもたせて結局はふる女、一般的には前者が重罪で後者が軽罪なんだろうけど、まあどっちの罪が重いかなんてわからないよねという作品があって。それが頭の隅にあるんです。『隣の芝生も。』では、元ヤクザの方は殺す殺されるという会話をしていて、スタンプ屋は人間関係の嫉妬などの能天気な話しかしてないんだけど、どっちがどうなんだろうという対比になるかと思います」

――― そういう流れみたいなものは、どこまできっちり事前に決まってるんですか?

土田 それが、ぜんぜん行き当たりなんです。昔『約三十の嘘』っていう作品を書いたんですけど、詐欺師の話で、観た人からは伏線がいいとか言われたけど、自分では誰が誰を裏切ってるのかわからなくて。そろそろばらさないといけないとなるけど、アリバイが全員にあるんですよ(笑)。それで、後から前半をちょこちょこと書き直してね。自分でもわからずに書いているから、観てる人にもわからないんですよ。

――― そんなこともあるんですね。

土田 「ちょっと前にKERAさんに『劇作バトル!』というイベントに出てもらったんですけど、その時に色々と話を聞いてたら……まあ、先輩であるKERAさんの後先をあまり考えずに書いているということが分かったので、安心してます(笑)」

――― 最後になりますが、読者の方にはどんなところをひっかかりにしてもらいたいですか?

土田「毎回どういうことを言えば興味を持ってもらえるのか悩みますけど、たぶんカンフェティを見ている人はすでに演劇に興味ある人だと思うんですよ。それ以外でも、演劇の世界に興味のある人は、ある劇団の名前は知っていても、こんな感じだろうなっていう想像だけで、観ないで終わっていく人も多いんじゃないかと。でも、最近自分の周りの若い子が、劇団扉座の舞台を観にいって、面白かったですって言ってたんですね。小劇場で何年も残ってる人がおもしろいのは当然なんです。でも、小劇場の世界って新しいところが出てくるとどうしてもわっとそこに注目が行くじゃないですか。
 最初にMONOにもいい時期があったって話をしましたけど、僕もそんな状態が一生続くと思ったんですよ。もちろん、本当にそれが続く人もいるだろうけど、若手が次々と出てくるとそこに注目が行くということの繰り返しで、出てきた後が大事なんですよね。長くやっているからには、MONOにも培ってきたものもあるし、新しいこともやっているので、名前だけ聞いたことがある人にも、一回観てもらいたいと思いますね」


(取材・文&撮影:西森路代)

キメ画像2

公演情報