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今年で結成10周年を迎える「犬と串」。今回挑戦するのは、犬と串らしいエネルギッシュなコメディーと、これまでとは一味違う、サイバーでスタイリッシュな世界観の融合。かつてない好景気に沸き、驚異的なスピードで流行が移り変わる近未来の日本を舞台に、絵画に関わる人間たちの姿を通して、物事の真価とは何かを問う意欲作だ。
作・演出のモラルと、今回重要な役所を担う劇団員の藤尾勘太郎に、本作への思いを語ってもらった。
● モラル
1986年2月25日生まれ。福岡県出身。2008年、早稲田大学在学中に、劇団「犬と串」を旗揚げ。以降、全ての本公演で脚本・演出を担当する。2013年の「黄金のコメディフェスティバル2013」において最優秀演出賞を、2014年の佐藤佐吉演劇祭2014+においてゴールデンフォックス賞(最優秀作品賞)を受賞。外部団体への脚本提供、演出も多数。
● 藤尾勘太郎(ふじお・かんたろう)
1986年12月27日生まれ。東京都出身。2008年より劇団「犬と串」に参加。劇団以外の出演舞台に、現代能楽週[『道玄坂綺譚』、クロノステージvol.3『鏡の中のAuftakt』、MMJプロデュース『昆虫戦士コンチュウジャー2』、ゴジゲン『なんかすごいSF的なやつ』(主演)、ティーファクトリー『エフェメラル・エレメンツ』などがある。
――― 「流行」の軽薄なスピードが決して嫌いではない、とモラルは言う。だが流行に熱狂する人々は、実のところ一体何に熱狂しているのか。物事の真の価値とは何なのか。モラルが『ピクチャー・オブ・レジスタンス』で描こうとするものとは……
モラル「世界観の前提としてあるのは、かつてない好景気に沸いているという状況。そういう時の狂騒って、右に倣えというか、誰かがこうだと言ったものに、みんなが乗っかっていくような所があるような気がするんです。絵画も信じられないような値段がついていたりするけれど、じゃあ幾らが適正なのかと言われても、もはや分からない。そんな分からないものに騒いでいる人たちみたいなものや、そこに確かなものはあるのか、右に倣えの狂騒をとっぱらった時に何か残るのか、そんなところを描きたいなと思っています。
物事がうつろっていく様や、その軽薄なスピードみたいなものは、形が残らない演劇に通じるところがあって、決して嫌いではない。ただやっぱり、そこだけに呑まれちゃいけないと思うところがあって。流行を肯定する否定するというよりは、愛憎両面みたいなところから、その軽薄なスピードの中で骨太なものを作っていけたらなといった感じですね」
――― 物語の中枢を担うのは、モラルの傍らでこの十年「犬と串」を支え続けて来た藤尾勘太郎。その役所は、それなりに仕事もして、それなりに流行の場所で遊ぶような、特に目立った所のない、その時代の“普通の人”だという。また今回は、オーディションで選ばれたメンバーたちが、作品に彩りを添える。
藤尾「“普通の人”って、逆にどんな人なんだろう(笑)。だけど、傍から見て普通に生きてるように見えてもそれぞれ必死だし、実際は“普通”じゃなかったりする。だから、あくまで自分の感覚で、必死にできればいいなと思います。必死で流行に追いつこうとしたり、意に沿わないこともハッピーになりたくて必死でやったりするんだろうし、ざっくり演じるのではなく、自分の感覚を使ってやっていきたいですね」
モラル「今回オーディションで選んだのは4人。オーディションではもちろんテキストを読んだりもしますが、割とそこは最低限みたいなところで、“愛せそうか”ということを大事にしてます。僕らの舞台は稽古場から本番に至るまで、効率よく目的地を通っていくというよりは、わっと泥をさらって、その中に一粒真珠が入っていればいいといった感じなので、泥臭いものを一緒に愛せそうか、そしてそれをお客さんに見せたときに、受け入れてもらえる愛嬌があるかみたいな所ですかね。今回の4人は愛嬌抜群です」
――― 劇団にとっての10年。「もう10年かと思う。ただ10年前が、めちゃくちゃ昔という気がする」と藤尾は言う。その道のりは決して平坦ではなかったかもしれない。しかしそこで経た紆余曲折こそが今の「犬と串」の財産だ。
モラル「“泥臭い”とさっき言ったばかりですが、その中でも、今回はちょっとシャープにというか、いつもより格好つけると思います(笑)。犬と串っていう劇団自体が、最初はストーリーなんてあるのかないのかみたいなことをやっていたんですが、それを格好つける方向に、言い換えると、ちゃんと形を整える方向にパッケージングしてみようとした時期があったんです。そしてまた、もう一回あんまりパッケージングにこだわらず分解してみようみたいな時期を経て、さらにもう一回、スタイリッシュにというか、形を整える方向でやってみようかと。これまでの経験を踏まえながら、今回はかっちりストーリーでみせて行こうかなと思ってますね」
藤尾「学生の頃は、とにかく体を動かして!みたいな時代でした。そこから色々変遷はしているんですけど、物語とかドラマとか、そういうものへのアンチテーゼや、愛憎みたいなものは、本当に変わらない所ですね。今回も恐らく10周年だから何か特別ということはないんだろうなと思っています。今創りたいと思えるものを創るしかないですから」
モラル「藤尾くんは“僕の創りたいすごく穴の細い針に糸を通せる俳優”です。もちろん一緒に過ごしてきた時間によって培われたものもありますけど、藤尾くん自身が持ってる嗅覚だったり誠実さだったりセンスだったり、そういうところもひっくるめてですね」
藤尾「モラルは“くねくねする動物”ですかね。いつもくねくねしてる感じがするんですよね。しかも、地面から生えてくねくねしてる感じ。もがいてるようで、でも、そのくねくねがポップにも見える。戦ってるようにも見えるけど、でもポップ。でもくねくねしながら、たまにびよーんと伸びたりする(笑)」
――― 「犬と串」の10周年を飾る『ピクチャー・オブ・レジスタンス』。演劇と、時代と、そしてそれぞれが自分自身と向き合い続けた10年の集大成ともいえる作品になりそうだ。
藤尾「今までの犬と串のエッジが効いた部分はありながら、沢山の方に楽しんでいただける間口の広い作品になるんじゃないかと思っています。犬と串をご覧になったことのある方も、名前は何となく聞いたことがあるぞという方も、名前も聞いたことないという方も(笑)、ぜひ劇場に足を運んで頂ければと思います。きっと元気になって頂ける作品になる気がしてます」
(取材・文:前田有貴 / 撮影:友澤綾乃)