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天願大介・月船さらら

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新宿ゴールデン街劇場で再び甦る、metro真夏の悪夢

江戸川乱歩の『孤島の鬼』から少女の手紙の部分だけを抜き出した『二輪草』が早くも再演!

今年4月に新宿ゴールデン街劇場で上演された『二輪草』は、江戸川乱歩の『孤島の鬼』の中の双生児・秀の奇妙な手紙の部分だけを天願大介が脚色し、秀を月船さららが演じた濃密な作品だ。その『二輪草』の再演が早くも決定。主演の月船さららと、天願大介に話を聞いた。

PROFILE

天願大介(てんがん・だいすけ)のプロフィール画像

● 天願大介(てんがん・だいすけ)
1959年12月14日生まれ。東京都出身。出版社に勤務中の1990年、『妹と油揚』で注目され、1991年『アジアンビート(日本編)アイ・ラブ・ニッポン』で長編監督デビュー。代表作に、『AIKI』(2002)、『暗いところで待ち合わせ』(2006)、『デンデラ』(2011)、『魔王』(2014)などがある。『十三人の刺客』(2010)の脚本で第13回菊島隆三賞受賞、第21回、22回、34回日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞。2017年4月より、日本映画大学の学長も務めている。

月船さらら(つきふね・さらら)のプロフィール画像

● 月船さらら(つきふね・さらら)
滋賀県出身。1996年宝塚歌劇団に入団、『ベルサイユのバラ2001』の新人公演で初主演。2005年退団。2007年『さくらん』(蜷川実花監督)で映画デビュー 。2008年『世界で一番美しい夜』(天願大介監督)で第30回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞。その後2012年『アウトレイジ ビヨンド』(北野武監督)、2013年『千年の愉楽』(若松孝二監督)、2016年『変態だ』(安齋肇監督)などの話題作に出演。主な舞台出演作品に『ロックンロール』『ゴーレム』他があり。métroは来年で旗揚げ10年目に。

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――― この舞台は4月に上演されたものの再演ですが、江戸川乱歩の『孤島の鬼』から一部分を切り取って上演しようということは、どのような流れで決まっていったのでしょうか?

月船「métro(メトロ)というユニットの公演としては4年のブランクがあり、そろそろやりたいなと思い立って、私がゴールデン街劇場のスケジュールを押さえてしまったんです。そこに合う作品はなんだろうと思ったとき、江戸川乱歩の『孤島の鬼』のことが浮かびました。以前から天願監督とも『孤島の鬼』の中の「秀ちゃんの手記」が秀逸だという話はしていて、それをふまえて台本を書いてもらっていたんですね。その台本がゴールデン街劇場の公演にぴったりではないかということで決まりました」

天願「1年くらい前ですね。乱歩の作品の中から、3つの話があわさると一つになるオムニバスを書いていて、その中のひとつを膨らませました。ゴールデン街劇場が尋常でなく小さいので、そこでできることを考えたら、「秀ちゃんの手記」が実現可能だし、合っているなと」

――― ゴールデン街劇場に対する特別な思いがあったんですか?

月船「昔からやってみたかったんですよ。métroは100人以下の劇場でやりたいというのが当初からのコンセプトだったんです。私はそれまでは宝塚という大劇場に立っていたので、少人数で、近い距離感で見せることの贅沢さが憧れでした。今回の公演は、小さい劇場の中で、美術も照明も素晴らしいし、信頼している役者さんたちと実現できて本当によかったなと思っています」

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――― 今回の再演もゴールデン街劇場で上演されるそうですね。

月船「一回目で入れなかった方もいらしたし、こちらとしても見せ足りない感じがあったんです。小屋を変えるという案もありましたが、ロケーションも含めて、ゴールデン街を抜けると劇場に辿りつくというのもいいし、観終わってあの雑多な街で一杯飲むことも含めてここだなと」

――― 実際、ゴールデン街劇場で上演してみていかがでしたか?

月船「毎公演が戦いでした。誰かと会話をするスタイルの芝居じゃないので、お客さんの方を向いて芝居をしているし、お客さんの集中力がとぎれたらそれも伝わるし。全ステージが戦いでしたね。最初のうちは、客席に白い服を着ている人がいるだけで気になったりしてたんですけど、そのうちそれも気にならなくなっていきました」

――― 天願さんは演出家として、ゴールデン街劇場での演出はいかがでしたか?

天願「映画監督は、空間を使ってどう演出するかが本業なんですね。だから、狭いほどやることが限られる。なるべくならやりたくない(笑)。最初はそう思ったけれど、作品によっては狭さも有効になるし、面白く作れる。僕がこれまで勉強してきた「語り芸」の可能性を試すチャンスだと思って、楽しみながらやりました。結果としては、よかったと思います」

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――― 稽古はどのような感じでしたか?

天願「セリフが多いですし、しかも正確にセリフを再現したいということで、時間がかかりました」

月船「乱歩の書くセリフ、特に「秀ちゃんの手記」の文章は独特なので、WてにをはWひとつ変えたくないと思って」

天願「言いやすく変えてしまうと、乱歩の狙った味が死んでしまいます。でも俳優は、人が書いた言葉をしゃべる仕事ですから。セリフのほかにも、この作品は、動きや衣装など、どこをとっても難しくて、試行錯誤と準備に時間をとられました。結果的に、どの要素も面白いものになったと思います」

月船「セリフをちゃんと言うというのは、最初のハードルであって、そのあとにもいくつもハードルがありました。一番大切なことは、小説として言葉で書かれたことを、舞台で形にして説得力のあるものにすることなんです。おどろおどろしいだけじゃなく、違う印象にしたかったので」

――― 『孤島の鬼』の「秀ちゃんの手記」を読んだ時とも、どこか違う印象というのもあるんでしょうか?

天願「前と後ろがなくてそこだけを抜き出しているのですが、そこだけを抽出しても成立する強い話だし、抜き出したことで、ミステリーの要素がなくなって、登場人物の気持ちとか、存在がより強く感じられるようになったと思います」

月船「原作を知ってる人からすると、まさかここだけ抜くとはという感想もあったし。おどろおどろしいのに、どこか美しい印象で終わったとも言われました。人間の奥底の嫌な部分を見せつけているのに、きれいな部分が残った、と。それは意図したことでもあるので、嬉しかったですね」

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――― ユニットとしてmétroをやっていく上での苦労はありますか?

天願「終わらないですよ、苦労の話をしだすと(笑)」

月船「métroは俳優二人でスタートしたんです。今は私一人なので、私が力尽きたら続かないわけで。私にエネルギーがないと、スタッフを説得もできない。いざ始まると、スタッフの皆さんも、面白いものを作るぞと乗ってくれて転がるんですけど、最初に転がすのは私なので、そこが苦労ですね」

――― 再演には、前回観に来た方に加えて、新たなお客様も増えるかと思いますが。

月船「前回は私のSNSなどを通じて知ってくれた身近な人たちが中心でしたけど、今回は広げていきたいですね。演劇を観ない人にも観てもらいたいです。新しい人にも観てもらいたいと思っての再演なので。それに、ゴールデン街ということもあって外国の人にも観ていただけたらと思ってるんです」

天願「métroでの公演を久しぶりに4月に再開したので、それが打ち上げ花火で終わらないように、この作品を粘ってやっていくことも大切だし、新たなこともやっていって、métroを再認識してもらうきっかけになればと思いますね」

月船「再演をするからには、どこまで深めていけるかも勝負です。深まる可能性はまだまだあると作品だと思うので」


(取材・文&撮影:西森路代)

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