home  >  WEBインタビュー一覧  >  みやなおこ

PICKUP
みやなおこ

キメ画像1

大正時代の大阪・船場を舞台に描かれる、わかぎゑふ渾身の人情喜劇が待望の再演

豪商の妾と商人たちの物語に、古き良き日本の「豊かさ」が滲み出す

わかぎゑふの作・演出で2014年に上演された『おもてなし』。大正末期の大阪・船場を舞台に、そこで生きる商人たちの古き良き生活を描いた人情喜劇だ。初演当時の反響はすさまじく、観客の口コミによって当日券を求める人が殺到したという。さらに、豪商の妾である主人公を演じたみやなおこは、本作で平成26年度文化庁芸術祭優秀賞を受賞。人気と評価の両方で確かな結果を残した。今回の再演では、東京公演は下北沢ザ・スズナリから新宿スペース・ゼロに劇場を移してスケールアップ。新キャストも迎えて装いも新たに届けられる本作について、みやなおこが話してくれた。

PROFILE

みやなおこのプロフィール画像

● みやなおこ
1962年2月26日生まれ、大阪府出身。同志社大学在学中、劇団そとばこまちに入団。2001年の退団まで、看板女優として50本以上の舞台に出演。大阪だけでなく東京での外部プロデュース公演にも数多く出演している、関西を代表する女優の1人。深作欣二監督『おもちゃ』では、日本映画界初のアクティングトレーナーを担当。2002年には演劇企画ユニットDONNA・DONNAを旗揚げ。九十九一との2人芝居『なんぼのもんじゃい』は、7回もの再演を重ねる代表作の1つ。

インタビュー写真

大阪人の良いところを感じさせてくれる

――― わかぎとは長い付き合いだという彼女だが、わかぎが作・演出を務める舞台に出演するのは『おもてなし』が2度目だった。

「役者として共演したのはG2プロデュースの旗揚げ公演『12人のおかしな大阪人』(1995年)が最初でしたけど、その前から一緒に飲みに行ったり、お互いの芝居を観に行ったり観に来てもらったりという仲でした。作演出家の彼女と初めて組んだのはリリパットアーミーIIの『傀儡女〜時の男 最終章』(2012年)。もともとシャキシャキした方ですけど、演出家としても厳しいですね。「1回言うたらやれよ」っていう感じで、稽古期間も時間もとても短いんです。
 そして、脚本を書くときの生理と演出家としての生理が全く違うみたいで、役者の芝居ができていないシーンは稽古中に容赦なく切っていく。『おもてなし』の初演でも、けっこうギリギリになってカットされたシーンがありました。だから、こちらはどこまで陰で努力していくかというところがありますね」

――― 『おもてなし』の舞台となる船場は、大阪が大正末期に日本一の人口を誇っていた頃、その中心で栄えた商人の町。その商人たちの間で交わされるもてなしの数々を裏で支えるのが、みやが演じる主人公の兼(かね)である。

「船場では華やかなもてなしに惜しみなくお金をかけるのが習わしなんですけど、どうしても倹約が必要なときもあって、それでも表向きはお金をかけているように見せなきゃいけない。それを全部裏でお膳立てしていくのが兼で、船場の大店(おおだな)の旦那さんたちに頼りにされている。表の華やかさと裏の部分の両方に精通していて、自分は決して表に出ないという、男の人から見た理想の女性ですね」

――― 派手なもてなしを裏で支える倹約……その根底には、大阪商人の豊かな精神性が流れている。

「大阪人はケチだっていうイメージがあると思うんですけど、ちゃんとお金を出すべきところには出す。そこにはしっかりしたポリシーがあるし、倹約しているのを表に見せないのは、見栄を張るというだけじゃなくて相手に遠慮させない心遣いでもあります。そんな大阪人の良い部分も、この芝居で感じてもらえると思います」

――― 舞台では、当時話されていた独特の船場言葉をはじめ、数百年の歴史の中で作られた商人のしきたりや、身分によって違う女性たちの着物の数々を細かく再現しているのも大きな見どころ。

「当時のことをご存知の方が見たら、ものすごく懐かしく感じていただけると思います。初演のときもそういう方がたくさんいらしてくださって、「言葉も雰囲気もあのとおりやったわ」って言ってくださったりしました。初演では秋のお話でしたが、今回は初夏の設定で、着物も全部夏のものに変わります。キャストもけっこう新しくなって、狂言師の茂山べーちゃん(茂山逸平)が贅沢にも本物の狂言をやってくれたりするので、そういうのがお好きな方もすごく楽しめると思います」

インタビュー写真

初演に対する反響が大きな励みに

――― 冒頭で触れたとおり、この『おもてなし』での彼女の演技に対し、平成26年度文化庁芸術祭優秀賞が与えられた。それが今回の再演への追い風になったことは間違いない。

「賞というのはそれこそ新劇の方とか、歴史の長い方たちが順番に取るみたいなイメージがあって、まさか関西の学生演劇出身の自分がいただくなんてあり得ないと思っていました。だからものすごく驚きましたし、関西の小劇場の後輩たちが「自分たちも頑張って良い作品に出れば評価してもらえるとわかって、すごく励みになりました」っていうことをたくさん言ってくれたのがとても嬉しかったです。そして、小劇場関係は地方公演ってなかなか難しいと思うんですけど、今回は東京と大阪以外に北海道や愛知からも呼んでいただけて、本当にありがたいです」

――― そのベースにあるのは、もちろん作品の良さ。主人公がお妾さんということで、人情話にも奥行きが生まれる。

「私自身は大店のお妾さんですけど、本妻さんは早くに亡くなっていて、その子供を私が乳母みたいな感じで育てているんです。そして彼は私のことをお母さんのように思っている。でも私と旦那さんの間にも子供がいて……というような人間関係も含めて、船場ならではの面白い逸話がたくさん出てきます」

――― また、作中には山崎豊子の短編『しぶちん』に出てくる商人も登場。初演時に没後1年であった山崎に対する愛敬の思いが込められているという。

「山崎豊子さんはわかぎの中学〜高校の大先輩で、その母校があるのが船場なんです。山崎先生の『ぼんち』が沢田研二さん主演で音楽劇になったとき、わかぎが上演台本を書いたというご縁があって、『しぶちん』のCDブック(橋爪功による朗読)で彼女が解説を書いたんです。それで、そこに出てくる登場人物のお名前とストーリーをちょっとだけもらって、山崎先生へのオマージュみたいな感じにしています。だから、山崎先生の船場物が好きな方は「ああ!」って思うような世界にもなっています」


――― ところで、この『おもてなし』というタイトルは2020年に行われるビッグイベントを連想させるが……

「もともと、わかぎが『おたのしみ』とか『お祝い』のように「お」で始まるタイトルで大阪弁の芝居のシリーズをやっていて、その流れで生まれたタイトルなんです。でも脚本の初稿ができた数ヶ月後にあの会見(IOC総会のプレゼンテーション)があって、わかぎは嬉しいのか悔しいのか「うわー!こっちが先やのに!」って言ってました(笑)。それはさておき、海外の方にも、この舞台はきっと日本のイメージそのものだと感じてもらえるんじゃないかって思います」

――― 本当の「おもてなし」とは何か。そんなことをゆっくり考えるきっかけにもなりそうなこの作品には、これから何度も上演され続けてほしい「名作」の佇まいがある。ぜひこの機会に足を運んでほしい。

「基本的には畳の上の台詞劇で、地味といえば地味な芝居なので、私自身も初演の幕が開くまでは不安でした。でも初日からお客様の反響がすごかったので、もしかしたらいい線いけるんじゃないの?って、他のみんなも含めてそういう気持ちに変わりました。同業者からも「何回でも見たい」というようなお褒めの言葉をたくさんいただいて、本当にありがたかったです。スズナリでの初演はセットの組み方に制限がありましたが、今回は木戸とかも余裕を持って作れて、しっかりお見せできると思います。そのぶん、細かい所作まで見えるので演じる方は大変なんですけどね(笑)」


(取材・文&撮影:西本 勲)

キメ画像2

公演情報