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劇作家女子会。

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“みんな違って、みんないい”ではない。強い信頼感で繋がった4つの個性が火花を散らす

4人の劇作家女子がミュージカルを共作! それぞれの作風が融合した先に生まれるものとは

 新人以上中堅未満……そんな劇作家女子たち4人で2013年に結成された劇作家女子会。が、第3回公演『人間の条件』を上演する。これまでは各自が戯曲を持ち寄る形で公演を行っていたが、今回は初の共作、しかもミュージカルということで俄然注目したいところ。ということでメンバー4人に集まってもらい女子会……ではなくインタビューを行った。

PROFILE

坂本 鈴(さかもと・りん) のプロフィール画像

● 坂本 鈴(さかもと・りん)
熊本県出身。 劇作家。演出家。劇作家女子会リーダー。 劇団だるめしあん代表。 対戦型演劇イベント「ガチゲキ‼」プロデューサー。劇団劇作家所属。 2015年、劇作家協会戯曲セミナー研修課に進み、横内謙介氏に師事。 劇団ひまわり、かわせみ座、劇団ポプラなど、児童劇団や人形劇団にも脚本を提供し、中学校の脚本コンクールの審査員や高校演劇大会の審査員、劇作ワークショップの講師など、演劇教育での活動も行っている。

オノマリコ(おのま・りこ) のプロフィール画像

● オノマリコ(おのま・りこ)
1983年生まれ。神奈川県藤沢市出身。東京女子大学文理学部哲学科卒。演劇ユニット"趣向"主宰。2015年、シアタートラム ネクスト・ジェネレーションvol.7にて『解体されゆくアントニンレーモンド建築 旧体育館の話』上演。2016年1月、マグカルシアターin KAAT『THE GAME OF POLYAMORY LIFE』上演。同作で第61回岸田國士戯曲賞にノミネート。ほかに高校生との作品創作『大阪、ミナミの高校生』シリーズなど「劇作家が世界でできること」の実践を試みている。

黒川陽子(くろかわ・ようこ)のプロフィール画像

● 黒川陽子(くろかわ・ようこ)
1983年生まれ。 早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了(アーサー・ミラ―研究) 2007年、『ハルメリ』で第13回日本劇作家協会新人戯曲賞受賞。 『どっきり地獄』『ロミオ的な人とジュリエット』『10978日目の鏡』など中短編戯曲を多数執筆するほか、ミュージカル脚本の作成、映像作品の企画・構成、評論文の寄稿、海外戯曲の翻訳など、活動の幅を広げている。

モスクワカヌ(もすくわかぬ)のプロフィール画像

● モスクワカヌ(もすくわかぬ)
1984年生まれ。2009年、ミュージカル『この夜の終りの美しい窓』で作演出家デビュー。 2010年、演劇専門誌「せりふの時代vol.56」に入選掲載。 2012年、短編演劇イベント「劇王X〜神奈川大会〜」にて総合3位、審査員票1位の成績を残す。 近年の作品は『Mademoiselle Guillotine 〜マドモアゼル・ギロティーヌ〜』『POSHLOST』『世界をほろぼすことに決めた7人の女子高生』。

● 劇作家女子会。(げきさっかじょしかい)
「死後に戯曲が残る作家になる」を目標に集結した劇作家チーム。 2013年、劇場を女子会の会場と見立てた短編戯曲の持ち寄りパーティー『劇作家女子会!』を時間堂との共催で開催。 2016年、古川貴義(箱庭円舞曲)を演出に迎えた『劇作家女子会R!−WORLD PREMIERE−』で前回の2倍近い動員を記録。その他の活動に、劇作家大会2014豊岡大会でのトークイベント「劇作家女子『大』会!」(参加作家:わかぎゑふ、稲田真理、鹿目由紀、劇作家女子会。ゲスト:谷口真由美(全日本おばちゃん党))などがある。

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4人で1つの脚本を書く面白さ


――― 劇作家女子会。のメンバーは、坂本 鈴、オノマリコ、黒川陽子、モスクワカヌの4人。最初に、結成のいきさつを聞かせてもらった。

坂本「私と黒川はもともと仲良しで、「ガチゲキ‼」という演劇バトルイベントの立ち上げメンバーとして一緒にやったりしていて、そしてオノマとモスクワがずっと仲が良くて」

モスクワ「私とリコさんがやった公演のアフタートークで坂本さんと黒川さんをゲストに呼んで、そのとき初めてこの4人で話をしたんです」

坂本「そのアフタートークのタイトルが『劇作家女子会』。それが楽しくて、いつか公演したいねっていう話になって」

オノマ「王子小劇場のスケジュールにたまたま空きがあって、じゃあやろうかってなったのが最初の公演でした。その後も4人でイベントをやったり、ちょこちょこ活動はしていたんですけど、しばらく公演はない状況で……」

黒川「2回目の公演が、去年の7月です。その準備をしていた頃に、座・高円寺の日本劇作家協会プログラムに応募したミュージカルの企画書が通って、今回の公演が決まりました」

――― まず興味を引かれるのは、4人が共作を行うという点。共作といっても2人ならまだ珍しくないが、4人で1つの脚本を書くというのはなかなか想像がつかない。

黒川「まず4人の文体が全然違うし、登場人物も4人で持ち寄ったキャラクターがすごい数出てきます。それをシーン別に分担して書いていくので、自分以外の人が作った登場人物の台詞やト書きも書くことになりますが、意外に自分のキャラクターより書きやすかったりして」

坂本「そう、生き生きと書いてるもんね。モスクワさんのキャラクターなのに、黒川さんが書いているシーンでよくしゃべっていたりとか」

黒川「自分では普段書かないようなキャラクターというのもあって、書きやすいんです」

坂本「あなたのシーンに出てくるこのキャラクターは、こっちのシーンでこんな感じになるけど大丈夫?みたいな打ち合わせもしますね」

オノマ「書くのにすごく時間がかかるんだなっていうことも、実際にやってみてわかりました。プロットもエクセルを使って何度も作り直して」

黒川「普段1人で書いているときは、登場人物にとってある程度都合のいいラインに沿って動いてもらうのに対して、今回は別のラインの登場人物が突然干渉してくることもあったりして、全然思い通りにならないんです。でも、現実世界というのは割とそういうものなので、その辺りをおろそかにしないで作っていきたいと思っています」

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なぜ、ミュージカルを選んだのか


――― 次に、そんな複雑かつ面白い共同作業で生み出そうとしているのがミュージカルである理由を尋ねてみた。

黒川「もともと去年の公演でテーマを何にしようかと考えていたとき、短編戯曲のオムニバスを音楽で繋げてみるのもいいんじゃないかと提案したのが発端でした。それまでに4人ともミュージカルを書いた経験があって、それを観たとき、曲をどのタイミングで入れるかというセンスが4人で全然違ったんです。ミュージカルというジャンルは同じでも、作風とか手触りがまったく別々だということが強調されて伝わってきていたので、4人の違いを活かすにはミュージカルで共作をするのが面白いんじゃないかと考えていました。ただ、去年の会場はミュージカルをやるには少し狭かったので、より大きなところでの公演が決まったらそこでやろうということになって、それで今回の企画になったんです」

オノマ「今回音楽を担当してくださる後藤浩明さんは、以前お仕事させていただいたことがあるんですが、作品に対して音楽でどのようにアプローチするかをすごく考えてくださる方です」

坂本「音をどんなふうに使うかを、脚本の一部としてずっと一緒に考えています」

黒川「去年、オノマ以外の3人が所属している劇団劇作家(日本劇作家協会の戯曲セミナー出身者を中心に、劇作家だけで構成された劇団)との共催でミュージカル講座を開催して、ゲストで青井陽治さんと宮川彬良さんに来ていただいたんです。音楽専門の方が考える手順と、我々が考える手順は全く違っていて、音楽がどのようにミュージカルの柱を作っているのかをそこでしっかり教えていただいたことも大きかったです」

モスクワ「私は、もともとミュージカルを書きたくて劇作の勉強を始めて、自己流ではありますが、ずっと音楽劇やミュージカルを作ってきました。それで、私はミュージカルを書くときに実はあまり考えたり悩んだりしたことがなくて……」

オノマ「モスクワさんは完全にミュージカルを観ながら育ってきたので、ミュージカルの文法はこうだっていうものを持っているんです」

モスクワ「だから逆に言語化するのが難しかったりして、みんなと書くときに“ミュージカルだったらここはこうなる”みたいなことをうまく共有できない。“ここでなぜ歌うの?”と聞かれても、“えっ?”って思っちゃうんですね。そういうところの作法は全然違うんだなって、改めて発見したりもしました」

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――― 演出を手がけるのは、黒色綺譚カナリア派の赤澤ムック。彼女もまた“劇作家女子”だ。

モスクワ「一人芝居ミュージカル短編集という別の企画に劇作で参加したんですけど、そこで演出をつけていらしたのがムックさん。以前から劇作家大会などで顔見知りではいたんですけれど、改めてそこで、演出家としてとても信頼できる方だと思ったんです」

黒川「そのときは、それぞれの短編ごとにテイストがかなり違っていたんです。それで今回、4人で共作ということでもあるので、いろいろな作風を活かせる方にぜひ演出をお願いしようということになりました」

オノマ「ミュージカルに詳しく、そもそも音楽が好きな方だというのもお願いした理由の1つです」



それぞれに違う“人間の条件”をぶつけ合う


――― 物語の舞台は近未来の日本。そこに多数の地球外生物が人間の姿を模して紛れ込み、死んだときに初めてそれが地球外生物だったと明らかになるという設定で、生きている間は完全に人間として振る舞うその生物たちを果たして人間として扱うべきなのか……すなわち“人間の条件”とは何なのか?を問いかける。

黒川「すごく真面目というか重いテーマを真正面から扱いますが、形式がミュージカルなので食べやすいと思います。ミュージカルの入りやすさとテーマ性の深さをしっかり両立させた、私たちにしか作れないものを目指しています」

オノマ「人間の条件って、人それぞれで考えが違うと思うんです。今回は私たち4人が考えたものが1つの作品になっていますけど、実際はもっと大きなテーマなので、さらに広がりを持たせたいと思い、通常のキャストとは別に“フィールドワーク部”という枠も設けました。これは役者ではない人たちを一般から募集して、それぞれに“人間の条件”を考えてもらって小さな作品を作り、ミュージカルの中に入れ込みたいと考えています」

黒川「劇中劇みたいなフィクション性の強いものではなく、むしろ現実と地続きになったもう1つの作品という感じですね」

坂本「でも決して実験的な舞台というわけではなく、物語としてきちんと昇華して作っていくつもりですし、そのためのミュージカルでもあると思っています。初めから言っているのは、“みんな違って、みんないい”みたいにはしないということ。そうじゃないと短編の寄せ集めでいいってことになるので、この4人が考えて、戦って、勝ち残った“人間の条件”を提示したいんです。私と黒川は何回か共作したことがあるんですけど、非常に信頼関係がないとできないし、こいつ気に食わねえなと思ったらもう何も聞けないって感じになっちゃう。でも、お前の言うことは聞いてみようって全員が思える関係性を4年間かけて作ってきた結果が、今回の4人での共作なんです」

黒川「共作するにあたっては、お互いの幼少期までさかのぼって話し合ったりもしました」

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モスクワ「ここでそれ言うんだ、みたいな感じでサラッと重いことを言ったりすることもあるんですけど、結構ナチュラルに受け止めてもらえるというか、言っても聞いても大丈夫っていう信頼関係はできていると思います。共作しているときも、お互いが掲げる人間の条件がバラバラで、全然交わらない。鈴さんなんて、私の“人間の条件”を、“そんなの嫌だ”って(笑)」

坂本「そうやって喧嘩もするのも重要で、それぞれの“人間の条件”をぶつけ合えることがすごく重要だと思っています。まだぶつかっている最中ですが(笑)」

黒川「4年間で培った信頼関係がある一方で、どうしてもここは違う人間だっていうところも際立ってきていたので、そこもしっかり活かして取り入れたら面白いんじゃないかなと。ここは折り合わないぜ、っていうところも積極的に入れています(笑)」

オノマ「折り合わせるんじゃなく、むしろ差異を際立たせるほうが面白い」

坂本「そこでわかったふりをしないのが重要で、わかるわかるって言っちゃうと、無視しちゃうみたいなことに近づいていく。お前の言ってることはわからないぞ!っていうのをギリギリまでやる作業をすごく大事にしています。それが作中でも、人とどう関わっていくのかっていうこととして描かれていくと思います」

――― 4人それぞれが考える“人間の条件”をぶつけ合うこと。それは、同じ劇作家、同じ女性、同じ人間である4人が集まって共に創作する劇作家女子会。のテーマそのものだ。

坂本「劇作家って孤独なんですよ。みんなでワイワイやりたいと思って演劇を始めたはずなのに、どうしてこんなに毎日1人で書いてる孤独な日々なんだろう!って(笑)。この孤独は作家同士でしか分かち合えないんです。「ガチゲキ!!」や劇団劇作家をやろうと言ったのもそこなんですけど、それでも埋められないものがある。もっと密に、いろんなことを話せるようなチームになればいいなと思って始めたのが、この劇作家女子会。なんです。今回の作品では、その1つの集大成を見せられたらと思っています」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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