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堀越 涼

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彼女の前ではすべての罪を吐露してしまう……“教会”と呼ばれる娼婦の物語

美術、衣裳、音楽、配役の変化でどう変わる? 西洋画編と日本画編、あやめ十八番の実験公演

歌舞伎、能、浄瑠璃などさまざまな日本の古典芸能を基礎とし、歌舞伎の黙阿弥に代表される七五調の台詞回しや古典的な言い回し・所作を特徴として取り入れた“擬古典”が印象的なあやめ十八番。昨年の劇団初となるミュージカル公演など挑戦を続ける彼らが今回新たに取り組むのは、ひとつの物語を舞台美術・衣装・音楽・一部の配役を変更して“西洋画編”・“日本画編”の2バージョンで上演するという実験的な作品だ。 あやめ十八番の主宰で作・演出を務める堀越涼に話を聞いた。

PROFILE

堀越涼(ほりこし・りょう)のプロフィール画像

● 堀越涼(ほりこし・りょう)
1984年7月1日生まれ。千葉県出身。花組芝居所属。あやめ十八番主宰。2005年『ゴクネコ』より花組芝居に研修生として参加し、翌年、『ザ・隅田川』より正式に入座。以降、花組芝居作品のほぼすべてに女形として出演する。2012年にはあやめ十八番を旗揚げし、作・演出を務める。そのほか、柿喰う客『恋人としては無理』、北京蝶々『オーシャンズ・カジノ』、空想組曲『変則短篇集 組曲「空想」』、木ノ下歌舞伎『三人吉三』、浪漫活劇譚『艶漢』など幅広く出演。

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どうなるかはわからないけど、常に挑戦したい。

――― 次作『ダズリング=デビュタント』は西洋画版と日本画版の2バージョンで上演されるということですが、どのような経緯でそうなったのでしょうか?

「うちは“擬古典”といって和ものの作品が多いんです。でも、次はちょっと違うことがやりたいなという気持ちから西洋のお話にしようと思ったのですが、普段やってない分、得手ではない部分が出てくる。なのでバージョン違いとして和もやってみようかと思ったんです」

――― お話は同じだけれども表現が違う、ということでしょうか。

「基本的には台詞は同じにしようと思っています。では何をもって『和』とし、何をもって『洋』とするかというと、視覚的なものが一番大きいと思うんです。特に衣裳ですね。同じ西洋っぽいお芝居でも、和服と洋服というだけで観る方の印象は違うと思うんです。だまし絵じゃないですけど、視覚的な表現が違うと見え方が全く変わりますっていうことをやってみたいなという目論見です」

――― 音楽も変わるんですよね。

「そうです。今まで、和であれば三味線、洋ならギターやアコーディオン、インドの芝居ではタブラを持ってきてみたりしてきたんですけど、それらを経て、より高尚な表現は“枷”だなと思ったんですよ。だから今回、使う楽器は同じにしました。同じ楽器で、音楽が入るタイミングも同じで、曲の長さも同じで、その中で和と洋を使い分けてくれないかというオーダーをしています。昔、音楽の授業で日本固有の音階があると習ったんですが、その音で曲を作れば和っぽくなりますし、逆に洋は西洋の音階で曲を作る、というようなことですね」

――― 同じストーリーで始まっても、今おっしゃったような和と洋の空気でやっていくと、展開の分かれ道ができてきそうですが。

「今回は『やってみよう』の回なんですよ。だから、印象が違うのではないか、という算段の上でやっていくんですけど、どうなるか見当もつかないです(笑)。でも常に実験はしていかないととは思っています」

――― ということは、どうなるかは稽古場で決まる?
「そうです。いろいろ言ってるんですけど、どうなるかはよくわからない(笑)」


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心に浮かんだ「一枚絵」から広がる物語。

――― ベースとなるストーリーはどのようなものになりますか?

「“教会”というあだ名の娼婦のお話です。以前、『伊勢系 薄化粧』(2015年)という作品をやったときに、建物としての“病院”と“人間”の恋愛を描いたんです。僕はそれがへんてこで面白いなと思いました。それで、建物と呼ばれる女の人を描くシリーズをちょっとやってみたかったんですね。“教会”と呼ばれる女性が、ダズリング=デビュタント公爵夫人の殺人事件にまつわる重大な証言をダズリング公爵から聞いていた。そのことで、『お前はなぜそれを誰にも言わなかったんだ?』と憲兵に問い詰められる、というのが基本的なストーリーです。“教会”は懺悔室のイメージなんです。すべての罪をこの娼婦の前では吐露してしまう、というような」

――― 以前、ストーリーはご自身の体験をもとに書かれているとおっしゃっていましたが、このお話もそうなのですか?

「それが、このところそういうことがなくなりまして。昔は人から聞いた面白いお話を集めて、それをいじくってストーリーにしていくような作り方をしていたんです。でも去年、一昨年あたりから『一枚絵』が浮かんでくるようになったんですね。それでその一枚絵に沿うストーリーをつくるようなやり方になりました。今作の一枚絵は『“教会”と呼ばれている娼婦が憲兵に尋問されているシーン』なんです」

――― その「一枚絵」というのは“一番きれいな瞬間”になるのでしょうか?

「それが、そんなこともなくて。なんでもないシーンだったりするので、それを取り入れなきゃいけないというのが意外と難しい(笑)。そのシーンにするために前後をどうするか考えるんです」

――― そういう発想の源はどこにあるのでしょうか?

「僕は不勉強で、お芝居を観たりもしないんです。テレビも観ない、映画も観ない、本も読まない。漫画とかゲームとかはやるんですけど。うーん……空想癖っていうのが一番じゃないですかね(笑)。劇作家って基本的に空想癖があると思ってますので。この間は漫画の一コマを見て『これを切り取ってお芝居にしたら面白かろうな』と考えましたね」

――― 「絵」がポイントなんですね。演出はどうやってつけられるんですか?

「演出に関しては割とカチカチっとしていくタイプです。理論的にやっていきたいのでクリアなんですよ、視界が(笑)」

――― それは既に頭の中にある「絵」をつくるからなのでしょうか。

「そうなんです。ただそうしていると(完成してない)脚本に演出が追いついちゃうんです。そこが困りますね(笑)」


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毎回、最高傑作にせざるを得ない。

――― 今年発表された佐藤佐吉賞(最優秀作品賞など全5部門)、サンモールスタジオ選定賞、2014年・2015年のクォータースターコンテストなど、賞をたくさん取られていますよね。なにか先を見据えての挑戦という側面もあるのでしょうか?

「うちは団体として『商人はこの小劇場界の海をどれだけ泳いでいけるのか』っていうテーマでやっているんですよ。うちの実家がお団子屋さんなんですけど、売り物を“どういう風に”売るかはとても重要なことだと思っていて。作品が面白いことは大前提ですが、そのうえでお菓子の箱に“○○賞金賞”とつけることで流通しやすくなる、というような算段もあって。だから賞はずっと『ほしいね』と言っていました。ただ、この成果は想像だにしない……なにか一ついただけたらありがたいなということだったんですけども。本当に嬉しかったし、欲しかったものですからね、すごくよかったです」

――― 今作での西洋への挑戦や去年のミュージカル初挑戦なども、その「商人」という観点からくるものでしょうか?

「そうですね。売るものはお芝居で変わらないんですけど、形態くらいは色とりどりあった方がよかろう、ということなんです。だから敢えてノンジャンルで、初挑戦のものをやってみています」

――― そもそも「十八番(おはこ)演目を十八本作る」という目標を掲げられていますよね。

「短編も随分作ったのでそのくらいにはなりました。ただもう少し欲をかいてきたところもありまして、団体としてもう少し大きくなりたいと今は思っています。その先に何があるかはわからないんですけど、それはそのときに考えて、今はとにかくたくさんのお客さんに観てもらいましょうよっていう感じですね」

――― 例えば「これまでとは違う客層も楽しめるように」と作品をつくるようなことはしますか?

「あやめ十八番はノンジャンルでやっているので“大体こんな感じ”というのがないんですよ。なので、初めてご覧いただく方のことを常に意識しています。一本観て面白くなかった方はもう観に来ないと思うんですけど、ノンジャンルでやると、面白いと思って次の作品を観に来てくれても、その作品はテイストが合わないかもしれないというリスクもあるんですね。そういうこともあって『一回一回が勝負』という感情は強くあります」

――― では次の『ダズリング=デビュタント』は…
「これが最高傑作になると僕は思っています。それはまあ、毎回そうせざるを得ないんですけど。今が一番自信持って言えますよ。なぜならまだ(脚本を)書いてないから(笑)」


(取材・文&撮影:中川實穗)

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