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トローチ

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第46回岸田戯曲賞にノミネートを果たした中島淳彦の代表作が再び。

きっと人が好きになる。1970年の宮崎を舞台にした、人情と郷愁の傑作喜劇。

演劇を観たことがない人も安心して楽しめる舞台をお届けしたい。そんな想いのもと、のど飴のようにほんのり優しい味わいの広がる作品を発表し続けている劇団がある。それが、トローチだ。 メンバーは、東地宏樹、小林さやか、桐本拓哉、辻親八の4人。俳優のみならず、声優としても確固たる地位を築く平均年齢40歳超の実力者たちが、毎回、様々な劇作家・演出家・俳優を招き、質の高い娯楽作を提供している。
第3回公演は、演出に劇団道学先生の青山勝を迎え、同劇団の代表作であり、劇作家・中島淳彦の傑作『エキスポ』を上演する。第46回岸田戯曲賞の候補作品にノミネートされ、加藤健一事務所をはじめ他団体でもこぞって上演されるホームドラマの名作に、トローチはどんな味つけを加えるのだろうか。

PROFILE

東地宏樹(とうち・ひろき)のプロフィール画像

● 東地宏樹(とうち・ひろき)
1966年5月26日生まれ。東京都出身。映画『アンナ・マデリーナ』の金城武の吹き替えをきっかけに、ウィル・スミス、ウェントワース・ミラーなど数々の外国映画の吹き替えを担当。また、『アンチャーテッド』シリーズの主人公のネイサン・ドレイク役や『バイオハザード』シリーズのクリス・レッドフィールド役などゲーム作品にも数多く吹き替えとして出演し、人気を博す。

小林さやか(こばやし・さやか)のプロフィール画像

● 小林さやか(こばやし・さやか)
1970年10月12日生まれ。北海道出身。劇団青年座に所属し、劇団本公演に数多く出演する他、声優としても活躍。特にアニメ『サザエさん』の4代目タイ子役・2代目堀川役としてその声は広くお茶の間に知られている。現在は『伝説の魔女〜愛を届けるベーカリー〜』にてハン・ジヘ役の吹き替えを担当している。

桐本拓哉(きりもと・たくや)のプロフィール画像

● 桐本拓哉(きりもと・たくや)
1967年7月27日生まれ。岐阜県出身。『オーシャンズ11・12・13』のライナス役をはじめ、数多くの外国映画や海外ドラマの吹き替えを担当する他、『NARUTOーナルトー疾風伝』のサダイ役や『サマーウォーズ』の陣内理一役、『アイシールド21』の金剛阿含役などヒットアニメにも声優として多数出演。

辻 親八(つじ・しんぱち)のプロフィール画像

● 辻 親八(つじ・しんぱち)
1954年10月20日生まれ。千葉県出身。文学座研究所を経て、賢プロダクション、オフィス・ワット、リベルタ、ALBAなどに所属。また、劇団「親八会」を主宰し、朗読劇を中心に公演を行っている。ゲイリー・オールドマンをはじめ数多くの吹き替えを担当する他、『宇宙兄弟』のイヴァン・トルストイ役、『宇宙戦艦ヤマト2199』のヴェム・ハイデルン役などヒットアニメでも活躍。

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これぞ決定版と言えるものをつくりたい。


――― 過去2回に渡って新作を発表してきたトローチにとって、この『エキスポ』は初の既存作品。15年前の戯曲を今、現代に掘り起こしてきたのは、62歳のベテラン・辻親八だった。

辻「道学先生で過去2回上演しているんですけど、その両方に僕も出ていて。初演は2001年。ホンが書き上がるのが遅くて随分ヤキモキしたんですけど(笑)、その頃から“これは傑作だ”っていう確信がありましたね」

桐本「僕、再演の方を観ているんですよ。すごくいい舞台だったって、今でも強烈に印象に残っています。再演が04年ですから、12年経っていまだに心に残っているっていうのは、それだけ力のある作品だってことですよね」

辻「こんなこと言うと中島さんに叱られちゃうかもしれないけど、中島さんの最高傑作ですよ。その後、いろんな団体が上演しているのも観ましたが、できれば自分たちで決定版をつくりたいねっていう話をしていて。それで今回は初演・再演の両方に出ていた青ちゃん(青山勝)に演出をお願いして、トローチで『エキスポ』の決定版をやろうと思ったんです」

小林「一読してすぐ絶対やりたいって思いました。読んでいるそばから笑えるんですよね。しかも泣かせようとしていないのに泣けてくるし。私も中島さんの作品の中で、この『エキスポ』がいちばん好き。出てくる人全員がしっかり描かれているから、出番が少なくてもちゃんと印象に残るんです」

東地「登場人物がみんな可愛く見えるのが、『エキスポ』のすごいところ。僕が好きな芝居のひとつに“出てくる役者を好きになる”っていうのがあるんだけど、この『エキスポ』はまさにそれ。それだけの傑作にふさわしいキャストが今回集まってくれたと思います」


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懐かしくて温かい1970年の空気が劇場に甦る。


――― この『エキスポ』の時代背景は1970年。タイトル通り大阪万博が開催された年のことだ。人類の進歩と調和をテーマにした夢のようなお祭り騒ぎに日本中が沸き立つ中、九州・宮崎の片田舎ではひっそりと通夜が営まれていた。亡くなったのは、一家の母。最後に遺した言葉は「父ちゃん、人類の進歩と調和げな…」。母の秘密を軸に、通夜に訪れた様々な人物がおかしくも温かい人間模様を広げていく。

辻「当時、自分は高校生。その前の年の年末にね、年賀状によくEXPO70ってこましゃくれて書いてた記憶があるんですよね。1970年は、よど号ハイジャック事件とか三島事件とか、いろんなことがあった激動の1年。今、昭和っていうのがブームになってるじゃないですか。この作品にふれると、改めて昭和って何だったんだろうなって考えますね」

桐本「僕は当時3歳でした。ほとんど記憶はないんですけど、世の中がわあわあと浮かれている雰囲気だけは何となく覚えています。それくらい万博っていうのは、社会にインパクトを与えた一大事だったんですよね」

小林「私はちょうど1970年に生まれたんですよ。今、太陽の塔の中が入れるようになったおかげで、いろんな人が写真に撮ってSNSにアップしている。注目を浴びている今こそ、この『エキスポ』を上演するには絶好のタイミングだと思います」

東地「『エキスポ』に描かれているのは、人と人との人情。もう今では人情なんて言葉、滅多に使われなくなっている。この人情話を今の若い人たちが観たらどう思ってくれるのかってことに興味がありますね」

辻「きっと面白がってくれると思いますよ。葬式の話なんですけどね、世代の断層とか、同じ宮崎県内でも県庁のある都市部と田舎での風習の違いとか、本当にこまやかに描かれていて。若い人でも何か懐かしいものを感じてもらえるんじゃないかな」


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偉大な先輩たちの当たり役に、今の自分たちで挑戦する。

――― 演じる役どころも、親しみを持てるキャラクターばかりだ。

東地「僕は過去2回の道学先生の上演で、青山さんがやった役を演じます。演出席にいる本人を前に同じ役を演じるっていうのは緊張ですよ。何とか青山さん越えを青山さんの力をいただいて達成したいです(笑)。あと、ハードルなのが宮崎弁。今まで方言で芝居をしたことがないので、まず方言をマスターするっていうことで頭がいっぱいになりそうです。観ている人が宮崎の油津という町を想像できるように、しっかり宮崎弁を自分のものにできれば」

小林「私が演じるのは、同じ宮崎の人間なんだけど、県庁所在地に住んでいるゆえの都会意識を持った女性。これは以前、大西多摩恵さんが演じていた役です。大西さんは直接お話しするのも緊張するくらい憧れの大先輩。だから、最初は絶対にこの役はできないと思いました。でも先輩を超えてこそ、自分の成長になる。大西さんに良かったよと言ってもらえるような演技を目指したいです」

桐本「僕は音楽の夢を胸に上京したものの、ちっとも上手くいかずに帰ってくる男の役。僕も田舎から東京にやってきた人間なので、リンクするところはいっぱいありますね。若い頃って、田舎ののんびりした空気に、安心するけど逆に不安になるってところがあるじゃないですか。中島さんもたぶん同じ不安を抱えていたんだと思います。若いときの自分とオーバーラップするようなリアルな台詞がいっぱいあって。きっと地方からやってきたお客様にも共感していただけるんじゃないかと思います」

辻「僕は初演・再演と同じ役を演じます。今回で3回目ではありますけど、一緒にやるメンバーも違いますし、どんなふうになるか楽しみですね。この台本って、中島さんが道学先生のメンバーに宛て書きしたそうで。道学先生の人たちって、いい意味ですごく素朴。あの田舎っぽい空気が、中島ワールドによく合っていたんだと思う。今回は手練れの役者が揃ったけど、これは器用じゃない人間のグズグズした話ですからね、その空気感をどう表現するかっていうのは大きな課題だと思います」


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演劇になじみのない人にも楽しい時間を過ごしてほしい。


――― 近年は声優としての活躍が目立つが、生の舞台への情熱は尽きない。そんな4人が、自分たちがやりたいと思う作品を全身全霊をこめてつくることができるのが、このトローチという場だ。

小林「トローチのお客様って、いつも芝居を観ている人たちばかりではなく、アニメや海外ドラマを通じて私たちに興味を持ってくださった方たちも多いんです。特に若い方が多い。だから、演劇に馴染みがない人が観ても楽しかったって言ってもらえる作品をお届けしたいという気持ちはあります」

東地「そういう意味でも、この『エキスポ』という作品はうってつけ。ダメな人たちのダメなところがいっぱいつまったコメディなんですけど、最後は優しい気持ちになれる。こういう慌ただしい時代にこそ、観る価値のある作品だと思います」

小林「そう思います。きっと観終わった後は自然と家族や故郷のことを思い出すんじゃないかな。観ると人が好きになる。そういう愛おしさのいっぱいつまった作品です」


(取材・文&撮影:横川良明)


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