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松居大悟・目次立樹

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1年2ヶ月ぶりの本公演。ゴジゲン、待望の再始動!

どうしようもない男6人による、“永遠に続く放課後”という青春。

映画『私たちのハァハァ』『ワンダフルワールドエンド』などを手がけ、第7回TAMA映画賞で最優秀新進監督賞を受賞するなど、気鋭の若手映画監督として熱い注目を集める松居大悟。近年は映像での活躍が目立つが、彼のベースキャンプと言えるのが、このゴジゲンだ。3年間の活動休止を破り、復活公演となった『ごきげんさマイポレンド(以下、ポレンド)』から1年余、ついにゴジゲンが再始動を果たす。待望の最新作は『劇をしている』。これ以上にないシンプルなタイトルにこめられた松居大悟、そして目次立樹の現在地を探った。

PROFILE

松居 大悟(まつい・だいご)のプロフィール画像

● 松居 大悟(まつい・だいご)
1985年11月2日生まれ。福岡県出身。慶應義塾大学入学とともに創像工房 in front of.に入団。06年にゴジゲンを結成。12年、『アフロ田中』で映画監督デビュー。15年、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品。ミュージシャンのPVも手がける。16年、『アズミ・ハルコは行方不明』が公開予定。

目次 立樹(めつぎ・りっき)のプロフィール画像

● 目次 立樹(めつぎ・りっき)
1985年10月29日生まれ。島根県出身。慶應義塾大学入学とともに創像工房 in front of.に入団。松居と共にゴジゲンを旗揚げする。ゴジゲンの全作品に出演している唯一の人物。栃木での農業修行を経て、現在は地元山陰で俳優、農家、ワークショップデザイナー、児童クラブの先生として活動の場を広げている。

● ゴジゲン
2006年結成。08年に正式に独立。主宰の松居大悟がすべての作・演出を手がける。07年に参加したシアターグリーン学生芸術祭では関東代表に選ばれ、08年春に大阪公演を敢行。11年『極めてやわらかい道』では2000人以上を動員。その後、3年の活動休止を経て、14年『ごきげんさマイポレンド』より活動を再開した。

インタビュー写真

大人になるにつれて無意識的に劇をしている。

――― 06年の結成以来、順調に人気劇団のステップを踏んでいたはずのゴジゲンが活動休止を発表したのは、11年、『極めてやわらかい道』を終えた年の瀬のこと。理由は、目次の退団だった。多くのファンが失意と落胆の声をあげる中、松居は映像へと活躍の場を広げ、目次は栃木で農業に勤しんだ。一度は離れた2本の線が再び交わったのは、それから3年後。14年11月、歓喜の中で迎えられた『ポレンド』を経て、ゴジゲンは活動再開を決意したのだ。あれから1年2ヶ月、ようやく新作『劇をしている』を発表する。“芝居”でも“舞台”でもなく、“劇”。どこか子どもっぽささえ感じさせる言葉選びに、松居らしさがにじみ出ている。

松居「劇ってワードが好きなんですよね。大学の演劇サークルに入ってた頃は、“演劇”っていうのが恥ずかしくて芝居とか言ってたんですけど、一周回って結局劇だなって。あと、ヨーロッパ企画の方が“劇”って言うんですよ。それがカッコいいなって」

目次「それでパクって」

松居「パクってパクッて、ってバカやろう(笑)」

――― 活動休止からの3年間をドキュメンタリーの手法で描いた『ポレンド』から一転、今度は物語を志向する。

松居「ちっちゃい頃はおままごとをやったり学芸会をやったり、意識的に劇をする傍ら、無意識で生きているみたいな感じだった。それが大人になるにつれてだんだんと逆転していって無意識に劇をするようになる。本当は仲が悪いのに、お茶の間では仲のいいふりをしたりして。それが不思議だなって。だから、“劇をする”ってことをテーマに、稽古場でいろいろ試してどういうものができるか実験をしようと思ってます」

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――― 職場で、家庭で、場面に応じた仮面を装着し演技をしている感覚は、確かに誰しもに共感し得るところかもしれない。では、なぜ松居はそのことに目を向けたのか。

松居「なんで劇やってるんだろうって考えたから。『ポレンド』の前までは自分のコンプレックスを笑い飛ばす劇をつくるとか、ある種決まった方法論があったんですよ。でも、自分の中のイメージを具現化して稽古場でみんなにやってもらうのって結構大変なのにあまり豊かではない。だから『ポレンド』では楽しくやろうって。今だから言えるんですけど、面白いかどうかわからないけど、3年ぶりに会いたいんだから会うんだよみたいな気持ちでつくったんです。でもこれは1回しか使えない切り札的なつくり方なんで。それをやった後、どうすんのってなって。そもそもなんで演劇をやるのか考えたくて、劇と向き合おうと思ったんですよね。『ポレンド』的な方法論を用いて物語にすることができたら、きっと新しい演劇の感じができるような気がして」

――― 目次もまた『ポレンド』から1年余りを経て、再び劇場に帰ってくることとなる。

目次「『ポレンド』をやるって決まったときから、そこに照準合わせた生活をしてきたんで、終わった途端にその反動がガツンと来て。もう何をやってもやる気が起きない。『ポレンド』が終わってからの今年1年は本当に生ぬるい地獄でした。天国ではまずなくて。でも地獄かっていうと、死にたいとかそういうところでもない。じんわりとした不安とか恐怖みたいなものが続いているような1年間。それを振り切るためにも、この『劇をしている』はどんな実験的作品であろうと全力を尽くしたいなと思っています」

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今、逆行したいなと思っているんですよ。

――― 活動休止中に映画監督として目覚ましい活躍を見せ、評価を確立した松居。今、彼がゴジゲンをするということは、どんな意味を持っているんだろうか。

松居「やんない方が楽なんですよね。これでめっちゃお金稼げるわけじゃないし。わからないんですよね、何でやるのか。やりたいっていうよりも、ちょっとゲイっぽくなるけど、会いたいからかも。アイツらに会いたいから(笑)」

――― アイツらに会いたいから。この一言に、ゴジゲンの空気感の秘密が集約されている。

松居「前にお客さんが“ゴジゲンは青春だね”って言ってくれたのが残ってて。僕がゴジゲンをやりたいと思うのも、もしかしたらそれがあるかもしれない。楽しい気持ちになりたいとか、悲しい気持ちになりたいとか、そういう一個の感情じゃないなって。青春って感情を言語化できないような、付き合いたいけど告白できないから付き合えないとか、ゴチャゴチャしている感じがいい。でも大人になると、これは楽しいとか、これは悲しいとか、感情に名前をつけて安心したくなる。名前をつけないものが青春だとしたら、ゴジゲンはそれだなって」

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――― “青春”という言葉には、どこか学園祭のようなキラキラとした眩しさがある。でも、彼の話す“青春”はそうじゃない。たとえるなら、くだらない話をとりとめもなくダラダラと語り続ける“永遠に続く放課後”のようなものだ。

松居「ほっといたらね、仕事がどんどん続いて、効率化とか考えるようになって。キャリアを重ねたら気を遣われて、物を言われなくなったりしていくような気がして、それがすごく怖いんです。だからこそゴジゲンをやることに意味がある。というか、どんどん意味が出てきているのかもしれない。逆行したいなと思っているんですよ」

目次「“永遠に続く放課後”というのは、しっくりくるなというのはありますね」

松居「目次なんて一回荷物取りに帰って戻ってきた感じだよね。そしたら俺らがまだいたから、“まだいたんだ”みたいな(笑)」

目次「そんな感じしますね。キラキラした青春じゃないですけど、いい年してても、そういう部分は残ってて、やっぱ楽しいんすよね、何か」

松居「これ、敵がどんどん減っていくような気がしていて。放課後にずっと残っている30歳って少ない。20代の頃はみんな青春だ青春だって教室にいたけど、エリートになりたいし褒められたいから、どんどん帰っちゃうじゃない? だから、年を重ねれば重ねるほど敵がいなくなる(笑)」

――― 演劇は、その人が置かれている状況や環境によって、同じ作品でも受け取り方が様変わりする。教室にとどまり続ける彼らの言葉は、今どんな境遇にいる人の胸にもっとも届くのだろうか。

松居「一個でも悩みがあったら絶対共感してもらえると思うんですよね。きっと誰しも何かしら悩んでいる。教室を出ていった人たちも、ただ悩みに蓋をしただけ。だから僕らを見て教室に戻ろうかなと思っても、やっぱり塾行かなきゃと思ってもらってもいいかなって思ってます」

目次「『ポレンド』のとき、あるお客様が終演後まで待ってて、飲み行きませんかって言われたことがあって。全然そんなことする感じの人じゃないんですけど、自分も混ざりたいなって気持ちになったみたいで。教室を出ちゃった人から見たら、僕らの放課後も羨ましいなって思うところがあるのかもしれませんね」

――― ゴジゲンを観ると、ただ彼らがそこで演劇をしてくれていることが嬉しくて、愛おしくて、たまらない気持ちになる。その理由は、彼らのこんなスタンスにあるのかもしれない。


(取材・文&撮影:横川良明)

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