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末原拓馬・阿澄佳奈

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絶望、恐怖、孤独。さまざまな傷を抱えた魂が、交錯し、明日へと歩き出す。

3つの糸が紡ぐのは、命と愛の物語。その頁を、今、あなたが開く。

キムラ真率いるナイスコンプレックスの次回作『キミが読む物語』は、冴えないフリーライター・秀雄を軸に、末期癌で余命わずかの妊婦・幸子、そして傷を抱えた女子高生・水葉という3人の登場人物が、一本の糸にたぐり寄せられるように交差し合い、ひとつの物語を紡いでいく。2012年に初演され、客席のあちこちからすすり泣く声があがったという感動作に新たな命を吹き込むのは、おぼんろ主宰の末原拓馬、そして人気声優の阿澄佳奈だ。キムラとも縁深いふたりが語るナイスコンプレックスの魅力とは? 本作に寄せる想いを聞いた。

PROFILE

末原拓馬(すえはら・たくま)のプロフィール画像

● 末原拓馬(すえはら・たくま)
1985年7月8日生まれ。東京都出身。俳優、脚本家、演出家。モデル、詩人。劇団おぼんろ主宰。早稲田大学入学と同時に演劇研究会に入会。06年、おぼんろ旗揚げ。路上での独り芝居を繰り返したことが評判を呼び、現在、動員4000人に及ぶ人気劇団へと成長している。近年では脚本の外部提供も増え、岡山県ルネスホールのコンクールで最優秀作品に選ばれた『月の鏡にうつる聲』は2014年、数回に渡る再演の末、岡山市と台湾新竹市の友好交流協定締結10周年の記念式典にて海を越え上演されるに至った。 俳優としてはドラマ『残念な夫』にレギュラー出演する他、『ドラマ・ドクター』『値千金のキャバレー』などに出演。

阿澄佳奈(あすみ・かな)のプロフィール画像

● 阿澄佳奈(あすみ・かな)
1983年8月12日生まれ。福岡県出身。声優。07年、テレビアニメ『ひだまりスケッチ』でアニメ初の主役およびレギュラー出演を果たし、脚光を浴びる。09年、第3回声優アワードにて新人女優賞を受賞。13年、第7回声優アワードにて主演女優賞を受賞。『這いよれ! ニャル子さん』『WORKING!!』『のんのんびより』『神のみぞ知るセカイ』など人気アニメに多数出演し、声優として不動の地位を確立する一方で、14年より舞台『PERSONA3』シリーズに主演。すでに第3弾まで制作された人気舞台として高い評価を上げている。

● ナイスコンプレックス
主宰キムラ真が、2007年に旗揚げ。作・演出をキムラ真が担当し、ある特定の状況に置かれた人間の心の葛藤をそのまま展示するように描く「行動展示演劇」を展開。社会テーマ・実際にあった事件をモチーフにし、「考えてもらう」ではなく「知ってもらう」をコンセプトとする。劇場のみで完結するのではなく、観客の脳髄に作品の一瞬を焼き付け残し、フラッシュバックさせる作品創りをしている。

インタビュー写真

自分にしかできない、“魂の溶けだす部分”を出せたら。

――― 15年、『鬼のぬけがら』で初めてナイスコンプレックス作品に出演した末原。自身が描く幻想的な世界とは正反対の、ドロドロとした人間の汚い部分も容赦なく切り取るキムラの脚本に驚きを感じながらも、同じつくり手として熱いシンパシーを感じたそうだ。

末原「マコちゃん(キムラ)とは、来てくれた人にどんな気持ちになってほしいかっていう部分がものすごく一致してて。よくマコちゃんが“ディズニーに勝ちたい”って言うんだけど、俺もそう。マコちゃんとは、“物語の力で何ができるかを、あの手この手でやろうぜ”って協定でつながっているの。ディズニーとかアンデルセンとかグリムとかあるけど、そういう新しい文化が21世紀から出ちゃいけない理由はないじゃない? そういうコアのコアのところを共有し合える相手なんだよね、マコちゃんは」

――― そんな末原に対し、キムラは「拓馬自身より拓馬のことを美味しくできる」と自負する。

末原「マコちゃんは活かそうとしてくれるのがいいよね。俺はわりと窮屈だと頑張れないところがあるから(笑)。マコちゃんは“これをやれ”って押しつけるんじゃなくて、“こっちの飛び方もあるよ”って教えてくれる。それで、俺も“ここにも羽根生えてるんだ”ってわかってくるのが面白い。
 あとはね、面倒見のいい人なんだよね。しょっちゅう料理とか作るし、ごはん食べに行っても、“これとこれが美味しいから食べな”って選んでくれるの。だから俺は何もせんでいい(笑)」

――― 天衣無縫な末原にとって、まさにこれ以上ないパートナー。自らのイメージと異なる秀雄という役柄に、魂を削る覚悟でぶつかっていくつもりだ。

末原「マコちゃんが俺にしかできないものを求めてくれているのもよくわかる。役者って情報量が多くて、おはようございますの言い方だけでも無限の選択肢があるでしょ。上手な役者さんはいっぱいいるし、読み方もいっぱいあるけど、いい悪いじゃなくて、俺じゃなきゃこうならないよねっていう、自分の“魂が溶けだす部分”を出せたら」

インタビュー写真

全員が人生を抱えているところがいいなと思った。

――― また、阿澄にとってキムラは初舞台である『PERSONA3』シリーズの演出家。つまり自らの舞台デビューを支えた師のような存在だ。

阿澄「私自身、右も左もわからなくて、キムラさんには舞台の上の立ち方から教えてもらいました。大変でしたけど、すごく楽しく終われたから、次もまたやりたいって思えた。しかも今回は初めてのストレートのお芝居。ご一緒できるのがとっても嬉しかったですし、すごくありがたい機会だなと思いました」

――― 今回、キムラは「声優とは違う、等身大の阿澄を見たい」とキャスティングした。台本を一読した阿澄もきめ細やかな人間描写と、自らが演じる幸子という役柄に胸を打たれたようだ。

阿澄「登場人物たち全員が人生を抱えているのがいいなと思って。脇役がいないというか、一人ひとりが生きている感じがしたんです。私が演じる幸子はもうすぐ母親になろうとしている役。母の気持ちというのは私はまだ体験したことはないですが、きっと特別なものだと思うんですね。声優業でも今までそういう役どころは少なかったので、まずはその気持ちをありったけ想像したいと思います。
 しかも、幸子は病気とも立ち向かおうとしている。それだけでもすさまじい出来事なのに、その中で子どもがお腹の中にいるっていうのは想像を絶すること。幸子は、私だったらここまで強くいられるのかなと考えるくらい、前向きに立ち向かおうとしていて。そんな彼女の強さと弱さとしっかり向き合っていかないとなって思っています」

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――― 普段の声優業と舞台での演技に違いを感じることはある。けれど、一方でその違いゆえの面白さも少しずつ見えはじめている。

阿澄「声優のお仕事は、絵があって、そこに歯車の一部として私が重なっていく。だから、基本的にみんなでひとつのキャラクターを作り上げる感覚があるんです。舞台は私ひとりが負うものが多い。でも声だけでなく、全身で演じるからこそ出る言葉の感じがすごく新鮮で、『PERSONA3』のときもこんなふうに台詞が出てくるんだと勉強になりました。だから、次もどんな私の知らない面を見ることができるか、すごく楽しみです」


生きている人間は、とにかく前に進めばいい。

――― 同じ演出家として、キムラの独創的な演出法にも末原は目を向ける。

末原「実はものすごく演劇の力を信じているんだよね。話はすげえリアルなんだけど、サーカスみたいなことをやりながら、それを続けるから、観客は謎の空間にいるみたいな気持ちになる。だから、ある意味スッと入れちゃうというか、ハイになって観られるところがあるんじゃないかな。
 マコちゃんは人間が出す熱量を集めるのが好きなの。スクラムを組んでやることの強さを知っている人。マコちゃんが“このシーンで全員でワーッてやるよ”って言うとするじゃない? で、“本当に?”ってみんなで言いながらやってみるんだけど、そしたら“あ、こういう話なのね”“ここで全部昇華されるんだ”ってのがわかるの。戯曲と全然違うストーリーを乗っけてくるんだな。変態です(笑)」

阿澄「だから初めて舞台を観る人にも興味を持って足を運んでもらいたいです。きっと観たらビックリするんじゃないかな」

インタビュー写真

――― 本作が書かれたのは震災のすぐ後のこと。東北出身のキムラは、「死んだ人はいなくなったのではなく、その場で立ち止まってずっと見守ってくれている。だから生きている人は亡くなったことを悔やむのではなく、前に進めばいい」という願いをこめて書き下ろした。

末原「マコちゃんの作品は、死について残酷でリアリストなんだけど、死んだ人の想いとか言葉が世界に浮遊し続けているというか、眼差しみたいなものがすごくあるんだよね。人って死に対して、そこにとどまっていたい気持ちってあるけど、進まないと何も起きない。だから、正解は生きることしかなくて。何か勇気を与えるっていうほど直球で渡したいわけじゃないけど、“なくなったものもちゃんと残っているんだよ”ってことを信じて想像すると、とてもハッピーになるの。1個怖いものが溶けるというか。そういう意味で、いい贈り物を観る人に渡せたらと思っています」

阿澄「重い話だけど、観る人に“重い話だったね”って感想にはなってほしくないんです。いろいろあるけど、生きていくことは別に悪いことじゃないし、いいこともたくさんあって。そういう人生を登場人物一人ひとりが背負っているし、観に来てくださるお客様にももちろん人生がある。そういう何かをみんなで共有できるような舞台になればと思います」


(取材・文&撮影:横川良明)

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公演情報

ナイスコンプレックス N24
キミが読む物語


2016年2月24日(水)〜29日(月)
あうるすぽっと
HP:公演ホームページ
16名限定!S席5,500円 → 4,500円さらに300Pゲット!