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柴田智子・上原理生

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ニューヨークに住むある女性の悲恋・喪失・再生を全編英語の歌唱で描く

極上の歌曲と有名ミュージカルナンバーをオフブロードウェイ形式で披露する12月の夜

『グランドホテル』『ナイン』などのブロードウェイミュージカルで知られる作曲家、モーリー・イーストンの歌曲集『December Songs』をオフブロードウェイ形式で披露する舞台が12月に行われる。ソプラノ歌手の柴田智子が自らプロデュースも手がけ、歌のパートナーに迎えるのはテノール歌手/ミュージカル俳優の上原理生。冬の夜、極上の響きが心を温めてくれるに違いない。

PROFILE

柴田智子(しばた・ともこ)のプロフィール画像

● 柴田智子(しばた・ともこ)
クラシックというジャンルを超え「今を生きる喜び」を世界に発信する。NYとミラノで学び、カーネギーホールやリンカーンセンターなどの公演でニューヨーク タイムズからも高い評価を受ける。国内外でのオペラ、ミュージカル、オーケストラと活躍しながら、バーンスタインをはじめとするアメリカ音楽を紹介し続けている。日本で唯一、IPA(国際音声記号)を使って歌手の発音矯正ができる歌い手でもある。クロノス・カルテットとの凱旋も話題となったほか、日本の著名オーケストラをはじめ、SMAP、浅倉大介、ラッセル・ワトソン等とも共演。若手の発掘やコンサートシリーズのプロデュース、テレビ/ラジオへの出演も数多い。
主なCD作品は、アメリカのミュージカルの名曲を集めた『マンハッタン・ドリーム』や、ビートルズのカバーアルバム『レット イット ビー』(以上EMIミュージック・ジャパン)、セルフプロデュースによるクラシックアルバム『マイ・アメリカン・ドリーム』など。東京二期会会員、東京室内歌劇場会員、自由が丘オペラハウス代表。植物学フィトセラピストの資格を所持し活躍の場を広げている。

上原理生(うえはら・りお)のプロフィール画像

● 上原理生(うえはら・りお)
1986年10月29日生まれ、埼玉県出身。東京藝術大学声楽科卒業。『レ・ミゼラブル』アンジョルラス役、『ロミオ&ジュリエット』ティボルト役、『ミス・サイゴン』ジョン役など、ミュージカルのメジャー作品での大役を数多く務める一方で、クラシックでのコンサートを毎年開催するなどフィールドを越え精力的に活動を行っている。ミュージカル、クラシック、オリジナル曲を収めたファーストアルバム『Die Welt-ディ・ヴェルト-』が好評発売中。

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2部構成で大きなストーリーを伝える
――― 今回のステージは、クラシックからミュージカル、ポップスまで幅広いジャンルで活躍する柴田が「今までやってきたことを、ちゃんと1つの形にしていきたい」という発想で立ち上げた、アメリカの作曲家にスポットを当てる“AMERICAN THEATER SERIES”の第1弾。『December Songs』は、モーリー・イーストンがシューベルトの『冬の旅』にインスパイアされて書いた歌曲集で、今回はその全10曲をすべて披露する。

柴田「1つの作品を通してやることの説得力というか、聴衆を感動させるものってあると思うんです。『December Songs』は10曲で1つの物語になっていて、ニューヨークに住む女性の失恋のストーリーを描いています。私はニューヨークで長く暮らしてきたので、歌詞に出てくる情景はすごく理解できるんですよ。これはあの本屋がある界隈だなとか、この女性はハドソン河の近くに住んでるんだろうなとか。だから、この作品を紹介するんだったら私かな、と。その女性の恋の相手が上原さんという設定で、『December Songs』の中から1曲歌っていただきます」

上原「失恋した女性が冬の雪の中で自分の思いを吐露し始めて、いろんなところを旅していろんなものに出会っていく姿が全10曲で描かれています。聴いてみてびっくりしたんですけど、『December Songs』の1曲目と、『冬の旅』の1曲目ってすごく似てるんですね。キーも同じだし、展開や転調の仕方もすごく似ていて、よほど大きなインスピレーションを受けたんだろうなって思いました。他の曲も、これは『冬の旅』のこの曲に該当するのかなとか、すごくオタク的な聴き方をして1人で楽しんだりして(笑)」

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――― その『December Songs』を披露するのがステージの後半(第2部)で、第1部は『オペラ座の怪人』『ゴヤ』『ウエストサイド物語』といったミュージカル作品から選曲。こちらだけでも1つのコンサートが成立しそうな、贅沢な内容だ。

柴田「ミュージカルの名曲の中にイーストンの良い曲も織り交ぜて……プラシド・ドミンゴが歌っていた「Till I Loved You(愛を知るまでは)」を上原さんに歌っていただけるのは、とても嬉しいですね」

上原「今回、初めて歌わせていただきます。『ウエストサイド物語』の「Somewhere」も初めてですね。バーンスタインの味がすごく出ている、いい曲だなと思います」

柴田「“どこかに(=somewhere)私たちの場所がある”っていう……本当はそんな場所なんてないのに、それを切に望みながら生きたいという思いが、バーンスタインの作品にはいろいろなところに散りばめられている。私はバーンスタインをずっとスペシャリストとしてやってきたので、血が騒ぎますね」

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英語で歌う響きの素晴らしさ
――― 今回は、英詞の曲がすべて原語で歌われるのも大きなポイント。第1部に並んだ名曲の数々も原語で聴けるのは貴重な機会と言えるだろう。

柴田「日本でミュージカルを上演する場合、海外の作品も日本語でやることが多いですよね。それはそれで素晴らしいのですが、ブロードウェイのヒット作を日本語で歌うのと、アメリカのキャストが歌うのでは、やはり響きが全然違います。日本語で立派にやられている方はたくさんいらっしゃるので、たとえ小さな規模でも英語でやり通すものをやってみたいと思ったんです。今回はスクリーンに字幕を出すという形でやらせていただきます」

上原「僕は自分でクラシックのコンサートもやっていて、そこでは英語やイタリア語で歌う機会もありますから、原語で歌うことの抵抗感は全然ありません。むしろ、原語と密接に結びついた音楽が醸し出す良さって、絶対にあるなと思っています。『オペラ座の怪人』の「Music of the Night」も大好きな曲で、日本語では歌ったことがありますが英語では初めて。演目自体、歌い手の実力が試されると思うので、原語で歌えるのはとても楽しみですね」

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――― そう語る上原について、柴田は「とても素敵な方で、見ているところが同じ」と話す。

柴田「もともと上原さんのことは存じ上げていましたし、私が教えているミュージカルの生徒にも上原さんのファンが多いんです。ファンクラブ向けのブログとかを拝見すると、出演する作品についてものすごく調べていらっしゃるのが伝わってきて……私もけっこうそうやって調べていくタイプなので、年齢に関係なくいろいろなものを共有していただけるかなと。ぜひ将来はブロードウェイに行っていただきたいと、心から思っています」

上原「光栄です。自分自身、ミュージカルの舞台に立たせていただく一方で、先ほど話したようにコンサートホールでピアノ1台をバックに、生の声でクラシックを歌う活動もずっと続けていましたので、今回はそれを活かせるすごく良い機会をいただいたと思っています。そこでまた新たな作品と出会えるのも、とても嬉しいです」

柴田「ピアノの内門卓也さんもクラシックの方ですけど、一緒にやってみたらすごく面白くて、ミュージカルのやり方とかもどんどんやってくださる柔軟な心を持っていらっしゃる。そういうチャレンジ精神って素晴らしいなと思います。そして今回は、ステージの後ろにプロジェクターで背景を映して、ニューヨークの雪のイメージとかも伝えようと思っています。大きな舞台セットがなくても、良い歌い手とピアノでこういうことができるようになればいいかなと思って」

――― ミュージカルのように物語を楽しみ、コンサートのように音楽を楽しむ。シアター形式ならではのエンターテイメント空間は、ぜひ生で体感したいところ。

上原「いい音楽を聴くと、心が豊かになると思うんです。ミュージカルで僕のことを知ってくださった方々に、こんな世界もあるんだよっていうのを見せたいです。終わった後に客席で放心状態になってもらえたら嬉しいですね(笑)」
柴田「音楽は、演劇やミュージカルと違って、音が素晴らしかったら2秒でも感動できるんですよね。今回は素敵な共演者お2人と一緒に、HAKUJU HALLの素晴らしい響きをお客様と共有できたら思いますので、ぜひ聴きにいらしてください」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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