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片山晃也・島田雅美

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念願の演目&劇場で2人の演劇人が立ち向かう新たな挑戦

いくつもの縁がつながって実現した2つの一人芝居には、役者の熱い心が染み込んでいる

俳優・加藤健一のそばで芝居を学んできた2人の演劇人が、それぞれ一人芝居で新たなスタートを切る。恩師である加藤氏の演出で、四国の山奥に実在したと伝えられる老人を描く片山晃也の『土佐乞食のいろざんげ』と、人生の虚しさ、悲しさを表現した島田雅美の『花いちもんめ』。まだ2人の名を知る人はほとんどいないと思うが、これらの作品が上演に至った背景には、芝居への熱意が次々に縁を呼び寄せていく長大な物語があった。

PROFILE

片山晃也(かたやま・てるや)のプロフィール画像

● 片山晃也(かたやま・てるや)
1968年生まれ、大阪府出身。関西登高会に所属し、北米最高峰のマッキンリーなど国内外の名峰に登頂。95年に加藤健一事務所俳優教室へ入所。同事務所の公演で舞台監督などを務める一方、役者として『ギャンブラー』(03年)、『コミック・ポテンシャル』(07年)などに出演。最近は目が不自由な人のための舞台説明会も行っている。

島田雅美(しまだ・まさみ)のプロフィール画像

● 島田雅美(しまだ・まさみ)
1986年生まれ、千葉県出身。高校演劇に熱中する学生時代を過ごした後、04年に加藤健一事務所俳優教室へ入所。その後、同事務所の舞台をサポートしながら、役者としてのキャリアを重ねる。13年には俳優教室出身の女性4人による『絢爛とか爛漫とか モダンガール版』(塚企画/上野・市田邸)に出演した。

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――― 加藤健一事務所の公演を裏方として支えながら、舞台に立つことを志してきた片山と島田。まず片山は、加藤氏のイメージを世界的登山家のラインホルト・メスナーに重ね、こう語り始めた。

片山「もともと私は冬山登山をやっていて、世界でも有数の高い山にいくつも登ってきました。でも、あるとき登山はちょっと休もうと思って、山で知り合ったTV番組のスタッフの方を通じてタレントスクールみたいなところに入ったのがきっかけで、演劇の世界につながりができたんです。
 そして、今からちょうど20年前に加藤健一事務所の俳優教室に入ったのですが、それは役者であると同時にプロデューサーでもある、加藤健一という人物を知ってみたかったから。自分が芝居をするために事務所を作り、作品選びからプロデュース、経営にまで力を注ぐ姿は、僕がずっと憧れてきたラインホルト・メスナーに近いと思ったんです。登山隊を組むための莫大な費用を、彼は自分で本を書いて出版したり、登山道具を開発したりして得た収入で賄っている。だから最初は演劇への興味というより、自分がやりたいことを自分の力で動かしている加藤健一という人間をもっと知りたいという気持ちから始まりました」

――― そうして飛び込んだ演劇の世界。「最初は相手にしていただけませんでした」と片山は笑うが、その後は「毎日のように行動を共にした」というほど加藤氏との深い関わりを築いていく。

片山「俳優教室では10年以上舞台監督をやらせてもらって、加藤健一さんの代表作である一人芝居『審判』の舞台監督もさせていただきました。私は同期入所の中で1人だけ歳が離れていたので、あだ名は最初から“兄さん”。加藤さんもそう呼んでくださいます。そこで私が教えていただいたのは、演劇では自分1人でできることは何もなくて、たくさんの人がいて1つのものが出来上がっていくということ。自分は小さい頃から1人で過ごす時間が多く、大勢でものを作るのが苦手なタイプでした。
 そんな私が演劇を通して目指しているのは、何かを作るということ以上に、たくさんの人と一緒にわかり合って楽しみを膨らませることができる人間になることなんです」

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――― そんな片山は、2010年に加藤氏の勧めで一人芝居に挑戦する。そのとき上演したのが、今回の演目でもある『土佐乞食のいろざんげ』。坂本長利の一人芝居で有名な『土佐源氏』のモデルとされる老人を描いた、作者不詳の伝承物語である。

片山「加藤健一さんが演出する加藤忍さんの一人芝居の公演枠を1ついただいて、“やってみないか”と言われたのですが、自分でやる作品は自分で選びたいという妙なプライドみたいなものがあったのと、読んでみたらかなり露骨な下ネタも出てくるので、最初はやりたくないと思っていました。そんなとき、加藤健一さんの旅公演について四国に行く機会があり、物語に描かれている老人の家がまだ残っていると聞いたので、レンタカーで現地まで行ってみたんです。そうしたら、私のことを珍しがって話しかけてきた近所のお爺さんが“ああ、あの人か。ずいぶん汚い格好をしていたよ”といろいろな話をしてくれて、やっぱり本当にあった話なんだと実感して……。
 また、地元の小学校の先生からも、芝居に出てくる逸話を聞かせてもらって、まるで台本の中身が現実にありありと出てくるような感じを味わいました。それでこの芝居は面白い、自分に嘘をつかずにしゃべれるかもしれないと、どんどん思えるようになったんです。結果、やってよかったなと思いましたね。公演後には、それまで外部の人に私のことを紹介するときは生徒だと言っていた加藤さんが、俳優の片山さんと紹介してくれるようにもなりました」

――― 気になったことにはとことん食らいついていく片山の情熱が、彼を『〜いろざんげ』に結びつけた。そして、加藤健一事務所俳優教室で片山の9年後輩にあたる島田は、2007年に行われた同教室の卒業公演で『花いちもんめ』に出会う。

島田「加藤健一さんが演出してくださって、女の子の生徒5人で1人の女性を演じたんです。あのお話で描かれている時代に、戦争という状況の中で主人公と同じような思いを抱えた女性はたくさんいた。そのことを、5人で1人の女性を演じることによって表現するという演出で、みんな同じ白装束を来て、台詞もそれぞれの生徒の特徴が活きるようにバラバラに割り振って……お話自体も印象深かったので、すごくやりがいがありました。そのときの記憶がずっと残っていて、今度は1人でやってみたいなとずっと思っていたんです」

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――― エピソードはさらに続く。先ほどの片山の話にあった加藤忍の一人芝居の演目が『花いちもんめ』で、舞台監督を片山が担当。それを島田も裏方としてサポートすることになったのだ。

島田「忍さんから“卒業公演のときの白装束、まだ持ってる?”って連絡をいただいたんです。私はもちろん全部大事に持っていたので喜んでお貸しして、裏方にもつかせていただきました。そこで兄さん(片山)と一緒にいろいろなお手伝いをしたのを、忍さんも覚えていてくださって……」

――― そこからいよいよ今回の一人芝居2本立てへとつながっていく。2010年と同じく、加藤忍の『花いちもんめ』の公演枠を使って上演される。

片山「実は、前回の一人芝居をやった後に腰を痛めてしまったこともあり、しばらく演劇の世界から遠ざかっていました。知り合いの中には、僕が演劇を辞めたと思っていた人も多いと思います。でも1年くらい前から体調も戻り、このままでは終わりたくないと思っていた頃、私の枠を使ってまた何かやってみないかと忍さんに声をかけていただいたんです。俳優教室の同級生からも、あのときの一人芝居をもう1回だけやってくれと言ってもらえたり、私が『〜いろざんげ』を上演したことがあると知った外部の方からも、またやってほしいという依頼をいただいたりと、そんないろいろなことが重なって、もう一度挑戦しようと決心しました。
 そこからはトントン拍子で、加藤健一さんに演出していただけることになり、会場も最初は別のところだったのが駅前劇場になり……私が俳優教室に入って初めて立った劇場が、駅前劇場だったんですよ」

島田「そして、私も兄さんと一緒にやらせてもらえる機会を与えていただきました。初めて卒業公演で演じたときは二十歳でしたが、今改めて台本を読むと、自分の感じ方がすごく変わってきていると思います。『花いちもんめ』というと、どうしても戦争とか中国残留孤児といったテーマに目が行きがちですけど、人生はいろいろな選択の連続で、その選択肢がものすごく限られた時代の中を生き抜いた1人の女性の話だというところを、今回は表現できたらなと思っています」

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――― 人間の剥き出しの姿を通してさまざまなものを問いかける『〜いろざんげ』に、決死の思いで挑む片山。一方、島田の『花いちもんめ』は、心の機微を見逃さずどんなスケールの芝居も丹念に描いていく春芳氏(劇工房 月ともぐら)の演出も見どころだ。

島田「忍さんと同じ演目ですし、兄さんも俳優教室の大先輩なので、もう私としては挑めばいいだけ。当たって砕けちゃえという感じです(笑)。一人芝居って、舞台上に立っているのは1人ですけど、そこに関わる人はたくさんいる。お稽古などの準備を進めていくにつれて、出演者がたくさんいるお芝居以上に、1人じゃないんだということを身をもって実感しています。稽古でいろんなことを決めすぎないで、レールから外れることの恐さと面白さをお客さんと一緒に作っていけたらいいなと思います」

片山「加藤健一さんのところで20年間やってきて、一時は地元の大阪に帰ろうと思ったこともありましたが、ようやくここまで来れました。来てくださるお客さん全員が相手役だと思って、お客さんを感じながらやりたいと思っています。前回の一人芝居ではそれができなかったので、そこも新たな挑戦。とにかくすべてが自分の挑戦になる……それが、また一人芝居をやろうと思った究極の理由なんです」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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