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広田淳一・渡邉圭介・小角まや

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構えずに楽しめる芝居が、生きづらい人へのエールに

誰もが無縁ではいられない“うつ”と“競争”を喜劇で包んだ新境地

『ぬれぎぬ』『非常の階段』『悪い冗談』の三部作でさまざまなスケールの“悪と自由”を描いた劇団・アマヤドリが次の一手として放つ新作『すばらしい日だ金がいる』は、“うつ”と“競争”をミクロの視点で描く喜劇的作品。しかし、“うつ”で喜劇? ミクロの視点って? いくつもの疑問が浮かぶ中、作・演出・主宰の広田淳一と、劇団メンバーから小角まや、渡邉圭介に集まってもらい、新たな境地へ向かう狙いと抱負を聞いた。

PROFILE

広田淳一(ひろた・じゅんいち)のプロフィール画像

● 広田淳一(ひろた・じゅんいち)
978年生まれ、東京都出身。2001年、東京大学在学中に「ひょっとこ乱舞」を旗揚げ。全作品で脚本・演出を担当し、しばしば出演。日常会話と詩的言語を駆使し、身体性を絡めた表現を展開する。2011年『ロクな死にかた』および2012年『うれしい悲鳴』で劇作家協会新人戯曲賞 優秀賞を受賞。2012年に「アマヤドリ」へ改名して再スタートを切った。

渡邉圭介(わたなべ・けいすけ)のプロフィール画像

● 渡邉圭介(わたなべ・けいすけ)
1987年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部の卒業制作で劇団員の中村早香と共演したことをきっかけに、2010年、ひょっとこ乱舞『水』に参加。以降、劇団員となる。外部作品への出演には、悪い芝居『カナヅチ女、夜泳ぐ』(2012年)や前田司郎氏作・演出の『生きてるものはいないのか』(2014年)などがあり、最近ではドラマを中心とした映像作品にも活躍の場を広げている。

小角まや(こかど・まや)のプロフィール画像

● 小角まや(こかど・まや)
1989年生まれ、神奈川県出身。2010年、ひょっとこ乱舞『ブリキの町で彼女は海を見つけられたか』に参加。アマヤドリへの改名後に劇団員となる。外部作品への出演には、SPAC『黄金の馬車』(2013年)、DULL-COLORED POP『河童』(2014年)などがある。

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――― ストーカー殺人を取り上げた『ぬれぎぬ』、詐欺集団による犯罪を描いた『非常の階段』、東京大空襲をモチーフとした『悪い冗談』の3本は、アマヤドリにとって大きな手応えを残す作品となった。

広田「いつも新しいことに挑戦する気持ちを持っていたいと思っているんで、それまでやったことのない三部作というものにチャレンジしてみました。“悪と自由”というテーマを軸にして、個人的な小さな悪から社会性を持った悪、国家としての悪へと、1作ごとにスケールアップしていったんです。最後の『悪い冗談』では台湾と韓国からゲストを呼んだこともあって、行くところまで行ったというか、ある種の“やりきった感”がありましたね」
渡邉「どれも劇場のサイズも違うし人も変わっていったので、3本でというよりは1つ1つ違った印象があります。でも、一番大きかったのは『悪い冗談』で海外キャストを招いたことですね。今までとはぜんぜん違う文脈で文化の違う人たちと一緒にやる、ていうのはすごく刺激的な体験でした」
小角「1つのテーマに1年間付き合っていくことで、引き出しが増えていく感じはありましたね。テーマが“悪と自由”ということで、犯罪に関する本をいろいろ読んだんです。で、つくづく思ったのは“完全な悪”なんて無いんだなということ。個人の犯罪でも、戦争という大きな悪でも、悪が生まれる元には、人間が誰でも抱く普遍的な感情があるのかなと」

――― かなり重いテーマに、しかも時間をかけて挑んできた。その結果、見えてきたものとは。

広田「今は、その反動みたいなものもあります。殺人や戦争がテーマだったので、ずっと笑えないし(笑)、観る側を構えさせたり、予備知識を要求するような劇になっていっちゃったな、と。そんな中、最近劇団に新人が入りまして、若い頃に書いた作品をやらせてみたんです。まあ、他愛もない内容でして(笑)。でもその良さもあった。書く上で、だんだんと僕は、意味のあること、価値のあることを書きたいと意識するようになって、そういう他愛のなさみたいなものを封印してきてしまったな、と。昔はもっと小さな、個人としての自分に根ざした劇を作ってきてたんだよな、と思い出しました。だから今はあまり構えずに楽しめる劇を、もっと自由に作りたいなと」

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――― そうして出てきたのが“喜劇”という方向性。そこで“うつ”と“競争”をテーマに選んだ理由は?

広田「笑いをやろうというときには、それとは真逆の、全然笑えないことを取り上げた方が面白いと思ったんです。“うつ”というのは、十年前とかに比べると今は社会的な認知もずいぶん広がってきて、それこそ『ツレがうつになりまして』みたいな作品も出て、普通に話題にできる文脈が出てきたと思うんです。もう長いこと日本では年間3万人近い方が自殺しているわけですが、そこにも多くの場合で“うつ”が絡んでいる。だから劇団の中で話をしてみても、多くの人が身近な問題として感じていたんですね。
 そこでいろいろ調べていくと、“うつ”になる人の典型的なパターンとして、他人にも自分にも厳しく、なかなか諦めないというのがあるんですが、それって競争とか資本主義社会の中で勝つために必要とされるメンタリティと表裏一体だなと思ったんです。だから多くの人が“競争”や“うつ”からは、もはや簡単に逃れられないんじゃないかと思って。それでこういったテーマになりました。もちろん、“うつ”は個人的にも軽く笑い飛ばせる話題ではありませんが、ここまで行っちゃうともはや滑稽だなという姿を観せられれば、それも1つの救いになるんじゃないかなと思うんです」

――― 取材の時点で、配役についてはまだ構想中とのことだったが、渡邉と小角には「特に期待している」と広田は言う。

広田「今回は、あなた(渡邉)が一番のベテランになるんだよね?」
渡邉「はい。いつもは若い、ワーッと喋る役が多いんですけど、もう6年目ですからね。もしかしたら遂にシリアスな役をやることになるかもしれません。たっぷり間を使って喋るような……」
広田「そういうのはないと思うけど(笑)」
小角「私はもう5年くらい前から、笑いというか面白い役があまりできないねと言われていて……面白い台詞も私が言うと真面目になっちゃうって。でも先日、「虚構の劇団」の小沢道成君が主宰する団体で二人芝居をやらせてもらって(EPOCHMAN『みんなの宅配便』)、すごく笑いどころが多いお芝居をお客さんもとても楽しんでくれていたので、アマヤドリでも頑張れるかも?って思ってます」
広田「アレはちょっと変わった役だったよね。僕も客席で笑いながら、いや、笑えないぞ、とも思って。ずっと家にいるストーカーというか、宅配便のお兄さんを好きになっちゃう話で、好きという気持ちは純粋なんだけど、行き過ぎちゃって……」
小角「もちろん本人にとっては深刻なんだけど、それが滑稽に見える。そういう意味では、さっきの“うつ”の話に通じるところのあるお芝居でした」

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――― 三部作で大きく広がった視点を、今度は個人の心に向ける。そんな『すばらしい日だ金がいる』のフライヤーには、ずいぶん寓話的な雰囲気もある。

小角「普段一生懸命働いたり学校に行ったりする中で、うつ病とかそれに近いくらいのストレスを抱えている人ってたくさんいると思うんです。そんな人たちがこの作品を観て、すごく楽しかった、明日も頑張ろうって思える作品になったらいいなと思います。そこでの励まし方にもいろいろあると思うんですけど、この作品では、ちょっと重すぎて目を向けたくないようなことを喜劇として見せたい。それがまた別のエールになるんじゃないかなと。まあ、おこがましいんですが……。とにかく楽しんでもらいたいので、まずは自分が楽しんで、本気でふざけたいなと思っています」

渡邉「今、資料としてうつに関する本を読んでいるんですけど、僕自身にはそういう傾向がまったくなかったんで、そのぶん僕はものすごく誤解と偏見に満ちていたんだな、と気付かされました。ついつい軽く見てしまったり、逆に過剰に重くとらえて敬遠してしまっていたことが、知らず知らずのうちにたくさんあったんだなって。そんな自分のような人間が、うつというものをもう少し広い角度から見られると、いろんな人がもっと生きやすくなるのかなと思うんです。そんな見方ができる芝居になったらいいなと思います。ま、あとは単純に演劇として楽しんでもらえる作品を創りたいと、俳優としては思っています」
広田「三部作で割と分かりやすく“意味のあること”を追求してきたので、今はもっと効率の良くないこととか、言葉だけでは伝達不可能なことを探っていきたいんです。言語化できないことをも伝えていく力が、演劇というメディアにはあると思っているので。まあ喜劇とは言ってもアマヤドリなりのそれでしょうけどね(笑)。また手探りで作っていく楽しさを味わいながら進めていこうと思います」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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