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拝田ちさと

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気鋭のアニメーション監督・新海誠の代表作が初の舞台化。

プレッシャーは、ある。だからこそ舞台で観て良かったと言ってもらえる作品にしたい。

短編アニメーション映画の傑作として名高い、新海誠監督の『ほしのこえ』が舞台となって生まれ変わる。新海作品の舞台化は今回が初。注目のビッグタイトルを手がけるのは、2012年に旗揚げした新星・演劇ユニットキャットミント隊だ。熱烈なファンの期待を一身に受け、作・演出の拝田ちさとが新たなるチャレンジに挑む。

PROFILE

拝田ちさと(はいだ・ちさと)のプロフィール画像

● 拝田ちさと(はいだ・ちさと)
11月18日生まれ。サンパウロ出身。演劇ユニットキャットミント隊主宰。脚本・演出を手がける傍ら、自らも役者として舞台に立つ。第一回公演の『暮れ六つ教室』から前作『アガルタの虹』まで全作品に出演。本作では、旗揚げ以来、初めて脚本・演出に専念する。

● 演劇ユニットキャットミント隊
2012年旗揚げ。「観れば気持ちが優しく元気になれる」をコンセプトに、精力的な活動を展開。旗揚げからわずか3年目の若手劇団でありながら、新垣里沙、和田琢磨、山下翔央、永田彬、米原幸佑、北村諒ら毎回豪華なゲストを迎え、話題の作品を発表し続けている。

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抒情溢れる言葉で綴る一途でピュアな10代の恋

「前作の『アガルタの虹』はアガルタという地底世界が舞台。その構想を練っていたときに、同じくアガルタを舞台にした新海監督の『星を追う子ども』に出会ったんです。すごく面白くてみんなに話してみたら、周りにもファンの人が多くて。私はアニメにはあまり詳しくないので、なるほどそんな人気の監督なんだってそこで知って、いろんな作品を観るようになりました。そのひとつが、今回の『ほしのこえ』です」

―― 自らも役者として舞台に立つ拝田は、朗読の難しさも楽しさも熟知していた。だからこそ、いずれ朗読劇をやれたらという想いがあった。『ほしのこえ』を朗読劇にしたら面白いんじゃないか。その直感が、拝田の創作意欲をかき立てた。

「『ほしのこえ』でいちばん大切なのは、新海さんの言葉。その魅力は、きっと朗読劇の方がより深く伝わると思う。だから今回は美加子と昇のメールのやりとりの部分を完全にピックアップして、朗読として仕上げたいと思います」

―― 国連宇宙軍の調査隊選抜メンバーに選ばれた中学3年生・美加子は、淡い恋心を抱く同級生・昇を残して宇宙へ旅立つ。何光年という距離に隔たれたふたりをつなぐのは、携帯メール。しかし、地球から遠ざかるにつれ、送受信にタイムラグが生まれ、ふたりは孤独と寂しさを募らせていく。壮大なSFファンタジーでありながら、そこで描かれるのは誰もが一度は経験した言葉にできないもどかしい恋心だ。

「設定は突拍子もないけれど、好きな人に逢えない寂しさは、誰もが共感できるところ。特に今の世代は、メールやLINEがすべて。いちばん大事なメールだけを持って、あとは手ぶらで宇宙に旅立った美加子の気持ちはきっと共感できると思う。大人の方たちも観たらきっと美加子と同じ15歳の頃の気持ちに戻れるはず。特にふたりは、決して恋人というわけではない。今回、脚本を書くにあたっても、新しく美加子が国連宇宙軍のリーダーに“恋人ってわけじゃない”って話すシーンを付け加えているんです。“恋人ってわけじゃない”って、中高生特有の会話ですよね。そんなピュアな気持ちを舞台でもしっかり表現したいと思います」

―― 舞台化にあたって最も大事にしたのは、新海監督の言葉だという。美加子と昇の会話については、ほぼアニメのままに書き起こした。その上で、ふたりの周辺に新たに登場人物を書き加えることで、舞台ならではのアレンジを施した。

「ふたりの関係性や想いをより深く描くために、五人のオリジナルキャラクターをつくりました。中には結構ポップな感じの役どころもあります。舞台って全編緊張しっぱなしだと、観ている側はどうしても疲れてしまう。原作の雰囲気を崩さないよう、美加子と昇の空気感はそのままに、他のところでちょっと力を抜いて観てもらえたら」

―― 原作の核となる部分は大切に残しながら、舞台でしかできない表現を追求する。

「美加子と昇以外は、朗読ではなく、普通のお芝居そのままに演じます。また、美加子と昇も本を持つところもあれば持たないところもある。今回、“朗読劇”ではなく“朗読×劇”と題しているのもそのためなんです。これが朗読劇かと言われればそうでもない。今まで私がやってきた舞台のやり方を活かしながら、朗読と演劇の融合ができればと思います」


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悲しい恋が教えてくれるのは、何気ない日々の幸せ
―― そんな拝田のチャレンジを支えるのが、自ら「素晴らしいキャスト」と胸を張る自信の役者陣だ。美加子を小松未可子、根岸愛、新垣里沙、そして昇を井上正大、河原田巧也、梅原裕一郎が演じる。

「小松さんの魅力はとにかく声。根岸さんはすごくキュートですよね。新垣さんは抜群の演技力の持ち主。以前ご一緒させていただいたときも、主役でいちばん台詞が多いのに、稽古二日目には誰より早く台本を離していました。いろんな舞台に引っ張りだこなのもよくわかる、座長にふさわしい器を持った方だと思います。井上さんはキャリアも長いし、スター性がある。河原田さんは雰囲気が神秘的ですよね。そして梅原さんは今回が舞台初出演。どんなピュアな感じが出てくるのか今から楽しみです」

―― 個性の異なる役者たちが日替わりで出演する。拝田自身も役者の持ち味を活かしながら、一公演ごとにそれぞれの美加子と昇をつくり上げていくつもりだ。根強いファンを持つ作品だけに、双肩にかかるプレッシャーも重い。

「プレッシャーは感じますね。でもそれはしょうがないこと。この作品って実写化するなら、きっと映像より舞台の方が合っているんじゃないかって思うんです。せっかくやらせていただけるんだから、舞台で観て良かった、このキャストで良かったと言っていただける作品をつくりたいですね」

―― キャットミント隊という愛らしい響きの劇団名の由来は、「キャットミント」というハーブから。いつもハーブのように観る人に安らぎをもたらす演劇を拝田はめざしている。

「新海さんは、生活の中でちょっと疲れたり行きづまっている人のために作品をつくっているんじゃないかなって思うんです。そういうところは舞台でもしっかりと活かしていきたい。その上で私たちキャットミント隊がいつもめざしているのは、心が元気に前向きになるお芝居。たとえ悲しいお話であっても、観た人には明日からまたがんばろうという気持ちになってほしいと思っています。この作品を観て、普通の生活がどれだけ幸せかということを思い出してもらえたら嬉しいし、メールを送ったら届くし、すぐに返事が返ってくる。それがどれだけ嬉しいことか改めて気づいてもらえるんじゃないかなと思います」

―― 大切な人がすぐそばにいる幸せ。大切な人とどんなときもつながっていられる喜び。さあ、劇場を出たとき、あなたはいちばんに誰にメールを送るだろうか。

(取材・文&撮影:横川良明)

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