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ダンス集団コンドルズを筆頭に個人でも多方面で活動する藤田善宏が、自身のプロデュースユニットCAT-A-TAC(キャットアタック)の活動の一環として、タップダンサー村田正樹と結成したニヴァンテ。ちょっと不思議な風貌の2人が繰り広げるパフォーマンスは、観客の想像力を刺激し、子供から大人まで楽しませてくれるとびきりのエンターテインメントだ。そんな彼らが、新作『ライトな兄弟』を10月に上演する。しっかりとしたストーリーが身体の動きで表現され、まるで絵本を読んだ後のようにふんわりと温かい気持ちに包まれるニヴァンテの世界はどう進化するのだろうか。
● 藤田善宏(ふじた・よしひろ)
福井県出身。プロデュースユニットCAT-A-TAC主宰。ダンスカンパニー・コンドルズのメインダンサー。フジテレビ『かくし芸大会』他、PV、CMなどの振付を多数手がける。出演作品はコンドルズ全公演の他、パルコプロデュース『空白に落ちた男』、NODA・MAP『パイパー』、山田洋次演出『マリウス』など。グローブ座主催『中の人』では振付出演、河原雅彦演出『カッコーの巣の上で』ではステージングを担当。群馬大学非常勤講師。
● 村田正樹(むらた・まさき)
宮城県出身。高校時代にストリートダンスを始める。高校でストリートダンスを始め、24歳の時、仙台でTAP DANCEと出会い、熊谷和徳氏に師事。Kaz Tap Companyでの活動を経て現在ソロタップダンサーとして活動中。2010年にはCANON EOSのCMに起用。2015年福岡ダンスフリンジフェスティバルにて、海外招聘に複数ノミネート。同年別府現代芸術フェスティバル2015『混浴温泉世界』に出演。テニスコーツ・大口俊輔との共演やダンサー藤田善宏(コンドルズ、CAT-A-TAC)とユニット“ニヴァンテ”としての活動、下司尚美主宰“泥棒対策ライト”、福留麻里の作品に参加など、様々なフィールドで活動中。ソロでの作品創作を続けながら自分らしい表現を探求中。
何かを面白がるポイントが似ている2人
――― お2人が出会った経緯はCAT-A-TACのウェブサイトにあるインタビューで語られていますが、もともと村田さんが一方的に藤田さんのことをご存知で、気になる存在だったそうですね。
村田「最初に藤田さんのことを知ったのは雑誌のインタビューでした。とりあえず見た目がハチャメチャというか(笑)、すごい奇抜な格好だったんです。もちろんコンドルズの存在は知っていて、やがて観に行くようになりました。どこが気になったかというのはうまく言えませんが、やっぱり見た目から来る個性の強さに惹かれたというのが一番かもしれないですね。ダンス自体も独特だったし」
藤田「照れくさいね(笑)」
――― そんな村田さんが、藤田さんのソロ公演を観に行って初対面を果たし、その後同じ舞台にそれぞれ客演したのを機に、本格的に接近したと。
藤田「タップダンスって、スタイリッシュで力強いものというイメージがあったんですけど、そこに切なさとか叙情的な感じをプラスしたと思うのが村田くん。
村田くんは、僕の中で固まりすぎていたそういうイメージをことごとく壊してくれたんです。本人の雰囲気もなんとなくフワッとしていて、俺だぜ!みたいな感じがない。それで僕も、初めてタップと一緒にやってみたいなと思いました」
――― 村田さん自身は、いわゆるタップダンスのイメージにとらわれないことをやろうという意識を持っていらっしゃるんですか?
村田「基本的にはタップダンスをやっていたいというのがあって、何か違うことをやりたいっていうのとはちょっと違うんです。でも、タップダンスというものが一つの方向からしか見られていないと感じることもあって、もっと多角的に、こっちから見たらどうなるんだろう……みたいなことをいっぱい試してみたい欲はたくさんあります。
藤田さんはタップダンスの良いところをちゃんとわかってくれていて、一緒にやるときはそれをしっかり見せられるようにしてくれる。その見せ方が普段とは全く違っていて、自分自身の表現にすごく可能性を感じるものだなって思います」
藤田「村田くんは、僕が一緒にやろうということを面白がってくれる人。例えば“タップダンスって、踊ってるとき上半身はどうしてるの?”って聞いたら、“いい感じで脱力してます”って言うから、じゃあ一緒にワークショップをやる時なんかも下半身は村田くん担当、上半身は僕担当みたいな割り振りでコラボレーションしたら面白いんじゃないかなって……。
普通だったらそんなの“ええ〜っ?”って言われちゃうかもしれないのに、いいじゃないですか、やってみましょうというコール&レスポンスができる。お互いに、面白がるポイントが似ているんですよね」
――― その後、藤田さんのワークショップに村田さんが招かれ、2014年にニヴァンテとしての初ステージを披露、2015年に『FUTARI de ZUCCU』(フタリデズック)を上演しています。
藤田「2014年のパフォーマンスは今よりも抽象的で、シュールな感じでしたね。ストーリーを伝えるより、この2人だったら何が表現できて、それを面白くお客さんに提示できるかということを優先して考えていました」
村田「いろんなアイディアを詰め込んで作りましたね。ニヴァンテという名前もこのときにつけて」
藤田「2人とも“俺が俺が”という感じじゃないというか、二番手のポジションが気持ち良いねっていう……。あとは“ニバンテ”より“ニヴァンテ”の方がおしゃれかなと(笑)。その次の『FUTARI de ZUCCU』は、タップダンスに欠かせない靴をモチーフに作ってみようということで、某ファッションブランドにひっかけたタイトルをつけました(笑)。
サンタクロースの頼りない弟子2人が、車椅子の男の子の願いを叶えるために魔法の靴を探しに行く話です。2人とも絵本の世界が好きで、飛び出す絵本というか、舞台に飛び出してきた絵本のようなステージを目指したところはあります」
村田「タップを使ったステージで、ここまでストーリーを表現することって、ミュージカルっぽいもの以外にはなかなかないんじゃないかなと思いました。僕はタップだけじゃなく、ダンスもご指導いただいて……。タップと組み合わせる難しさはありましたが、頑張りました(笑)」
藤田「僕のダンスにも、村田くんのタップ的な要素をどうやって振り付けに入れ込むかを考えましたね。ボディパーカッション的なことをやったりとか、すごく楽しかったです」
より賑やかでハッピーな感じを出せたらいいなと
――― そして今度の新作が『ライトな兄弟』。また言葉遊びですね(笑)。
藤田「やはり絵本感を出したいと思いながらいろいろ調べていたとき、ライト兄弟の写真を見つけたんです。皆さんライト兄弟のことは知っていても、どんな顔をしてるかってあまり知らないじゃないですか。それで写真を見たら1人はヒゲ面で、その感じがちょっと村田くんに似ていたので、これでいこうと(笑)。
でも別にライト兄弟の物語を作りたいわけではなかったし、あまりかっちりしたタイトルにもしたくなかったので、真ん中に“な”を入れたら、急に自分の中で面白くなっちゃったんです(笑)」
村田「ちょっとびっくりしましたけど(笑)、めちゃくちゃ良いタイトルだなと思って、すぐに乗っかりました」
藤田「実際、ライト兄弟に憧れる兄弟、みたいな感じのお話です」
――― ニヴァンテでは、子供も大人も楽しめるエンターテインメントを目指しているとのことですが、今回はそれをより前面に出した内容になるそうですね。
藤田「この2人のキャラクターですごく高尚なものは作れないというのもありますが(笑)、絵本の賑やかでハッピーな感じを出せたらいいなと思っています。Eテレっぽい感じというか」
村田「Eテレには出たいって、常に言い続けてますよね(笑)」
藤田「(笑)。そして、今回は僕ら以外のキャストにも出ていただきます。ホール公演なので、そこで子供たちにも観てもらうことを考えると、2人だけじゃなくてもう少し人数がいた方が楽しめるだろうし、タップダンスも華やかに見えると思って。打楽器も使ったりして、耳でも楽しめるものにしたいと思っています」
村田「僕も『ライトな兄弟』というタイトルからストーリーを考える中で、いろいろなイメージが湧きました。今回は人数を増やすことによって、2人でやっているダンス&タップの幅がさらに広がって、やれることやチャレンジできることがいっぱいあるなと思っています」
藤田「あと、役者さんに少し喋ってもらう場面も入れる予定です。今までは割と言葉に頼らないでやってきましたが、今回は身体の動きだけでは伝わりづらそうなところに、少し喋る要素も入れてみたらどうなるかなというのを試したいと思っています」
――― 先日CAT-A-TACの別の公演を観て、小さいお子さんから年配の方まで、観客の年齢層の広さに驚かされました。ニヴァンテもそういう感じですか?
村田「そうですね。もちろんタップダンスの公演を子供たちが観に来ることもありますが、ニヴァンテでやるときは本当に子供から大人までという感じです」
藤田「三世代にわたって観てくださっていたり」
――― そういう客席に座っているだけで、かしこまって観るのではなく、心を開いてリラックスできる感じがあります。
藤田「うんうん」
村田「お客さんも、そういう気持ちでお話の中に入っていってもらえるとすごく嬉しいです」
――― それでは最後に、劇場に足を運んでくださる皆さんにコメントを。
藤田「……ええと、そうですね、不思議な2人が不思議な世界へご案内……。って、なんだかキャッチコピーみたいになっちゃった(笑)」
村田「初めてご覧になる方には、僕ら2人でやる世界観が……(しばらく考える)言葉が出てこない。さっきまでいっぱい話していたのに(笑)」
藤田「……夢に向かって突っ走る、バカ一生懸命な兄弟の姿をぜひとも……。踊るバカ兄弟を観に来てくださいっていう感じかな」
村田「カラフルでポップな舞台になると思うし、たとえば親子で観てもらって、帰りに子供が空を見て“飛行機飛んでるね”って言ってくれるようなお話になったらいいなと……なんか違うかな?(笑)」
藤田「あっ! またキャッチコピーみたいなのを思いついちゃった。最近の人って、普段どうしてもスマホ見たりうつむいて歩いたりしがちじゃないですか。でも、空を見たくなるようなお話にしたいなと思っていて」
村田「それ、いいじゃないですか(笑)」
藤田「“空を見たくなるような舞台です”……これでお願いします」
――― いいフレーズ、いただきました(笑)。
藤田「よかった! 村田くんが飛行機の話をしてくれたから」
――― この2人でいると、こんなふうに何かが生まれてくるんですね。
藤田「そういうことです!(笑)」
村田「(笑)」
(取材・文&撮影:西本 勲)