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新宮乙矢・中武億人

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時代劇の魅力を広く伝える劇団め組の代表作が、看板俳優と若手のダブルキャストで蘇る

幕末の世に恐れられた“人斬り以蔵”。その純粋な生き様を描いた心揺さぶる物語

 時代劇をメインに、30年以上にわたり質の高い舞台を作り続けている劇団め組。その代表作の一つである『岡田以蔵』が、本公演としては8年ぶりに上演される。人並み外れた剣の腕前を買われ、幕末の世に“人斬り以蔵”として数々の暗殺を行った岡田以蔵と、彼の才能を見出し育てた武市半平太を中心とする物語で、迫力満点の殺陣と激しい感情のぶつかり合いは、時代劇ファンのみならず多くの観客を深い感動へと誘う。
 今回は、出演者間で配役をシャッフルする形のダブルキャスト上演で、これまで以蔵を演じてきた新宮乙矢と、昨年行われた若手メインのアトリエ公演で以蔵を演じた中武億人の二人が、気持ちを新たにして岡田以蔵役に挑む。それぞれが抱く、作品と役柄への思いとは?

PROFILE

新宮乙矢(しんぐう・おとや)のプロフィール画像

● 新宮乙矢(しんぐう・おとや)
1975年3月18日生まれ、神奈川県出身。1995年劇団め組入団。同劇団の本公演全作品に出演する看板俳優の一人で、華麗な殺陣には定評がある。主演代表作は『岡田以蔵』『徳川慶喜』『信長』『義経』『あしたのジョー』など。外部の作品やテレビドラマ、映画、CMにも多数出演。今回はAキャストで岡田以蔵役、Bキャストで以蔵と並ぶ四大人斬りの一人、河上彦斎役を演じる。

中武億人(なかたけ・おくと)のプロフィール画像

● 中武億人(なかたけ・おくと)
1989年10月13日生まれ、鹿児島県出身。2009年劇団め組入団。同劇団公演を中心にテレビや映画などで活動。劇団め組の出演作は『芳一』『鬼界ヶ森』『走れメロス』『泣いた赤おに」『ヴェニスの商人』『青い鳥』『杜子春』『はだかの王様』など。今回はAキャストで武士の高田又四郎役、Bキャストで岡田以蔵役を演じる。

● 劇団め組(げきだんめぐみ)
丹波道場出身の与儀英一らを中心に1984年設立。児童演劇を携えて学校上演を始め、93年には大人向け公演をスタート。時代劇をメインに年2〜3作の上演を続けている。『岡田以蔵』は2001年の初演以降、2004年、2009年と上演され、2016年には若手メインのアトリエ公演を実施。UTBテレビ演劇祭では4位に入賞を果たしている。

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中武が以蔵を演じると聞いて、全員ひっくり返った(笑)

――― まず新宮さんにお聞きします。2001年の初演以来、これまで3回演じてきた岡田以蔵にまた取り組むことが決まって、いかがですか?

新宮「め組の一員として出演してきたお芝居の中で最も多くやっているということもあり、一番思い入れのある作品です。とにかく脚本がすごく良くて大好きで、最後に出たのが8年前だからずっとやりたかったんですよ。今42歳ですけど、初演のときは27歳で、とにかくがむしゃらに取り組んだのを覚えています。今回は当時のまま演じても駄目でしょうし、今の自分がどう演じられるかというのは未知な部分でもありますね。けっこう動き回るお芝居なので、体力的にもそろそろ限界かなと思いつつ(笑)」

――― 以蔵は剣の天才ということで殺陣が激しく、気持ちを込める部分でも激しさのある役柄ですね。

新宮「『岡田以蔵』をやる前は、どちらかと言うと感情を内に秘めた感じの役が多くて、自分でもそれが合っていると思っていたんです。でも『岡田以蔵』で自分を全面的にワーッと出す役をやってみて、こういう発散型の方がやりやすいんだなと感じました。とにかく以蔵と武市の師弟関係がすごくて……ぜひサラリーマンに観ていただきたいくらい(笑)。本当に師を愛している一方で噛み付くときもあって、近づいたり離れたりっていう二人の関係性はもどかしく感じるところもあります。初演当時は可愛い以蔵でしたが、今回はそのあたりをどう演じるかというのも楽しみです」

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――― 中武さんは、新宮さんが演じる以蔵を観たことは?

中武「劇団員になる前、養成所にいた頃に公演のお手伝いをさせていただいて、そのとき初めて観ました。それまで僕は時代劇をあまり観たことがなくて、岡田以蔵のこともまったく知らなかったんです(笑)。でも、どうしてこんなに感動するんだろうというくらい衝撃的で、何回見ても涙がこぼれて。そもそもお芝居もそこまでやりたいって思っていなかった僕が、新宮さんの岡田以蔵を観て、初めて“演じてみたい”って思ったんです。帰りの電車の中で、覚えている台詞をブツブツ呟いたりして……」

新宮「(笑)」

中武「普段の僕のキャラクターとは全然違うので、自分ができるとかやりたいとかじゃなく、ただ勝手に真似をしていたんです」

――― では、去年のアトリエ公演で以蔵を演じてみていかがでしたか?

中武「もう死にもの狂いでした。自分が以蔵として舞台に立って、お客さんに喜んでいただけるのかどうか、ギリギリまで不安でした。でも本番では、全然自分の思ったとおりにはできなかったんですけど、お客さんの空気が違ったんです。こんなに真剣に観てくださるんだ……というか、本当に息を飲んで、涙をこらえて観てくださっているのがすごく伝わってきました」

新宮「そのときの以蔵もダブルキャストで、一人(入木純一)はだいたい想像できたんですけど、もう一人が中武億人と聞いて“ええっ!?”って。まず全員がひっくり返ったと思います(笑)。彼(中武)はとにかく不器用なタイプで……」

――― 本当にやれるのか?という感じだったんですね。

新宮「そうです。稽古中もずっと不安そうな顔をしてるし、実際全然ダメなんですけど(笑)、ただ何と言うか、口では言い表せない彼の良さというのがあるんです」

中武「もともと新宮さんの『岡田以蔵』を観てお芝居をやりたいと思ったので、僕にとってもすごく思い入れのある作品なんです。だから不安もありましたけど、どんなに稽古が辛かったり、周りから心配されても乗り越えられるんじゃないかという小さな自信もありました。そういう思いがあったからこそやり遂げることができたのかなというのは感じます」

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テレビや映画の何倍も大きな感動がこの作品にはある

――― 以前の公演では、あまりに殺陣が激しくて怪我が絶えなかったそうですが。

新宮「そうでした。裸足で走り回るので、足じゅう擦りむいて火傷だらけでしたし、3回目にやったときは本番中に捻挫したんです。幕間に病院に行って、ガチガチにテーピングしてもらってなんとか最後までやり通しました。次の日も腫れて歩けないくらいで、これはダメだと思ったんですけど、本番になるとできるんですよね。あれはすごく不思議でした。め組の中では一番激しい作品かもしれないですね」

中武「殺陣は……めちゃくちゃ苦労しました。何度も何度も、手取り足取り教えていただきました。殺陣ができないと岡田以蔵じゃなくなりますから(笑)」

新宮「ある意味、それさえできればいいっていうところもあるくらいですから(笑)」

中武「でも、そこが一番心配されていました(笑)」

――― すごく心配されていた様子が伝わってきます(笑)。そんな中武さんを起用したのは、劇団代表で演出も務める与儀英一さんの狙いもあるのでしょうね。

中武「“自分らしくやってごらん”とは、よく言われていました。そこに少しでも以蔵に近づけるものがあったのかもしれないというか、僕の中に狂気じみたものが潜んでいたのかもしれない……」

新宮「(笑いながら聞いている)」

中武「自分でもよくわかりませんが、そこを見抜かれていたのかもしれません(笑)」

――― これは『岡田以蔵』に限らずですが、め組の作品は時代劇ファンを納得させつつ、それこそ最初の中武さんのように時代劇に疎い人も感動できるようなバランスの良さが魅力です。演じる側として何か意識していることはありますか?

新宮「時代劇フリークの方は厳しく観てくださっていると思いますが、僕はどちらかというと、もっと広い範囲の人に観てほしいと考えています。題材は時代劇ですけど、今の時代でも十分伝わる内容であり、感情だと思うんです。所作とか着物といった時代劇の要素はふんだんにある中で、でもカツラを被らなかったりもするのでコテコテの時代劇というわけでもないですし、やはり現代にも通じる感じというのがめ組の売りだと思います。むしろテーマの方が先にあって、それを伝えたいという思いだけでやっているのかもしれません」

中武「自分は特に何かを意識するというよりも、台本のままを思い切りやれば、何か伝わるものがあるだろうなと思ってやっています。『岡田以蔵』で描かれる人間ドラマも、たまたま幕末という時代だからこそ浮き彫りになっているだけで、時代劇を知らない人でもすごく感情移入できると思います。あとは殺陣の迫力とか、時代劇ならではの独特の緊張感は、観ていて引き込まれるんじゃないでしょうか」

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――― め組の公演を初めて観る人にもぴったりの作品かもしれませんね。

新宮「うちの代表作ですし、僕自身もまたいつできるかと思っていた役なので、ドキドキしています。またそれとは別に、外国人の方にもぜひ観てほしいです。というのも、以前ブロードウェイでお芝居を観たとき、英語がまったくわからなかったんですけどすごく感動して、人間ってここまでできるんだと衝撃を受けたんです。だから言葉が通じないお客さんにも、熱量とか空気だけで伝えられるお芝居を目指したいし、言葉のわかる日本人だったらもっと共感していただけると思っています」

中武「舞台は映画より高いお金を払って、劇場に足を運ばないと観られません。それに、失礼な言い方かもしれませんが、当たり外れというものもある。それでも舞台というものが残っているのは、舞台だからこその感動があるからだと思うんです。肌で感じる感動という意味ではテレビや映画の何倍も大きくて、その感動を知っている人がいるからこそ、舞台を続ける人も観る人もいる。そういう感動が、この『岡田以蔵』という作品にはあると思います」

新宮「ぜひ、たくさんの方に観ていただきたいですね」


(取材・文&撮影:西本 勲)


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