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舘そらみ・福島三郎

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ありのままの自分。本当のあの人。そんなもの本当に存在するの?

人間の多面性を描く、問題提起型コメディ

 よく知っているはずの人の今まで知らなかった一面に接して、別人のように感じたことはないだろうか?あるいは、周囲の人からもたれているイメージと“自分が思う自分”にずれを感じたことは?人は、見る人によって異なる面にスポットが当たり、違う光を放つ。
 そんな、当たり前だが忘れてしまいがちな“人間の多面性”をテーマにした舞台『他重人格〜WHO AM I?』が7月に上演される。脚本は、劇団ガレキの太鼓主宰、また映画『私たちのハァハァ』など映像作品でも活躍する舘そらみ。演出は、東京サンシャインボーイズ出身の演出家で、現在は自らの脚本演出ユニット丸福ボンバーズの主宰としても活動する福島三郎が手がける。

PROFILE

舘そらみ(だて・そらみ)のプロフィール画像

● 舘そらみ(だて・そらみ)
神奈川県生まれ、トルコ・コスタリカ育ち。劇団ガレキの太鼓主宰。慶応大学在学中に演劇活動を始め、05年からは創作・演出を始める。09年ガレキの太鼓旗揚げ。同時に平田オリザ氏に師事、青年団演出部に入る。

福島三郎(ふくしま・さぶろう)のプロフィール画像

● 福島三郎(ふくしま・さぶろう)
岡山県出身。東京サンシャインボーイズに所属し、演出補を務める。東京サンシャインボーイズ解散後は、自身の脚本・演出による演劇ユニット泪目銀座(なみだめぎんざ)を旗揚げし、これまでに全12作品を上演。12年より新たな脚本演出ユニットとして丸福ボンバーズを旗揚げし、主宰を務める。

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――― 公演タイトルは『多重人格』ではなく『“他”重人格』。「私にとってのあの人と、あなたにとってのあの人は、まるで別人だった」という視点で描く今作が生み出されたきっかけとは。

舘「以前、街中で知らない女の子をナンパして飲みに誘って、恋バナを聞かせてもらって、その話を記事にするっていうweb連載をやっていたんですね。その時にすごい痛感したのが、人間って第一印象じゃ分からないな、ということ。最初にこういう子っぽいって思っても、話してみると全然違うなとか、話してる本人ですら自分のことをよく分かっていないとか。それって面白いなっていうところが出発点です。
 特に過去の思い出話なんて、今の自分が思い込んでいる過去の思い出しか語れないわけじゃないですか。しかもその過去の思い出の中にいる自分には、こういう人間であるに違いない、こういう人間であって欲しかったとか、いろんなものが反映されてるので。結局、統一された、たった一つの人格なんてないよね、って」

福島「テーマを聞かせてもらって、その通りだし、面白いなと思いましたね。実際、僕なんか、初対面の人はほぼほぼ怖い人だと思うらしいんですけど、全く怒らない人間なんですよ。すっごい人見知りのシャイな男の子なので(笑)、慣れるまではあんまり喋れないからだと思うんですけど、真反対な印象を持たれがち。なので、このテーマはほんとそうだよなと」

舘「誰の周りにもあるようなことなんですよね。で、見てくださった方が、みんな“他重”な面を持ってていいじゃない、ってなれたら嬉しいな。肯定まではしないかもしれないけど、ま、いっか、くらいに」

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――― 何気ない日々の中にある様々な感情を、鋭い人間観察眼で切り取り、舞台や映像作品で発表してきた舘。演出、脚本問わず上質のコメディを作り続けてきた福島。2人はこれが初顔合わせとなる。

舘「自分の書いたものがコメディになることがすっごい楽しみなんですよ!」

福島「無責任なわけでもなんでもなく、そらみちゃんが書いてくれるものを素直にやるのが僕の仕事だと思っていて。そらみちゃんが書いてないことを言ったりとか、勝手に何か足して笑いを取るってことはまったく考えていないです。面白いことってどんなことかって考えた時に、人が一生懸命やるのを見るだけでも面白かったりするんですよね。例えば、もう絶対この言い訳通用しないなっていうのを必死で言ってる姿って面白いじゃないですか。作品の中で登場人物が一生懸命生きていれば、多分それを見て頬が緩むことはあるはずなので、無理に形を変えてコメディにしようっていうことではないですね」

舘「おっしゃる通りで、人間ってもうそれだけで面白さを内包してる。そういう面白さは今までも書いてきたつもりなんですけど、今までの私の公演って、“真面目に観に来ました”ってお客さんが多かったんですよ。多分、私の作り方のせいもあるし、長くやってた劇場のお客さんの傾向もあると思うんですけど、“あれ?今けっこう面白いことやってますよ?”って時でも、なるほど、とか、人間ってそういうとこあるよね、って反応だったのがすっごい寂しくて。“今、笑っていいんだよ?”みたいな思いをずっと抱えてました(笑)。今回はコメディって銘打って、しかもサブさんに演出していただくということで、お客さまも、笑っていいって分かって来てくださるはずだから、どういう反応があるのかも楽しみです」

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――― 多彩な出演者も今作の楽しみの一つ。山崎彬(悪い芝居)、大久保聡美、貴瀬雄二、村井まどか、小林瑞紀、野崎数馬(丸福ボンバーズ)、多田直人(キャラメルボックス)が名を連ねる。

福島「野崎君以外は、初めてご一緒する方ばかりです」

舘「私も、ご一緒したことがある方は誰もいないです。私とサブさんも知らない者同士で、今までやってきたものの傾向も違ってるので、役者さんも変に固まった人を集めるよりは、まとまった時にどうなるか分からないくらい、いろんな畑から来てくれたらいいですねっていうことで、こうなりました。キャラメルボックスと青年団が一緒ってすごくないですか」

福島「もうキャラメル団ですよ(笑)」

舘「ですね(笑)。主人公の龍之介は山崎さんです。私、山崎さんが演出されている作品がめちゃめちゃ好きで、正直作り手としてはとってもジェラシーを抱いているくらい、すごいものを作る方だなあって思ってるんですね。なので、彼の役に関してだけは、演出をやる人が演じるってことをちょっと意識して書くと思います。そういう彼のポテンシャルを発揮しやすいものを書けたらいいなと。
 普段自分の劇団をやる時は、一人の人間がとことん練って練って出したものって一つの輝きがあると思ってるので、ただただ自分が良いと思うもの、作りたいと思うものを作っていて、他人の意見もあまり入れないんですけど、今回に関しては、いろんな人の力が結集した時にどうなったら面白いのかなっていうところで捉えているので」

福島「このメンバーが集まって、自分が思ってたのを越えてくるのが楽しみだよね」

舘「だから作り方も全然いつもとは違いますね。ねえねえこんな要素あったら、サブさんどうですか?面白くないですか?とか、これどういう風に形になるのか分かんないけど、なんか面白い気がするから書いちゃいまーす!っていう感じ」

福島「でも、正解だと思います。ちょっと枠外れちゃってもいいよなっていう、いい意味での無責任だよね。あんまり考えすぎないでいいんじゃないかな。こういう組み合わせは毎回新鮮だし、蓋を開けたら嬉しい発見が多いので、稽古も楽しくなりますよね。劇団とかだとちょっと飽きたりすることもありますから(笑)」

舘「ありますねー。とりあえず数日後から執筆合宿でタイに行く予定なので、そこでしっかり書いてこようと思ってます」

福島「執筆合宿?象使いの免許を取りに行くんだよね?」

舘「いや、免許はとりますけど、あくまで執筆合宿です(笑)!3日でとれるらしいんですよ、象使いの免許。それ聞いたら取りたくないですか!?」

福島「(笑)」

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――― この作品のために集まったカンパニーで、どのような化学反応を経てどんな作品が生み出されていくのか。楽しみに待ちたい。

福島「自分の劇団でもなく、でっかい商業演劇でもなく、こういうカンパニーでやれる芝居って割と久しぶりで。バラエティに富んだ役者さんたちと、翻訳ものでもないオリジナルの作品を魅力的な作家さんとやれて、楽しみでしかないですし、それをそのまんまお客さんに楽しんでいただけるように、僕がまず楽しみたいと思います。ぱおーん!」

舘「いや、まだ免許とってないので鳴かれても使えません(笑)。それはともかく、私もすごい楽しみです。実は私、久しぶりの演劇なんですね。数年前に演劇が辛くてしょうがなくなっちゃってしばらく休んでて。でも、ここ数年、映像だとかwebの仕事をやってる間ずーっと、お前の発想は演劇的だなって言われ続けちゃってたんですよ。それ演劇でやったら面白いんだけど、映像だとどうかなって。だから頑張ってそうしないように、演劇もできるだけ見ないようにして距離をとろうとしてたんですけど、やっぱりどうしても、もう骨の髄まで、面白いと思うものが演劇でやると面白いだろうなってものだったんです。結局、私、演劇大好きなんだなと。だから、やっとそれを発揮していいんだ、演劇的な考え方や面白いと思えるものをやっと開放していいんだっていうのは幸せですね。
 あとはもうほんとに、集まった人々がみんな素敵なので、こんなに素敵な人たちがガーッと集まって、よしやろう!ってなってるのが夢みたいで。なんか、見たことないものができる気がしてます。楽しみにしていてください」


(取材・文:土屋美緒/撮影:友澤綾乃)


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