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TOKISHIRAZ

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つかこうへいが手がけた伝説のテレビドラマ『かけおち’83』が蘇る

34年前にブラウン管にかじりついたあの夜の衝撃を、今舞台で上回りたい

劇作家つかこうへいが、映画『蒲田行進曲』の大ヒット直後に生み出した連続テレビドラマ『かけおち’83』。純情と業、不条理とドタバタ――。そのすべてが同居し、荒々しいセリフの応酬で、大げさに雑多に盛り上がっていく。つかこうへい作品の粋を集めたようなこの作品を、今年7月、現代の味つけで舞台化。キャスト4人に、つか作品や本作への思いを聞いた。

PROFILE

小宮孝泰(こみや・たかやす)のプロフィール画像

● 小宮孝泰(こみや・たかやす)
1956年神奈川県生まれ。明大落研同期の渡辺正行、テアトルエコー養成所で一期上のラサール石井とコント赤信号を結成。1980年『花王名人劇場』でTVデビュー、「暴走族コント」で一世を風靡する。1984年に赤信号劇団旗揚げ後は演劇に軸足を移し、舞台・ドラマ・映画等で活躍。2004年、文化庁文化交流使としてロンドンに演劇留学。最近は役者の落語会も主催。

裕樹(ひろき)のプロフィール画像

● 裕樹(ひろき)
1968年愛知県名古屋市生まれ。20代はマカロニワンダーのVoとして活動。40才で役者デビュー、声優業もこなす。プロデュース業も手掛ける。映画『関ヶ原』、ベルギー映画『バードソング』、映画『光と血』が公開を控え、現在放送中の海外ドラマ『ヴァイキング』『マクガイバー』では吹替レギュラーで参加。プロデュースとしては映画『美女捨山』『光と血』等がある。

南翔太(みなみ・しょうた)のプロフィール画像

● 南翔太(みなみ・しょうた)
1982年愛知県生まれ。2005年舞台『秘密の花園』でデビュー。2007年より『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』の主演レイ/レイモン役を務める。2011年ウルトラマン作品の主題歌・挿入歌を歌う音楽ユニット「voyager(ボイジャー)」のメンバーとして歌手デビュー。出演作に劇団たいしゅう小説家Present's 舞台『サギムスメ』、AUBE GIRL'S STAGE『ざわつくから叫んでみたんだ』他。

石井康太(いしい・こうた)のプロフィール画像

● 石井康太(いしい・こうた)
1975年東京都生まれ。1995年お笑いコンビやるせなすとして活動開始し、『黄金ボキャブラ天国』『爆笑オンエアバトル』など数々の番組に出演。2011年7月より田中大祐と共に劇団気晴らしBOYZを旗揚げ。以後、舞台を中心に存在感のある俳優として活躍している。代表作に劇団気晴らしBOYZ『龍馬がいっぱい』、劇団東京イボンヌ舞台『モーツァルトとマリー・アントワネット』、他

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青春のただ中に見たあのシーンが今も焼きついている

――― つかこうへいの隠れた傑作と名高い1983年のテレビドラマ『かけおち’83』。そして1987年の映画『青春かけおち篇』。いずれも大竹しのぶ主演で、あふれ出るつかイズムに多くの若者が衝撃を受けた。昨年はNHKアーカイブスで実に33年ぶりに、テレビドラマ版のダイジェストが放送された。

小宮「つかこうへいは僕にとって、青春の直球ど真ん中ですからね。演劇を始めた19〜20歳の頃、青山のVAN99ホールの公演を観てますから。当時まだ70年代ですよ。テレビでやってた『かけおち’83』もリアルタイムで見てました。録画してたし」

裕樹「僕もです。食い入るように見てました。これを見て本気で演劇を志そうと決めたんです。高校1年生の時に、友だちに誘われてよくわからないまま観たのが映画『蒲田行進曲』で。それにすごいショックを受けて、初めてつかこうへいという人の名前を知ったんです。その後NHKでつか作品をやるぞっていうんで、かじりついて観ました」

小宮「今でも覚えているのは、京都かどこかの駅で(セツ子を演じた主演の)大竹しのぶさんが、しれっと「牛乳飲む?」って聞くシーン。自分で買ってこいって言ったのに、買ってきた康夫に「飲む?」ってあえて聞くんですよ。あれがものすごい印象に残ってて。つかこうへいの作品ってセリフがぜんぶ反語で、思ってもないこと言うんだよね。それが心が揺れている女をよく表していて、鮮烈で忘れられない」

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裕樹「僕はこの作品を見て真剣に演劇をやろうと、劇団に入ったんです。なぜか真逆のアングラ劇団なんですけど(笑)。大学生や社会人の中に、ひとりポツンと高校生がいる(笑)。でもすごいいい経験をさせていただいて、高校生ながら唐十郎さんの黒テントの設営をさせてもらったり、全身白塗りしたり。よく「お前、こんなことやってていいのか!?」って言われてましたけど(笑)。いつかやりたいと思っていた作品を、今回やっとやることができました」

南「(1982年生まれの)自分が1歳のときに放送された作品なんですよね。それに携われるのが、すごく楽しみです。僕の役は康夫の恋敵で、若くして年収30億の会社を経営する男。(テレビドラマ版でこの役を演じた)沖雅也さんの「この十年間、私はいったい何のために働いてきたんだ! 好きな女ひとり奪うことができないで、私は何のために生きてきたんだ!」というセリフに、すごい胸を打たれました」

石井「今回は裕樹さんがのんびりした康夫という兄貴で、僕がしっかりした弟という役どころ。ふだんは僕の方がちゃらんぽらんだと思うんですけど(笑)。僕が初めてつか作品に触れたのは、小学生のときにテレビで見た『蒲田行進曲』です。その時にあまりにびっくりして、映画に出てくる新選組を絵に描いたら、コンクールで銅賞をもらった(笑)。それぐらい映画のインパクトが強くて」

小宮「今回、セツ子のお父さんの役をやるって聞いて改めてドラマを見て、楽し気な感じで楽に言ってる台詞が、ちっとも簡単じゃないなと思いました。テレビドラマ版では北村和夫さんがやってたけど、へらへら笑いながら「君だったら大丈夫だよ」とか言いながら、実は大丈夫と思ってるんだかどうか分からない。この辺がふつうのリアルなドラマじゃないところなんだよね」


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舞台上で成立しうるすべてがリアリティ

――― テレビドラマ版はダンスや歌、ハイテンションな演技と80年代らしいつかテイストがたっぷり盛り込まれている。どう現代風にアレンジするかも見どころだ。

小宮「どうするの、そもそもつかイズムっぽくやる? リアルにする?」

裕樹「テレビドラマ版は演出が舞台っぽいんですよね。曲の入れ方から何から、ラストへの持っていきかたまで。「ザ・つか」という感じですよね」

小宮「沖雅也なんて、つかこうへい作品じゃなきゃ、あんなテンションにならないよね! 言葉も80年代だから成り立ったみたいなところがあるし、言い回しも難しいじゃない。いや、わかんない、今回も南くんだけは当時のあのテンションでやってほしいですよね」

裕樹「ひとりだけ思いっきりマンガですからね(笑)。出てくるだけで笑えるじゃないですか」

南「そこを目指して……やっていきます(笑)。ちょっとプレッシャーかかっちゃいましたけど」

裕樹「チラシ撮影のとき思いきり、ウルトラマンの変身ポーズしてもらっちゃったもんね(笑)」

南「このチラシを見たウルトラマン(『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』)のファンの方が「このポーズはもしかして……」「なんでこのポーズしてるんですか?」って、ちょっとざわつきました(笑)」

裕樹「つか作品は、基本的にセットがぜんぶ抽象的ですよね」

小宮「ジャージ姿の役者だけ舞台上にいてね。セットはなし! みたいなね」

裕樹「そうなんですよ。だけど今回はたぶんリアルな感じの具象セットになると思います。大きな見せ場が二カ所あるので、そこでダイナミックな演出をして、つかイズムに近づけていけたらなと思っています」

小宮「僕の好きな南河内万歳一座の内藤(裕敬)くんの言葉に、「舞台上でのリアリティというものを僕はこう説く。――舞台上で成立しうるすべて」というのがあるんです。だから、ナチュラリズムに固執しなくても、そのキャラクターがやってリアリティがあるなら、めちゃくちゃ変なことやっててもいいんですよ。それが混然一体となってリアリティとして成立すればいいんじゃないかなと思います」


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ラストに向かってしり上がりにドタバタしていく

――― この作品の魅力の一つは、クライマックスに向けてしっちゃかめっちゃかなコメディになっていくところだ。

裕樹「テレビドラマ版、映画版、どっちのクライマックスもけっこう適当というか、積み上げてきたストーリーを混ぜっかえすみたいな感じなんですよね(笑)。つか作品は全体的にそうなんですけど。これをどう脚色するかが、(作・演出の)田中(大祐)の腕の見せどころだと思います」

小宮「コメディとコントってものすごく基本で言えば、同じなんです。でもちゃんと内面に落として喜劇にするとか、あえてツッコミを入れないで、目で切り返すだけで喜劇にするなんていうのが、芝居のほうで。でも、基本の基はどちらも一緒です」

裕樹「今回のラストも、テレビドラマ版、映画版と同じようにドタバタするつもりでいます。シチュエーションで笑っていただきたいですね」

――― 最後に意気込みを。

小宮「テレビドラマ版の、北村和夫さん演じるセツ子のお父さんは、表面的にはひょうひょうとしたお父さんに見えて、その中で深いことを言ったりする。そういうことを軽くやれればいいなと思います。直球ど真ん中で見ていたころから40年経って、初めてつか作品をやるっていうのが、自分では新鮮なようなチャレンジのような気がしています。当時は若者の目線だったのに、お父さんの役をやるというのがなんだか面白いですね」

南「沖雅也さんのように、出てくるだけで笑えるような、存在感のある恋敵を目指したいと思います(笑)」

石井「つかこうへい作品には、なにかしらの形で関わりたかったので、参加できてとても嬉しいです。お芝居を楽しみたいと思います」

裕樹「たくさんの人に見てもらいたいですね。もともと面白いものを、僕らがもっと面白くできるかどうかは、これからにかかっている。来ていただいて損はないと思います」



(取材・文:石川香苗子/撮影:友澤綾乃)


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