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千住 明

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国産オペラとして異例の再演を重ねる名作が初演の地に凱旋

日本最古の歌集に綴られた普遍的な想いを音楽で紡ぐ

コンポーザー/アレンジャー/音楽プロデューサーとして数多くのヒット作を手がける千住明が作曲し、2009年に初演された演奏会形式のオペラ『万葉集』。万葉集の登場人物を題材に、俳人・黛まどかによって綴られた物語と、千住の生み出す旋律が見事に調和し、各地で再演を重ねてきた。そしてこの4月、実に10回目となる公演が東京文化会館 大ホールで行われる。何度かの改定を経て「ひとつの完成形として落ち着いた」と千住自身が胸を張る本作は、オペラに対する先入観や常識を超えて幅広い客層に届くはずだ。

PROFILE

千住 明(せんじゅ・あきら)のプロフィール画像

● 千住 明(せんじゅ・あきら)
1960年10月21日生まれ、東京都出身。東京藝術大学作曲科卒業。同大学院を首席で修了。藝大在学中から作曲家・編曲家・音楽プロデューサーとして、ポップスから純音楽まで多岐にわたり活躍。代表作にピアノ協奏曲「宿命」(ドラマ『砂の器』劇中テーマ曲)『四季』『日本交響詩』、オペラ『隅田川』『万葉集』『滝の白糸』など。
 さらに、映画『愛を乞うひと』『黄泉がえり』『涙そうそう』、ドラマ『ほんまもん』『風林火山』『流星ワゴン』や、NHK『日本映像の20 世紀』『ルーブル 永遠の美』、アニメ『機動戦士Vガンダム』『鋼の錬金術師FA』、CMなど数多くの作品で音楽を担当。日本アカデミー賞優秀音楽賞など受賞歴多数。東京藝大特任教授。

音楽家としてのキャリアの全てを注ぎ込んだ作品

――― オペラ『万葉集』は、女流歌人・額田王をとりまく恋物語と生涯を描いた明日香風(あすかかぜ)編と、天武天皇崩御後の大津皇子と大伯皇女の悲劇を描いた二上山挽歌(ふたかみばんか)編から成る。……こう書くと、古典の知識がなければ楽しめない作品という印象を与えてしまうかもしれないが、決してそうではない。そのことは後で触れるとして、まずは初演のいきさつから紐解いていこう。

「指揮者の大友直人さんが当時音楽監督を務めていた東京文化会館の舞台芸術創造プログラムで、2007年に作詞家の松本隆さんと一緒に、お能の『隅田川』をモチーフにしたオペラをやったんです。小ホールで、合唱を含めて25人くらいの小編成でした。これが高い評価をいただいて、もう1作ということになり、今度は僕と同じ年代の方に台本をお願いしようと思って出会ったのが黛まどかさんでした。松本さんはまるで歌詞のような台本を書いてくださいましたが、黛さんの台本はやはり俳句のような、さらに削ぎ落とされた表現でした。それで2009年に『万葉集〜明日香風編〜』を上演し、これはまだ誰もやっていない世界かもしれないという大きな手応えがありました」

――― 翌2010年には平城京遷都1300年記念事業の一環として、明日香風編を奈良で再演。そして2011年、再び東京文化会館 小ホールに戻り、明日香風編の改定版とともに二上山挽歌編がお披露目された。

「二上山挽歌編を書いたのは東日本大震災のすぐ後です。あの未曾有の大災害を経て、黛さんも僕も、日本人の心が皆ひとつになるような作品にしたいという思いで書きました。歌というものはとても強い力を持っていますから。そこで僕は、今までプロとして作ってきた実用音楽のハウツーを全部入れようと思ったんです。テレビドラマや映画の音楽を数多く手がける中で培った、人の心をつかむコツを全て使おうと。それで皆が一緒に祈ることができる作品を作りたい、作らなければいけないという気持ちでした」

――― 「特にフィナーレの部分は、ここまで突き抜けられたら何も思い残すことはないくらいのものが書けた」と千住は言う。こうしてオペラ『万葉集』は、より大きな意味を持つ作品に生まれ変わった。

「最初に考えていたコンセプトは、日本最古の歌集である万葉集の非常にシンプルなスタイルを現代に翻訳するというものでした。でも二上山挽歌編を作ったときには、万葉集を通り越して日本人の心を次の時代に伝えていこうというモチベーションを持って、それまでのキャリアを全てつぎ込みました。スコアの最後にはこう書いたんです……“Pray for Japan”、日本のために祈ります、と。ですから、このオペラ『万葉集』は、むしろ何十年もかけて作ったというくらいの自負があるんです」

――― ここで千住が強調したのは、前出の「実用音楽」というキーワード。オペラとは対極にあると思えるこの言葉が、オペラ『万葉集』の本質に触れる鍵となる。

「文化は活気のあるところに育ちます。そして音楽も、聴いてもらえなければ命を持ちません。命を持たない音符を書くことほど、可哀想なことはないと思うんです。僕が手がける音楽にはJ-POPやK-POP、アニメの劇伴もあります。いつも聴いてくれる誰かをターゲットに置いていて、わからない人は聴かなくてもいいとは決して思いません。僕らより前の時代にはクラシックとポップスの間に確実にバリアがありましたが、その壁を僕は取ってきたという強い自負があります。だからこそ、オペラ『万葉集』のような作品に自信を持って取り組めるし、むしろこれを本流にしていこうと思っているんです」

インタビュー写真

ポップスのファンも度肝を抜かれるはず

――― 小編成で始まった本作は、2013年の東京オペラシティ公演でオーケストラバージョンに進化。その後も京都、名古屋、群馬で再演され、合唱に参加した人はのべ1,000人を超えるという。

「1回歌うと、まだどこかで歌いたいって言ってくださる方が多いんです。編成に関しても、初演のときからいずれは大編成にするつもりで書いていたので、早くオーケストラバージョンに進みたかったですし、始まりは小ホールでしたが、ずっと大ホールに帰ってきたいと思っていました。だから今回の公演は“凱旋”なんです。去年改定したバージョンでひとつ落ち着いて、しかも10回目で大ホールに帰ってこれたことに、とても運命的なものを感じます。気持ちも新たに再びデビューするような思いがあります」

――― そして今回、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の特別演奏会として行われる10回目の公演では、これまで基本的に大友直人氏が指揮を担当してきたのに対し(愛知公演のみ千住が指揮)、千住の2年後輩となる藤岡幸夫にバトンタッチ。

「彼は僕と同じ慶應義塾出身で、若い時期に同じ空気を吸って育っています。そこはとても大切で、どこか共通の香りを持っている。そして、慶應の学生オーケストラから指揮者を目指して何年も苦労を重ね、中心で振れるようになった数少ない人間でもあります。だから今回は縁が結びついたような感じがしますし、年下の指揮者に引き継ぐことができたというのも、僕にとってはとても大きなことです。10月にはハンガリーのソルノク市での上演も決まっていて、そこでは現地の音楽総監督を務める井ア正浩さんが指揮をします。
 こうして今後はいろんな人に、いろんな場所で公演を重ねていってほしい。その中で、僕自身はアートディレクションというか、この作品に興味を持ってくれている美術家やアーティストたちと一緒にコラボレートできるような形をプロデュースしていけたらなと思っています」

――― このように、日本産のオペラが10回も公演を重ねるのは異例のこと。その理由のひとつは、日本語の抑揚を活かしながら豊かな美しさをたたえたメロディにある。

「日本語としての自然な発音、自然な高さを大切にして作っています。逆に、歌謡曲やポップスはメロディに“当て込む”作り方をしてもよく、たとえば「海(うみ)」の語尾が上がって「膿(うみ)」に聴こえても許されます。でも欧米のポップスでは絶対そういうことはありません。レイ・チャールズが「いとしのエリー」をカバーしたとき、英語の歌詞に合わせて節回しが変わったのが良い例です。そして僕は、このオペラを世界に出せる作品のつもりで作りました。松本さんにしても黛さんにしても、台本を読むと音の高低や長さがそこに現れてくる。文章の中にメロディが眠っていて、僕はそれを探すんです。だからこれを海外に持っていって、イタリア語とか英語でやっても意味がない。我々がプッチーニをイタリア語で歌うように、どの国でも日本語で歌うんです」

――― さらに千住は「いわゆるオペラのイメージにとらわれず、特に若い人たちに観てもらいたい」と力を込める。クラシック音楽の魅力を幅広い層に向けて開放し、たくさんのヒット作を生んできた千住の言葉には説得力がある。

「普段ポップスを聴いている人たちも、きっと度肝を抜かれますよ。ソリストが大和言葉で歌いながら、その後ろでコーラスが現代語で歌うという立体構造になっているので、古典に詳しくなくても理解しやすいと思います。万葉集というと難しいと思われるかもしれませんが、明日香風編も二上山挽歌編も、それぞれ50分の短編映画のような感覚で観ていただける作品です。登場人物の関係性を知ればもちろん面白いですが、たとえ知らなくても、その中に夢や幻想を見ることができると思います。特別な教養がなくても大丈夫なので、ぜひたくさんの方に聴いていただきたいです」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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公演情報

「オペラ 万葉集」のチラシ画像
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 特別演奏会
オペラ 万葉集


2017年4月13日 (木)
東京文化会館 大ホール
HP:公演ホームページ

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