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清水愛恵・中弥智博

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バレエの新たな潮流となっている振付家の傑作を一挙に上演

シンフォニック・バレエの鬼才による日本初演作を含む3本で、 幅広い観客に本物のバレエを

古典から創作バレエまで幅広いレパートリーで知られる東京シティ・バレエ団の『TOKYO CITY BALLET LIVE』シリーズ。今年は、鬼才ウヴェ・ショルツによる「Octet(オクテット)」の日本初演を目玉とする3本で構成。ダンサーを音符のように動かし交響曲を奏でるシンフォニック・バレエの完成者として名高いショルツの作品を、東京シティ・バレエ団はどのように見せてくれるのだろうか。「Octet」でペアを組む清水愛恵と中弥智博の2人が、公演への意気込みを話してくれた。

PROFILE

清水愛恵(しみず・まなえ)のプロフィール画像

● 清水愛恵(しみず・まなえ)
ティアラジュニアバレエ教室を経て、09年に東京シティ・バレエ団入団。2010サイトウキネンフェスティバルオペラ「サロメ」、神奈川県立音楽堂オペラ「アーサー王」などのオペラ公演や、「白鳥の湖」「ジゼル」「ロミオとジュリエット」「カルメン」「コッペリア」「真夏の夜の夢」「ベートーヴェン交響曲第7番」などに出演。平成24年度文化庁次代を担う子どもの文化芸術事業体験にて「コッペリア」スワニルダ役、「くるみ割り人形」金平糖の女王役に抜擢される。今回の公演では、「パキータ」のエトワール(30日)と「Octet」第1・4楽章ソリスト(31日)を務める。

中弥智博(なかや・としひろ) のプロフィール画像

● 中弥智博(なかや・としひろ)
12歳でバレエを始め、2000年より夏山周久氏に師事。01年にアメリカへ留学し、帰国後プロダンサーとして活動を始める。09年に松岡伶子バレエ団に入団。同団公演「くるみ割り人形」「白鳥の湖」「ジゼル」「レ・シルフィード」「ロミオとジュリエット」「コッペリア」ほか多数出演。自身の振付作品として、日本バレエ協会主催『平成28年度Balletクレアシオン』にて「Synapse」、東京シティ・バレエ団公演『シティ・バレエ・サロン vol.5』にて「sinfonia eroica」を発表。16年に東京シティ・バレエ団に入団し、同年「くるみ割り人形」にてコクリューシュ王子を踊る。今回の公演では、「Octet」第1・4楽章ソリスト(31日)を務め、清水とペアを組む。

● 東京シティ・バレエ団
1968年、日本初の合議制バレエ団として設立。古典バレエと創作バレエを両輪に、110を超える作品を上演。自主公演、公文協・鑑賞団体・学校公演、海外公演、オペラ助演などステージ数は約1,500にのぼる。94年には日本で初めてバレエ団として自治体(東京都江東区)と芸術提携を結び、ティアラこうとうでの定期公演や、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団との教育プログラム、地域商店と協働したイベントなどにも注力している。16年7月に公益財団法人設立。

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動きや表現力に磨きをかけて臨む「Octet」

――― 音楽と一体化した振付で高い評価を受け、2004年に45歳の若さで世を去ったウヴェ・ショルツ。東京シティ・バレエ団では、同じくショルツが手がけた「ベートーヴェン 交響曲第7番」を、日本初演を含めてこれまでに3回上演している。今回の「Octet」では、その「ベートーヴェン 交響曲第7番」で指導を手がけたジョヴァンニ・ディ・パルマと木村規予香を指導に迎える。

清水「この作品に出られることももちろん嬉しいですが、ジョヴァンニさんと規予香さんによる濃いリハーサルがとにかく楽しみです。以前「ベートーヴェン 交響曲第7番」でお2人の指導を受けたとき、とても貴重な時間を過ごしたんですよ。特にジョヴァンニさんの要求は容赦なくて、例えば今まで使い切れていなかった筋肉を極限まで使うというようなことを、要求されては応えて、要求されては応えての繰り返し。その積み重ねで身体も心もすごく強くなって、本番では緊張感よりも“ここまでやったから大丈夫”と自信を持って臨むことができました。だから今回もすごく楽しみですね」

中弥「まず、僕は今まで海外の有名な振付家の作品を踊る機会がそんなに多くなかったので、そういうものに触れられること自体がすごく嬉しいです。バレエ団から海外のいろんな振付家の作品を踊る機会を与えられ、ウヴェの作品をずっと踊ってこられているジョヴァンニさんや木村さんに、バレエの本場で行われているそのままのリハーサルを指導していただけることは自信につながると思います。身体条件に恵まれた海外のダンサーに自分がどこまで迫れるかというプレッシャーはとてもありますが(笑)。しっかり引き締めてやらなければ、という気持ちになる作品です」

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――― 「Octet」は、メンデルスゾーンの「弦楽八重奏曲 変ホ長調 作品20」をモチーフにした作品。

中弥「ウヴェの作品は、音楽のなかでのダンサーの動きが幾何学的に作られている印象があります。「ベートーヴェン 交響曲第7番」も「Octet」も、繰り返しの動きがいろいろ出てきて、そこに少しずつダンサーが変わったり振りが増えたりしていく。その繰り返しを単にリピートするのではなく、繰り返すことの意味をどこまでキャッチしながら踊れるかがポイントになるでしょうね。
 これといってストーリーやキャラクターに特徴がある作品ではないので、それこそ動きや表現力に磨きをかけないとお客さんを満足させることはできないし、たぶん振付家としてのウヴェも満足してくれないんだろうなと。だからすごく素敵な作品であると同時に、難しい作品でもあると思います」

清水「「ベートーヴェン 交響曲第7番」は、いろんなバレエ団が上演してきたものを観たのですが、同じ振付、衣装、セットで踊っていても、それぞれのバレエ団のカラーとか、ダンサーの踊るニュアンスとかが全然違っていて、これは同じ振りで踊っているのかって思うくらい全く別物に見えたんです。今回も東京シティ・バレエ団ならではの「Octet」を見せられたらいいなと思います」

中弥「今回が日本初演ですし、キャスティングが発表されてから映像をいただいたので、どうしても“これを自分たちが踊るんだ”という目線で観てしまいましたね(笑)」

清水「お客さん目線としては、「ベートーヴェン 交響曲第7番」に比べると大人っぽい雰囲気の作品だなと思いました」 中弥「雰囲気としては、ワインとか飲みながら、食事しながら見れそうな感じだよね」


アットホームで、刺激を与え合えるバレエ団

――― 清水と中弥は、昨年7月に上演された「白鳥の湖」のパ・ド・トロワでも組んでいる。年齢は中弥の方が上だが、東京シティ・バレエ団には清水が09年入団で、中弥は昨年入団したばかり。そんな2人はお互いをどう見ているのか尋ねてみた。

清水「常に満足しないで何かを求めているという印象です。「白鳥の湖」で組んだときも、別にテクニックは全然問題ないところでも、もうちょっとこうした方がいいと思うっていうことをすごく言ってくれて。たくさんのリハーサルが重なっている忙しいなかでも妥協せずちゃんと上を目指している。そういう姿にはとても良い刺激を受けますし、一緒に組んでもいろいろ作り上げていけます」

中弥「まず第一印象として、スタイルがいい。レッスンで初めて見て、まだ話もしたことがないときから、脚の綺麗なダンサーがいるなって思っていました。そして、リハーサルでもそうですが、特に本番でパッと咲く華を持っているなと。本格的に一緒に踊ったのは、僕が入団して半年でキャスティングしていただいた「白鳥の湖」のパ・ド・トロワが初めてでしたが、とても心強かったのを覚えています。そのときは岡博美さんを含めた3人で、それぞれが空気感とか世界観をきちんと持っていて、何ひとつ気を遣わずにストレスなく踊ることができました」

清水「むしろ、すごく楽しかったですね。そういう関係性は全部踊りに出ますから、いい関係だったなと思います。あのときはローラン・フォーゲルさんという方がモナコから指導に来てくれたのですが、彼の要求についていくことにただただ必死だったという思い出があります」

中弥「一緒に戦った仲間というか戦友みたいな感じで、チームワークがギュッと強くなりましたね」

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――― こうした2人のやり取りからは、「バレエの楽しさを豊かさを、すべての人と分かち合う」という東京シティ・バレエ団の理念が伝わってくる。

清水「私は高校を卒業して入団したのですが、アットホームな中にも仲間同士で毎日刺激をもらえる、とても雰囲気のいいバレエ団です。みんな一人一人がしっかり自分を持ってやっていて、それでいて自分だけが目立てばいいとか、自分だけができるようになりたいとかではなく、みんなが一緒になって一つの作品を作り上げていくという団結力がある。それはすごく強いと思います」

中弥「僕は入団して1年ですが、ダンサーそれぞれがバレエ団以外でも舞台出演や指導、創作などの仕事もしていて、視野の広いバレエ団だなというのが最初の印象でした。僕も振付作品を発表したりしているので、そういういろんな人たちと接することでアイディアをもらえることがあります。いい意味で幅広いものを取り入れながらやっているバレエ団だと思います」


生の舞台でしか味わえない高揚感を

――― すでに深い信頼関係で結ばれた2人。3月の公演に向けて、今どんなことを思っているのだろうか。

中弥「「白鳥の湖」のパ・ド・トロワは、どちらかというと客席側に対してのイメージが強いと思うんです。宮廷舞踊を継承した古典作品なので、見ている人を満足させるっていうことが第一にある。でも、「Octet」のような創作作品で見ている人を満足させるには、まず舞台上なり踊りの中でお互いのパートナーシップがうまくできていないと、そこで何が起きているのかを見ている人に伝えられない。
 さらに僕の中には、2人で踊るけれどもお互いがライバル同士っていうイメージもあります。これはキャリアとか年齢に関係なく、一人のダンサーとして舞台に立ったときに、彼女の良いところを引き出す力が僕にあるか、僕の良いところを引き出してもらう力が彼女にあるか。そういうところも踏まえたパートナーシップをどこまで作れるかというのが楽しみですね」

清水「たぶんリハーサルでは辛いこともたくさんあると思うんです。簡単に要求に応えられるとは想像できなくて、やっぱり悩んだり、大変なことの方が多いとは思いますが、2人でコミュニケーションをとりながら、ジョヴァンニさんと規予香さんの要求に対して一緒に頑張っていきたいです」

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――― 2人はさらに、「バレエを観たことがない人もぜひ来てほしい」と口を揃える。

中弥「今はいろんなメディアで芸術作品に触れる機会があって、バレエに関してもテレビにバレエダンサーが出ていたり、ニュースでローザンヌ国際バレエコンクールのことが取り上げられたりしています。でも、やっぱり劇場に行って生の空気を感じることが第一段階だと思うんです。作品を解釈するということについても、観ている人が、踊っている僕たちが全然思ってなかったようなことを感じてくれていたりする。
そして、それはお客さんが“解釈をしよう”と一歩踏み出してくれたからだと思うんです。なのでこちらから客席に対して“これはこうです”とアピールしてしまうのは、ちょっと違うかなと。やっぱり難しくてもいいから、わからなくてもいいから、一度劇場に観に来てほしい。東京シティ・バレエ団の公演はチケット代も比較的手頃なので、バレエという芸術に一歩踏み出すきっかけにしていただけたらいいなと思います」

清水「文化庁主催の「文化芸術による子供の育成事業」で、いろんな地方の学校に行って子供たちにバレエを見せる機会があるんです。本物のバレエを観たことのない子がほとんどですが、その子たちの思い出に残るように、将来あんなふうになりたいと思ってもらえたらいいなと思いながら踊っています。子供たちはすごく素直なので、つまらなければ寝ちゃうし、面白ければ観る。だからこちらも本気で踊らなければいけませんが、逆にそういう反応を見せてくれるからこちらも気持ち良く踊れるんです。これを読んでくださっている皆さんも、ぜひこの機会に、本物の、本場のバレエを一度観てほしいです」

中弥「芸術って呼ばれるものはどうしても敷居が高いイメージがありますが、気軽に来てもらいたいですね。生でしか味わえない、肌で感じる高揚感を伝えていければいいなと思っています」


(取材・文&撮影:西本 勲)

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