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アンドレア・バッティストーニ

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世界が聴きたがる若々しき音。東京フィルハーモニー交響楽団首席指揮者インタビュー

演奏することは生きること。バッティストーニが語る音楽世界

 昨年10月、格式高い伝統ある東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者に、イタリアの若き才能、アンドレア・バッティストーニ氏が就任した。彼の音楽は早い時期から鮮やかな色彩を見せ、これからの時代を花開かせる指揮者として国際的に高い評価を得ている。今回の来日に際して、彼の音楽観と東京フィルとの共演についてお話を伺った。

PROFILE

アンドレア・バッティストーニのプロフィール画像

● アンドレア・バッティストーニ
指揮者。イタリア、ヴェローナ出身。スカラ座、トリノ・レージョ劇場、カルロ・フェリーチェ劇場、ヴェニス・フェニーチェ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、スウェーデン王立歌劇場、アレーナ・ディ・ヴェローナ、バイエルン国立歌劇場等と共に、東京フィル、スカラ・フィル、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管、イスラエル・フィル、ベルリン・ドイツ・オペラ等世界的に最も著名なオーケストラ等とも多くの共演を重ねている。
 2013年ジェノヴァ・カルロ・フェリーチェ歌劇場の首席客演指揮者に就任。2015年東京フィルハーモニー交響楽団首席客演指揮者を務め、2016年10月首席指揮者に就任。

インタビュー写真

音楽人生のスタート、オーケストラへの恋、そして指揮者に

――― キャリアのスタートについてお聞かせください。

「私の転機は、チェロ奏者として音楽学校に在学中、「オーケストラで弾かないか」と誘われた時です。初めてオーケストラで演奏した瞬間、私の世界は完全に変わってしまいました。コンサートの音楽に恋してしまったのです。人と「共に」演奏する、「共に」創造するという感覚は、一人では存在しません。それがとても特別だったのです。
 そして知れば知るほど、指揮者という存在に惹かれていきました。というのも、指揮者はオーケストラ全体を一つの楽器として奏でる演奏者だと思ったからです。全ての楽器を一度に奏でることができる。
 イタリアでは、若い指揮者は少しイメージしづらいものです。指揮者は大抵40〜60歳です。先生に「指揮者になりたい」と言っても、いつも笑われました。「まあ、20年後くらいに、ひょっとしたらね…」と言う感じです。だから私は友人たちと小さなオーケストラを結成して、コンサートをしました。音楽学校では私が指揮することは許されなかったからです。それは自分自身に何ができるかを理解するのにとても重要でした。「できないよ」と言われたから、できるように戦ったんです。友人たちと実験を行うのは楽しかったですしね。」

音楽と人生

――― これまでで、一番記憶に残っている体験は何ですか?

「初めてアレーナ*で指揮をした時は本当に素晴らしい体験でした。もっと若かった頃、アレーナの上の階の席に座り、下の指揮台を眺めていました。でも今は指揮者として舞台上からかつての席を見上げている。あそこにいたんだな、と。感慨深かったですね。」
*イタリア・ヴェローナにある野外歌劇場。古代ローマ時代の円形闘技場を利用した劇場で、オペラを中心に多様な公演が行われている。

――― コンサートの間、最も楽しい瞬間はいつですか?
「コンサートの間はずっと楽しんでますね… 「一番退屈な時」だったら言えますよ、始まる前の30分です(笑)。不安だからじゃなくて、舞台に上がるのが楽しみだからです。30分前は楽屋から出て、ぶらぶらしちゃうんですよ。そうすると舞台監督がパニックになる。「指揮者がいないぞ!」って(笑)。そして、舞台に上がる最初の一歩が一番ワクワクします。」

――― バッティストーニさんの音楽に影響を与えるものは何ですか?

「色々なものの影響のミックスが重要です。新しい作品に向かう時は必ず本を読み、哲学を学び、その雰囲気を理解するために様々なことをします。人生の経験が音楽に最も影響を与えるのです。人生のより内奥の部分で、音楽は意味をなす。もし以前好きではなかった作曲家の音楽を好きになり始めたら、それは人生経験の影響だと思います。自分自身の発展が音楽への向き合い方を変えるのです。
 音楽は生きているものです。演奏家の熱意、人生経験、感情は作曲家のそれらと同様に重要です。それがなければ、スコアはただ面白いことが書いてある紙束に過ぎない。この紙束は私を必要としているのです、音楽として生きるために。」


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東京フィルハーモニー交響楽団について

「各国のオーケストラはそれぞれの国の魂(スピリット)を継いでいると思います。日本のオーケストラ、中でも東京フィルには驚きました。彼らは最初のリハーサルの段階からほとんど完璧なんです。イタリアは逆です。イタリアの最初のリハでは、中にはスコア読んでない人もいるし、おしゃべりしているし、一体となるのがとても難しい(笑)。だがそれがいいのは、段階を踏んで向上していき、本番で完成させることができる点です。一緒にステップを踏むことができる。だが日本では、最初のリハですでに素晴らしいものができてしまう。難しいのは、そこからエキサイティングな瞬間に持っていくことです。よく準備されたものを、より刺激的なものにすることが、私の仕事だと思います。
 皆とてもプロフェッショナルです。でも私はただプロフェッショナルなものが欲しいわけじゃない。プロフェッショナルなのは「良」です。それを「最高」や「すごい」という芸術の域に持っていくのが、難しくも面白いことです。」

演奏会、プログラムについて

――― 今後の東京フィルとの共演では、ラフマニノフ、チャイコフスキー、ストラヴィンスキー等、ロシアの音楽家が多いですね。

「理由はハッキリしないのですが、ロシア音楽が好きなんです。音楽は人生だと言いましたが、プログラムに取り上げた音楽はどれも正に人生を感じさせる音楽です。とても感動的で、人を巻き込む力がある。
 2017-18シーズンの東京フィル「午後のコンサート」で『ロミオとジュリエット』が特集されているのは、物語の舞台であり、私の故郷でもあるヴェローナでは、彼らが私たちの隣人のような存在だからです(笑) 。そして多くの素晴らしい音楽が書かれている。『ウェスト・サイド・ストーリー』のバーンスタインの音楽も特に良いですね。古典的な物語を現代のスタイルとミックスする手法は重要です。クラシックなものが生きていくための鍵となります。ジャンルの壁を崩すことも必要です。ハイレベルのものであれば、それがクラシックだろうとポップだろうと関係ありません。
 私たちはこれらの音楽を、可能な限り「THEATRE(劇場=演劇)」という精神に近づけるように選びました。時に、コンサートは「THEATRE(劇場=演劇)」の一つであるということを忘れられてしまいます。物語を語るものであるということを。だから私はその精神を保ち続けたいのです。
 これからも、常に創造的かつ熱心でありたいと思います。一般に、仕事はルーティンとしてとらえられがちですが、それは音楽にとって死を意味します。だから、常に音楽の真髄を探り続けていきたいです。」


(取材・文:關 智子/撮影:友澤綾乃)

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